第12話 戦いの後
結局あの後、集落が無事なことを確認したジークは意識を手放し、起きたのは2日後の朝だった。
レオン達は帰ってきた後、慰労会を開くと言われたが、ジークが起きるまで待つということで、まだ慰労会はされないでいた。
そして、慰労会という名の宴が終わった翌日。
「族長…あの時の質問をしてもいいですか」
「あぁ…聞かずとも分かる。話は簡単だ。お前に魔力感知を教えなかったのは、教えたら直ぐにでも仇討ちに行くと判断したからだ」
「…返す言葉もありません」
「2年前の時でさえあれだ。この判断は間違って無かったと思うぜ」
「ですが…今回に限っては知っておきたいものでした」
「そうだな。そいつぁすまなかった。お前を信用してやりゃ良かったな」
ジークの苦言に素直に頭を下げるトラヴィス。
今回のことに関しては、彼も思うことがあったのだろう。
「いえ、私の行動の結果からそう判断されたのです。当然のことであったとも思います」
「…なら、もう言いっこ無しだ。そいつで終わりにしよう」
「はい、養父上」
固く握手をするジークとトラヴィスの二人。
「で、今度はヴァーミリオン。そっちの話だったな」
「ありがとうございます。では、あの時ですが、僕達は敵を倒した後、敵から魔物が集落に向かっていると言われ、直ぐに戻りました。しかし、それらの魔物は集落に辿り着くことなく、倒されていました。一体どういうことでしょうか?」
「…変な魔物が来てたのは分かっていた。だから魔力共有の範囲内に一定数以上の魔物が入れないようにした。で、やつらが入れず、狼狽えてる所を俺達が処分した。それだけだ」
「…そんなことができるんですか」
「この集落、ひいては魔人族を護るのが族長の役目だ。それぐらい出来るさ。ジーク、お前にもいずれ教えてやる」
「え!?ジーク、お前…次の族長なのか!?」
聞き過ごせなかったノアが思わず口を開く。
ジークはあっけらかんと肯定する。
「そうだ。言ってなかったか?」
「聞いてねぇよ…だから婚約者二人居るのか…」
「ジーク、今回のことでもうお前に不満を持ってる奴は居ない。という訳で、もうそろそろ婚姻の儀を…」
「それについてですが、少し待ってもらえませんか。族長」
族長の提案に待ったをかけるジーク。何か話があるようだ。
「…何でだ?もう既に遅れてるんだぞ?」
「ですが、遅れることによる影響は無いですよね?ならば私は外の世界のことを知りたいのです」
「ジーク…お前もか…」
ジークの話を聞き、額に手をやり、ため息を付くトラヴィス。
「レオン。お前らの旅に俺も一緒に行かせてくれ。お前達と居ると成長がある」
「俺らは構わないけど…他の人達は納得するのか…?」
そう言ったレオン達の反応を待っていたかのように。
「ジーク!今の話聞こえたわよ!延期して外に出たいってどういうこと!?」
隣の部屋の扉が開き、マーガレット、フローラ、レティシアの3人がやって来る。
「私達聞いてないよ…?」
「…ん。兄さん、私も知らなかった」
「言って無かったからな。でも、分かるだろ?集落だけじゃ駄目だ。ここを護る為には外のことも知る必要がある。…それに何より、レオン達に恩を返したいんだ。俺が力になれるなら…なってやりたい」
「私達を置いてくの?」
「置いていく訳じゃない。…帰ってきたら結婚しよう。だから、待ってて欲しい」
顔を落とし、黙り込むマーガレット。そんな彼女を真っ直ぐ見つめるジークと板挟みになるフローラ。
「…絶対だからね。もう行こ、フローラ、レティ」
「ごめんな…待たせてばっかで。後でちゃんと話をしよう。家に居てくれ」
その言葉に返事をすることなく、マーガレットはレティを連れ、そこから去っていく。
「マーガレットは私に任せて。何としてでも、家に居させる」
「…頼む、フローラ」
ジーク達の周囲を静寂が包む。
そんな空気を察したか、ノアがジークに絡む。
「ジーク、お前ェ!何で嫁さん二人居て俺らに着いてくんだよぉ!?自分から幸福を捨てる気か!?」
「言ったろ…ここを護るには外のことも知らないといけない。自衛の為に外へ学びに行く。この判断は間違ってないと思う」
「だけどよ…周囲のことも考えてやれよ…!」
「…それは悪かったと思ってる。でも結局は同じなんだ。前から言おうと結論は変わらない。認めてもらうしか無いんだ」
「なら、それをちゃんと言ってやれよ…!お互い話し合え!今日!出る前に!」
「あぁ。だから話をする」
「お前ら。そのへんにしとけ。ジーク…どうしてもか?」
「はい。どうしても、です」
「…分かった。但し、二人の理解を得てこい。今直ぐだ。それと旅は必ず生きて帰って来い。そして早く俺を引退させろ」
「はい!行って来ます!」
「あぁ、それと…」
「?」
「よくあのスキルを使わなかった。そして、これからも使用は禁ずる。良いな」
「…はい。存じています。では、二人を追いますので」
そこから飛び出し、彼女達を追うジーク。
またもため息を付くトラヴィス。
「はぁ…あぁいうとこは本当、あいつにそっくりだな…ったく…。ノア、ありがとな。はっきり言ってくれてよ」
「いや、俺は言いたいこと言っただけなんで…」
「かもな。俺には自分にも言ってるように聞こえたぜ。ま、そこは聞かねぇ。今日は取り敢えずこれでお開きだ自由に過ごすといい」
「ありがとうございます。族長」
「レオン…あいつを頼むぜ」
◇◇◇
翌日、ジークに会うと話をして、二人からの理解を得たようだが、条件として今日1日二人に付き合うことになったようで、出発は明日になった。
「レオン…かなりここで時間経ってるけど良いのか…?」
「いい。そんな何ヶ月もかかる訳じゃ無いんだし。俺はジークを待つよ」
「ま…お前がそう言うなら、俺も良いけどさ」
「あたしも別に構わないけど…流石にそろそろ出るだろ?」
「あぁ、ジークの都合が付いたら出発する。そこは変えない」
「そこがしっかりしてんなら良い。なら、俺はレオンの決めたことに反対しねぇぜ
「ノア、ありがとう」
「良いってことよ」
◇◇◇
「何!?ギールがやられた!?一体どうなってるんだ…!」
「クレイ様…お気を確かに―」
「失せろ…流石に殺しそうだ…あれ、もう死んでるや。じゃ、いーらねっ」
クレイと呼ばれた少年はたった今報告に訪れ、死んだ部下を窓の方へ蹴り飛ばす。
窓ガラスが割れ、蹴り飛ばされた部下の身体が窓の外へ落下していく。
「クレイ…そう簡単に殺しちゃ駄目だ。限りが有るんだから…」
「ナサニエル…でもさ、こうも僕の周りで
「それは分かるけどな。僕達には目的があるだろ?それを忘れちゃいけない」
「ごめん…冷静じゃなかったよ。リーダー」
「久しぶりに、
「頼んでいいかな…冷静になりたいんだ…」
「あぁ、勿論良いともさ」
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