第11話 敵との応戦

場面は変わり、ノア対風竜ウインドドラゴン



「風竜か…炎はそんな好きじゃねぇんだよな…ま、いいや。倒せるだろ」



あまり乗り気では無い様子で剣を引き抜くノア。腰を落とし、片手で剣を構える。



-シャアアァァァーー!-


「うるせぇな…蛇かよ。行くぜ…-身体強化-」



一瞬で駆け出し、飛び上がるノア。既に風竜の背中を取っていた。



「炎魔法-炎舞フレイムダンス-」



幾重にも渡る炎の斬撃が風竜を襲う。背中にもろに喰らった風竜は悲鳴を上げる。


-シャアアアッッッッ!!-


「…使うのは初めてだな。-黒影-」



何故かノアが固有スキルを使用する。黒影と唱えると、ノアの全身に影のようなものが纏わりつく。


そのままノアは風竜の影に入り込む。



「……ここは影ばっかでやりやすいな。ありがてぇ。…なるべく、苦しませないようにしてやる。炎魔法-焰地獄球インフェルノボール-」



突如風竜の腹部の下から巨大な炎の球が現れる。

発動と同時にノアは風竜の影から抜け出す。


あまりに突然の出来事に、どうすることも出来ないまま風竜は炎の球に包まれてゆく。


風竜が悲鳴を上げるより早く、その巨体を燃やし尽くす。



「…せめて、来世は良い主人に会えると良いな」



◇◇◇



翼の魔族と戦闘の真っ最中のジーク。


だが、ジークは常に距離を取り、火球ファイヤーボール風刃ウィンドカッター地鳴アースクェイクなどの牽制のような攻撃を続けている。



「てめぇ!戦い方が周りくどいんだよ!もっとはっきり戦いやがれ!」


「断る。これは戦いじゃない。お前を仕留める…狩りだ。俺の一方的な」


「俺を狩る…だと?舐めやがってぇ!!」


「勝手にほざけ。俺のやり方は変えんぞ。ほら、周りを見てみろ」


「…何?何だと…俺の使い魔どもが」


「これで三対一になったとでも思ったのか?安心しろ。お前は俺の手で潰す」


「ちっ…好き放題言いやがって!てめぇはまじで殺す!!」


「それは無理だ」



激高した男が拳を打ち込んでくるが、それを難なく躱し、男の鼻を殴る。



「ぐっ!…はぁ、はぁ…」


「さて…そろそろ俺のことを教えてやるか。俺はジーク。10年前、お前が土竜をけしかけたせいで命を落とした、ローレンスの弟だ」


「なるほどなぁ…思い出したぜ。俺が全員殺してたった一人残したあいつか…!無様だったなぁ!空から見て滑稽でしか無かったぜ。仲間はとっくに死んでるってのに、周り気にして敗走したあの雑魚か!」


「…もう、黙れ」



ジークは男の眼前に現れ、右ストレートを喰らわせる。



「ぐああっっ!」


「俺が殺すお前の名前も聞こうと思ったが…やめだ。お前は獣だ。獣に名前は…無い」



心底軽蔑した目で男を見つめるジーク。彼にとってこの男は敵では無かった。


ただ狩るべき獲物。


相対していた時からそう言っていた筈なのに、肝心なその自覚が足りていなかった。


今、その覚悟が出来た。

頭を冷やし、酷く冷静になれた。


獲物であろうと、仇。獣だろうと敵であると再認識した。



「来い、獣。次で終わらせる」


「舐めたこと言ってんじゃねぇぞぉぉっ!」



真っ直ぐ突撃してくる獣。

その思慮の無さは最期まで変わらなかった。


(兄さん…これで果たす事が出来る…)


「が、がはっっ……」


「これで…終わった」



奴の胸部にジークの魔力の刃が突き刺さっている。

腕の魔力を解き、奴はぐらりと後ろへ倒れる。


それを見届けると、ジークも倒れかけるが、それをレオンとノアの二人が支える。



「レオン…ノア…」


「…凄い戦いだったな。思わず震えたよ…」


「終わったんだな…さぁ、戻ろうぜ」


「あぁ…皆の顔が見たい…」



その直後。



「ぎゃーっはっはっはっっ!!甘ぇんだよ、てめぇら!馬鹿が!」


「お前…まだ生きて…」



思わずジークも男の驚異的な生命力に肝を抜かれる。



「俺様の奴が手負い合わせてたった4匹なわけねぇだろ…大小合わせて千の魔物魔獣の大軍勢が!あの集落に突っ込む!」


「馬鹿言え!あそこはそんな簡単に入れねぇぞ!」


「だから馬鹿だと言ってんだ…てめぇらの同族から奪った血を使って生み出した奴らだ。魔力共有なんざ、簡単に破れんだよ!」



男の衝撃の告白に血の気が引く3人。

今すぐその場を去ろうとするが。



「今から行って…間に合うかよ…俺らが戦ってる時には、もう…始まってる…」


「何が目的だ、お前は!」



だが、既に男は事切れていた。

ジークはそれに気付かない。



「何がしたいんだ、お前は!俺達に何の恨みが…!」


「ジーク…もう相手は事切れてる…急ごう。まだ可能性はある筈だ」



◇◇◇



全力で集落へ戻る3人。その時、レオンはあることを考えていた。



(男はもう襲撃はされた後だ、あぁ言っていたが疑問がある…そんな軍勢が魔力感知に引っかからないものなのか?)



到着し、魔力共有をジークが二人に行う。

そこに広がっていた光景とは…



「…え?」



戦いが終わり、3人を待っている人々の光景だった。



「…どういうことだ?」


「お前ら…全部終わったのか?ほら、さっさと入れ。疲れてんだろ」



3人を代表して出迎えるのは族長トラヴィス。何事も無かったかのように煙を吹かしている。



「族長!魔物が襲って来たんじゃなかったんですか!?」


「あぁ、来たぜ。向こうで全部死んでる」


「…すみません、どういうことですか?」



流石に事態の意味が分からなかったレオンが族長に質問する。



「ちゃちな小細工じゃあ、俺ら魔人族の魔力共有は破れねぇのよ。そんだけさ。ほら、来な。飯が終わったら教えてやる」


「…はい」



その後、集落を救った者として大歓迎された。


ジークは二人の婚約者と、仲間に囲まれていた。

レオンとノアの二人もアリアに出迎えられ、その後多くの人々から感謝された。



「良かった…本当に無事に帰ってきて良かったよぉ…!」


「マーガレット、泣くな。これでもう、ここに脅威は無い」


「ジーク…今回ばかりは流石の私も心配した…」


「…悪かった。何とか、あのスキルも使わないですんだしな。俺も、マーガレットも。勿論フローラも無事で良かった」


「兄さん!熱いですね!」


「馬鹿!邪魔すんな!」



シルヴァーが口を挟んだアーサーの頭を叩く。



「いったぁ…何するんですか!」


「こっちの台詞だ!…やっと安心出来るんだ。その瞬間ぐらい邪魔するな…」


「シルヴァーさん…そうですね…やっと、ですもんね…」



二人が静かに見守ろうとしたその時。



「ジーク〜?そう言えば君、その状況、どういうことか、聞いていいですかぁ〜?」



露骨に嫉妬してしまう男が居た。ノアだった。



「別に…婚約者が二人というだけだが?」


「外じゃ普通は無いの!そんなのは貴族王族の話!俺らにゃ縁無いの!」



風竜と戦った時以上に燃えるノア。



「…ノア、うるさい」



そんな彼に水魔法で物理的に頭を冷やすレティシア。

思わず黙るノア。



「はい…すみません…」


「分かれば良し。でも、今3人の邪魔は駄目。いい?」


「はい…」


「皆…ほら、行こう。族長さんが待ってる」



話題を変えるレオン。ジークもそれに同意する。



「レオン…そうだな。改めて皆に礼を言いたい。今回はありがとう。皆の協力が無かったら、俺は失敗していた」


「そーゆーことは後で良いんだよ!ほら、行こうぜ!」



びしょ濡れながらも、ジークに近付こうとするノア。

が、しかし。



「いや、水が傷に染みるんで近付かないでくれ。…ふふっ、はははっ!」



しっかりと拒否するジーク。思わずそのまま笑みが溢れる。

それを見ていた周囲も、彼に釣られ、笑い出す。



「…はぁ!?ジーク…この野郎〜!!」


「残念だな〜!ノア!あたしが慰めてやるか〜?」


「いいよ!悲しくなるから!」


「遠慮すんなって〜。あたしはお前がびしょ濡れでも、気にしねぇぞ?」


「…ありがとよ」



そうして彼等は、笑いながら帰路についたのだった。

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