第10話 異変

「これでお前は終わりなのか…?思っていた以上に呆気なかったな…」



ジークはそう言って敵の骸の前に座り込む。

かなり血まみれだが、それは殆ど土竜アースドラゴンのものだ。


互角に戦っていたのは最初だけで、後は一方的なものだった。



「ジーク…!不味いかもしれないぞ!早く戻ろう!」


「どうした、急に。何かあったのか?」



水辺で血を洗い流すジークは、レオンが何故焦っているのか分からなかった。



「…魔力感知を知らないのか…!?どおりで…いや、今はそこじゃない。村の近くに魔物が迫る気配がある。早く戻った方がいい!」


「何…?なら、ここに居る理由は無い。行くぞ!」


「あぁ!」



◇◇◇



かなり飛ばし集落に戻って来たレオンとジーク。

辺りを見ると、警戒態勢が敷かれていた。



「戻って来たか…お前ら」


「レオンに魔物が近いと言われ、早急に戻って来ました。族長、後で聞きたい事があります」


「…これが終わったらな」


「それにしても…何故お分かりに?」


「お前の仲間が教えてくれたのさ。魔物が近い、と。しばらくすると、うちの奴からも報告があった。それでこの態勢だ」


「…何が来てるんですか。族長」



難しそうな顔をするトラヴィス。

ため息を付き、静かに答える。



「…両翼の魔族とのことだ。ジーク、お前は分かるな?」


「翼に…傷が?」


「それは確認出来てねぇ。だが、土竜の他に火竜、風竜を連れてるのが確認されてる。奴が倒されたのを察知したのかもな」


「…くっ!!」



思わず駆け出そうとするジーク。



「待たねぇか!お前は少し冷静になれ…いいな?ジーク…」


「…はい。すみません、族長」



それを魔力の圧だけで止めるトラヴィス。



「うっ…なんて圧だ…」



魔力の圧の大きさに、思わず膝をつくアリア。



「大丈夫かよ…?アリア…」


「ノア…悪い、肩借りる。よく大丈夫だな…。二人は」


「まぁ…これは単純に慣れだな。俺達は」


「…え?それは、どういう…」


「お、おい!大丈夫か!」



バランスを崩すアリアの肩を掴むノア。


その光景をレティシアが見ていた。



「…ん。長の魔力に当てられただけ。少し横になるといい。体調は心配いらない」


「レティシア…ありがとな。レオン!悪い、アリアをレティシアと一緒に部屋、連れてくわ。すぐ戻る」


「あぁ…出発にはまだ時間があるらしい。大丈夫だ」



アリアがトラヴィスの魔力に当てられ、体調を崩し、部屋に戻っている中、ジーク側にて。


マーガレットとフローラがジークの元にやって来ていた。



「ねぇ、ジーク…ここは大丈夫なの?」


「私もやる」


「マーガレット、心配無用だ。さっきあいつを斃して来たから魔力は多少使ったが、ほぼ無傷だ。フローラ、絶対に参加させないぞ。頼むとしても、ここの防衛だ」


「…何で?外の人達は参加するのに」


「怪我させたくない。それ以上の理由があるか。こっちまで奴らには手を出させない。ここで待っててくれ」


「…分かった。待ってる」


「ジーク…頼むね。あたしのスキルじゃ戦えないから…」


「マーガレットの出番が来ないと良いな。あまり使わせたくない」



◇◇◇



ジークやレオン達がそろそろ迎撃の為に集落を出ようとしていた時。



「ジーク…!あいつを倒したって本当か!?」


「本当ですか!ジーク兄さん!」


「シルヴァー、アーサー…そうだ。だが、今は時間が…」


「すまん、それは分かってる。ここの防衛は俺らに任せろ」



静かに頷くシルヴァーと呼ばれる、ジークと同年代らしき青年。



「ここは任せて下さい!兄さんの一番弟子の俺が居ますから!」



アーサーと呼ばれた少年は胸を張り、自分の胸を叩く。



「…複雑な気持ちだ。ローレンスさんやビートさんを尊敬してた。俺も出来ることなら仇を取りたかった。でも、俺には無理だった。それだけの力は無かった。…無念を晴らしてくれて、ありがとな」


「礼はまだ早い。その元凶が今から来る。…ここを頼む。話はその後にしよう」


「ジーク!そろそろ時間だ!」


「はい、族長!二人とも…頼んだ」


「あぁ!」「はい!」



そう言うと、族長の方へ走り出すジーク。

レオン達と合流し、集落を出た。



◇◇◇



集落を出たジーク、レオン、ノアの3人。


当初は多くの人員が出る予定だったが、敵が引き連れる魔物に当てられ、周囲の魔物が活性化する恐れがあった。

本来なら心配は不要だが、万が一のためということもあり、防衛に人員を回すことになった。


実のところ、始めは外の人間であるレオン達は信用が無かったが、トラヴィスがジークとレオンが土竜退治に向かっている間にノアの相手をし、認めたため、信用を得ていた。


そして集落を出た凡そ10分後のこと。


「あぁ〜??何だ、お前ら。邪魔だ。どけ」


「誰がどくか。一応聞くが、この先に何の用だ」


「甚振りに行くんだよ。お前らも来るか?」


「…死ね。屑が」


「…成程。翼に傷のある魔族。こいつだな」


「あぁ。聞いた特徴と一致する」


「おい、この先に行きたいってんなら俺ら倒してから行くんだな!羽野郎!」



ノアがスキル、-挑発-を発動し、更に言葉を相乗させ、相手の注意を引く。



「あー…お前ら、殺すわ」



男の目が非道く冷たいものに変わる。それと同時に一斉に引き連れた魔物が襲いかかる。


男は自身を羽野郎と呼んだノアに攻撃を仕掛けようとするが…



「待て、羽野郎!お前の相手は俺だ!」



敵を挑発し、標的を自身に移させるジーク。颯爽とノアと立ち位置を変える。

ジークは、奴は自分が討つと決めていた。



「てめぇ等…何だ、今日は。こんなに侮辱されたのは久しぶりだぜ。前に来たときもそうだ…うん?てめぇ…その顔、見たことあるぞ」


「そうか。俺は知らん」



◇◇◇



レオン側にて。

レオンは火竜フレイムドラゴン土竜アースドラゴンの二体と相対していた。



「-身体強化-うっ!?」



彼の身体の全身に針が刺さるような痛みが走る。



「何だ、今のは…身体強化はやめるか。速攻で終わらせてやる!」


-ガァァアアアッッ!-


-ウオオオォォォッッ!-



叫びながら突進してくる二体の竜に対し、レオンは冷静に魔力を練る。



「風魔法-風刃ウィンドカッター-!」



小手調べに放った魔法だが、土竜はともかく、火竜には大して効果は無かった。


すると、土竜が地面を踏み、辺りが揺れる。火竜がレオンに炎を噴いてくる。



「無駄だ。-魔法障壁-。そして、-魔法吸収-」



小規模の結界がレオンを囲い、炎を防ぐ。炎は辺りに広がることなく、結界に吸収されていく。

効果が無いと悟ったか、火炎放射を止める火竜。



「増加してそっちにお返しするよ。-反魔法アンチマジック-」



指を鳴らし結界を解除し、レオンの右手に炎が集まってくる。

それは火竜が放ったものより数倍の大きさになって土竜を燃やす。


-ガァ!?グアアァァァッッッッ!!!-


「どうだい?味方の攻撃を喰らうってのは?まぁ…魔物に言葉は通じないか…」



相手の魔法を利用し、相手を倒すという、珍しい戦法を取ったレオン。

心做しか、いつもより表情が冷たく見える。



「さぁ…これで一対一だね?火竜…」


-グルルルルル…-


自身の力を使われたことを理解しているのか、先ほどより赤く身体が発光し、口から煙を吐く火竜。


だが、その後の戦いも、酷く一方的なものだった。

放つ炎は障壁でガードされ、返される。

炎に耐性があるとはいえ、その状態から更に攻撃を喰らってしまえばもう火竜に可能性は無かった。


横たわり、自身の焦げ臭い匂いと共に死を自覚する火竜。もう抵抗はしなかった。

この人間とは相性が悪すぎた。自身に勝利の可能性など無いと悟ったからだ。


火竜が最期に見たものは剣を引き抜き、何かを呟く相手の姿だった。

そのまま意識は彼方へ消えていった。

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