第8話 マリウスとの初対決

「魔王軍幹部だと…?何でこんなとこにいやがる!」


「従者、お前に興味は無い。用があるのはそこの勇者だけだ…下がっていろ」


「じゅ、従者だと?てめぇ…」



空中に浮いていたマリウスはノアの言葉を一蹴すると、地上に降りてくる。



「乗るな、ノア。ただの挑発だ」


「お前が、ヴァーミリオンの生き残りか…」



何かを見定めるようにレオンを見るマリウス。


彼の異様な雰囲気に呑まれるノアとアリアの二人。



「魔王軍幹部が何の用だ」


「話を聞いて無かったのか?俺は、お前と戦いに来た。それだけだ」


「…良いだろう。だが、ここだと周りに被害を及ぼす。向こうの開けた場所でやろう」


「別に、俺はどこでも構わん」



◇◇◇



先ほどの場所から移動し、平地にて対峙する両者。



「お、おい…ほんとに大丈夫なのかよ?こんなとこで急に戦って…」


「あるだろうとは思ってた。まぁ…随分早かったけど」


「お喋りは、終わりにしないか。そろそろ、始めたい」



レオンとノアの会話をマリウスが打ち切る。向こうの用意は万端なようだ。



「こっちも準備出来た。但し、こっちが勝ったら幾つか質問に答えてもらうぞ」


「…別に、条件など付けずとも、答えてやったがな。だが、良いだろう。終わったら、答えてやる。-物質創造マテリアライズ-」



マリウスの目前に突如剣が現れ、それを手に取る。



「…それは」


「何だ…別にこの程度、珍しくもないだろう。さぁ、始めるぞ」



言い終わったマリウスはレオンに向かい、飛びかかってくる。


彼の攻撃を剣で防いだレオンは跳ね返し、剣に炎を纏わせる。



「今度はこっちから行くぞ!」


「…剣も悪くない。良いだろう、来い」



激しくぶつかり合う両者。

それを後方より見守るノアとアリアの二人。



「…すげぇな、レオンのやつ。あんなに強かったのか」


「ただ燻ってたわけじゃないんだぜ、俺達」



◇◇◇



「…どうした。何をしてる。早く本当の力を見せてみろ」


「何を言ってる…?俺は隠してなんかいないぞ!」



そう言いながらマリウスの剣を弾き、距離を取るレオン。マリウスはレオンを見たまま、左手をかざし、剣を手元へ引き寄せる。



「下らん隠し事は寄せ。俺には無意味だ。あの時もそうだった。お前は力を隠しながら奴と対峙していた」


「あの時…?」



レオンの表情が変わる。



「分からないか?ゲオルギウスとの戦いの時だ。数ヶ月前の事と言えば分かるだろう」


「黙れ!俺はそんな力の使い方なんて知らない!」



先程とはうって変わり剣筋が粗くなるレオン。

だが、魔力は今まで以上に上がっていく。



「…面白いな。今日はやめだ。続きはお前がもっと力を付けてからだ。なら、これももう必要ないか。-解除-」



マリウスの足下に魔法陣が現れ、彼の身体を消していく。



「お前…何だ、それは」



レオンの問いに対して、マリウスはあぁ、と思い出したような表情をする。



「そうか…人間は、スキルはあれど、固有スキルを持っている人間は多くないんだったな…それは酷なことをした。これは俺の固有スキルだ。また会った時にでも教えてやる」



そう言い残し、この場から消えるマリウス。

突然の出来事にノアやアリアはおろか、レオンも対処出来なかった。



「何だったんだ、あいつは…急に現れたと思ったら、勝手に消えて…」


「さぁな…それより聞いたか?最後の」


「…?何がだ?」


「…固有スキルって言ってた…二人は持ってたりするか?」



ノアとアリアの二人は顔を見合わせると、



「持ってねぇ」「持ってない」



と、レオンに答える。



「…そうだよな。俺もだ。ヴァーミリオンの時に話には聞いてたけど、見たのは初めてだ」



◇◇◇



しばらく3人が再び徒歩で南部へ向かっていると、近くに森があり、森に沿う道と離れる2つの道があった。



「…どっちだ?」


「こっちじゃねぇのか?」


「いや、こっちだろ」



このどちらに進むかについて、先程から、ノアとアリアが不毛な言い争いを繰り返している。



「どっちでも良いって…はぁ…うん?」



森の向こう側に、何やら感じるものがある。



「何だここ…何か隠されてるような…」


「そこに近づくな!!」



レオンがその声に反応し、後ろを振り向くと、右手を振り上げ、魔力を貯めている男が直ぐ近くに居た。


レオンは直ぐ横に避けるも、その男の攻撃は自身が居た場所の地面を大きく抉り取っていた。



◇◇◇



「悪かったな。先程まで近くに魔族の気配を感じてたんでな。気が荒くなってた」


「いや、こちらこそすまない。不用意に近付いた。それに、君が言ってる魔族というのは恐らく俺達が交戦した魔族のことだ」


「何…時間はあるか。少し、話が聞きたい」


「あ、あぁ…二人とも、少し良い?」


「まぁ…良いんじゃねぇの」


「あたしは別に良いけど…早く行かなくていいのか?」


「流石にこれくらいなら、大丈夫だろ」


「悪い、紹介が遅れた。俺はジークだ」


「俺はレオン。勇者として旅をしてる」


「…そうか。まだ勇者は居たのか。まぁ、それはいい。来てくれるか」


「あぁ」



ジークと名乗った男に連れられ、森の奥へ進んで行く。



「あそこは隠蔽魔法ハイディングで隠してある別の入口なんだ。悪いな。普段の出入口はここだ」


「ここが…?何もねぇじゃんか。辺りには木しかねぇぞ」


「…ここも隠してあるのさ。俺の近くへ来てくれるか。-魔力共有-」



ジークから放出された魔力が3人の身体に纏っていく。



「これは…一体?」


「俺達一族の固有スキルだ。基本的には俺達しか使えない。ほら、もう一度見てみな」



レオン達が先ほどの場所を見ると、森だった筈の場所に急に柵が現れ、奥の方には家屋らしきものも見える。



「…凄い。さっきまで何も無かったのに…」



突如現れた集落に4人は入っていく。

自分達がかつて居た村に似た雰囲気を感じながらも、随所に現れる文明らしさに、そう云うものだと二人は捉えることにした。


アリアは初めて見る地方の村に興味津々の様子だ。



「因みに魔力共有をしていない奴がここを通っても、気付くことは無い。素通りする」


「なぁ、ジーク…俺達も聞きたい事が出来た。固有スキルってのが何か教えてくれねぇか。俺達、スキルは知ってるが、固有スキルについては殆ど知らねぇんだ」



先ほどから黙っていたノアが口を開く。



「固有スキルそのものについてか…?別に構わんが、着いてからにしよう。向こうに開けた場所がある」

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