第9話 魔人族ジーク
レオン達は集落の中央にある開けた場所に着くと、端の倒木に寄りかかる。
近くに居た人達はレオン達のことを怪しげに見るが、ジークを見つけると、そのままそれぞれの作業に戻っていった。
「さっきの話だが、固有スキルってのは、基本的には個人で発現する特殊能力のことだ。固有スキルも固有能力も異能も、基本的には同じことを指してる。固有魔法だけは違うけどな」
「個人の特殊能力って言うなら、さっきのあれは違うんじゃないのか?」
今の発言で疑問が浮かんだアリアが、ジークに質問する。
「例外もあるってことだ。あれは俺達一族の血を引いてる者しか使えない。一族の固有スキルなんだ。まぁ…魔族も使える奴は居るようだが」
「じゃあお前、魔族ってことか?」
「違う!俺はあんな奴らじゃない…俺は魔人族だ!魔人族のジーク!」
「うぉっ…わ、悪い…」
ジークの迫力に思わず気圧されるノア。
思わずレオンが話題を変える。
「ジーク、固有能力を会得するにはどうすればいい?」
「…さぁな。噂じゃ神に与えられただとか、事象が人を仲介して現れたものだとか聞くが、詳細は知らん。俺も持ってるが、会得条件は分からない。いつの間にか持っていた」
「そうか…ありがとう」
「じゃあこっちも良いか。その魔族はどんな見た目だった?翼はあったか?」
レオン達の番が終わり、今度はジークの質問が始まる。
「背は俺と変わらないくらいで…身体をローブで覆ってたな。翼は無かった。多分…浮遊魔法で浮いてた」
「なるほどな…何か能力を使ったりとかは?」
「そこから立ち去る時に魔法陣で消えていったな。俺達が固有スキルについて知りたいのも、それが理由だ」
「魔物は連れてたりしたか?」
「いや、一人だった。何なら本物ですら無かった。少なくとも、-
「ふむ…分かった。そいつは俺が探してる奴じゃ無いらしい。時間取らせて悪かったな。そろそろ暗くなるし、良かったら家に寄ってくれ」
入口から大分歩き、森に近い場所にある家に案内される3人。
ジークがそこのドアを叩く。
「…ん。おかえり、兄さん。…そっちの人達、誰?」
「俺の客みたいなもんだ。取り敢えず今日は家に泊まる」
「え、俺ら泊まんのか?」
誰もジークの家に泊まることを聞いていなかったが、素直に口に出したのはノアだけだった。
「別に泊まらなくてもいいが、明るいうちに街には着かないぞ。それでもいいなら俺は構わんが」
「いや、是非お願いします」
「はは…面白い奴だ」
ノアの変わり身の早さに思わず笑うジーク。
その様子を見ていたレオンに何か思い当たる節があるようだ。
「なぁ、ジーク…俺と会ったこと、あるか?」
「…?今日が初めてだと思うが」
「だよなぁ…何だ、今の…」
◇◇◇
朝、慣れぬ場所のためかいつもより早く起きたレオン。
ふと窓を見ると、ジークが一人で訓練している様子が見えた。
「昨夜はありがとう。助かった」
「あぁ、気にするな。正午までにはここを出た方が良いぞ。近場でも、大分距離がある」
「ジーク…昨日は上手く躱されたが、君が魔人族とはどういうことだ?」
「…またそれか。そんなに聞きたいか?」
「こうも濁されるとどうも、な。気になるだろ、
ふー…とため息を付き、訓練を止めるジーク。
「…俺達魔人族から分かれ、他の種族と混ざったのが魔族だ。その殆どは魔大陸に行き、僅かな者だけが残り、ここに集落を作った、そう聞いてる。そして俺が魔族が嫌いなのは、俺の兄の命を奪った奴だからだ」
「…だから魔族のことを…すまない。深部まで入り込んで」
「別に構わん。そいつには存在したことを後悔してもらうだけだ」
「…」
思わず黙り込むレオン。そのままジークの稽古を見物していると。
「…兄さん。朝食。お客さんも」
「…そんな時間か。ありがとな」
「あ、あぁ…ありがとう。レティシアさん」
「…昨日も言った。私に敬語は要らない。兄さんの客人なら尚更」
「…じゃあ、俺もレオンでいいよ。それなら良いだろ?レティシア」
「…ん。それなら良い。じゃ、レオン、もう一人の短髪呼んできて。ポニテの方はさっき起きて来た」
「…いきなり人使い荒いな…」
◇◇◇
朝食後、今日の日程について話すレオン達。
「レオン、これからどうするんだ?」
「まぁ、ここに長居する理由は無いし、昼には出るかな…え?」
家の前で話すレオン達の前に人を引き連れた初老の人物がやって来ていた。
「お前らか?来訪者ってのは」
「は、はい…」
「代表一人連れて俺と来い。ジークの奴に話がある」
「え」
突如集落の一番大きな屋敷に連れてこられたレオンとジーク。
「ジーク…何勝手に異種族なんか入れてんだ?俺は許可してねぇぞ」
「…魔族と交戦していた。話が聞きたかった。すみません、義父上」
「公の場で義父と呼ぶな!族長と呼べ。ったく、お前らは…。ジーク…今度はヴァーミリオンをここに入れるとはな…」
「すみません、族長」
「それはともかくだ、例の土竜が最近巣に居ねぇ。今のうちにやってきたらどうだ」
「っ!!…はい」
「お話の途中失礼します、族長殿。何故私がヴァーミリオンだとお分かりに?」
自分をヴァーミリオンだと明かしていないにも関わらず、見事言い当てた族長。
レオンは何故分かったのか気になっていた。
「…長く生きてると、いろいろと分かるってことだ。で、ジーク。別に罰でもねぇが、お前の兄貴が逃した
「何故ですか!レオンは関係ない!あれは俺の戦いです!」
「外のやつの戦いも見てみろ。双方、為になるだろうよ。ヴァーミリオンには雑魚対峙でも任せればいい」
「……分かりました。それでしたら、構いません。と、いうわけで、良いか?レオンは」
「…まぁ、良いよ…?」
◇◇◇
そんな訳で急遽、ジークについて行くことになったレオン。
突然土竜対峙を頼まれたにしてはやけに気合い充分のジーク。
先ほど少し言っていた兄が関係しているのだろうか、とレオンは考えた。
「なぁ…今から行く土竜はお兄さんが使役でもしてたのか?」
「違う、俺の兄と父を殺した魔物だ」
敵のことに対しても、冷静に答えるジーク。
自分と似たような境遇のジークに、少し親近感が湧いていた。
「…そうか…それから妹と二人で…?」
「いや、レティは外で出会った。燃える馬車の前に一人、居た。…レオン、一先ず後にしよう。巣に居なかったということは、そろそろ見える筈だ」
しばらく進んで行くと、ジークが歩みを止め、池の方を指差す。
見ると、水辺の際に鎮座する土竜が居た。
「あいつ…寝てるのか?」
「違う、俺が来るのを待ってる」
「…え?それは一体―」
レオンの言葉を最後まで聞かず、ジークは魔力を身体に纏わせ始める。
それと同じくして土竜も右眼を開き、唸り始める。
「行くぞ。雑魚は頼んだ」
「あ…あぁ」
駆け出すジーク。
魔力に当てられ、やって来た魔物にレオンは意識を張り巡らせる。
「よぉ、獣。今日で終わりだ」
-ウオオオォォォ!!-
右手に魔力を集中させるジークに土竜も咆哮で呼応する。
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