第7話 GOOD LUCK MY WAY.

「でももうとっくに夜だ…大佐まだ居るかな…」


「約束してるんだろ?流石にまだ居るんじゃねぇか?」


「…だと良いけど…」



騎士団本部へやって来たレオンは、騎士団の様子に違和感を覚える。

いつもであれば、こんな量の人は居ない。



「おい、あいつが居ないぞ!」


「どういうことだ!」



まるで、何かあったような―。


嫌な予感がしたレオンは、一目散に特務課の部屋へ向かう。



「お、おい!レオン、待てよ!」


「そうだよ!急にどうしたんだ!」



ノアとアリアが制止するも、レオンは止まらず、走り抜ける。


特務課のドアをノックもせずに思い切り開けるレオン。思わず、作業中の人員は手を止める。

だが、そこにアルフレッドの姿は無く、自分を神妙な目で見つめる特務課の人達だけだった。



「いきなりすみません…あの、大佐と今日、約束をしてるんですけど…居ますよね?」



自分の不安をかき消すように、願いとも取れる口調で問いかけるレオン。

皆が彼に視線を向けまいとしたが、それをごまかすようにフィンがレオンに声をかける。



「あ…レオン君…えっと…今、大佐はね…」


「フィン、いいわ。私が話す。良いですか。課長」



思わず言葉に詰まるフィンではなく、レナードが代わりに話すことを伝える。



「レナード…すまんな」


「大丈夫ですよ。課長。行きましょう、レオン君」



レナードはレオンを連れ出し、医院の方角へ向かう。



「えっと…大佐は誰かのお見舞いか何かですか?」



彼女はレオンの質問には答えず、ただ歩き続ける。



「ここよ。入って」



そこでレオンが見たものは身体中に怪我が残り、今も尚治癒魔法がかけられている、ベッドに横たわった大佐の姿だった。



「アルフレッド大佐は17時頃に正体不明の敵に襲われ、現在まで昏睡状態が続いているわ」



あまりの状況に理解が追いつかないレオン。



「え…?どういうことですか?大佐が…襲われた?」


「言葉の通りよ。今は何とか一命を取り留めたけど、依然として、危ない状況が続いてるわ」


「また…俺のせいですか…」



俯くレオンの頬を叩くレナード。レオンは呆気にとられている。二人は後ろで何も言わず見守っている。



「そうやって自分のせいにしない。レオン君、君が自分一人で生きてきたと言うのなら、後悔しようと、忘却しようと、誇ろうとそれは君の自由。でも、君は一人で生きてきた訳では無いでしょ?君は仲間と共に闘って、泣いて、笑ってきたのでしょう。皆と生きた時間を後悔はしないで。一緒に居る、皆に失礼。そして、大佐にも失礼よ。そういう事は言わない。良いわね?」


「すみません…何度も何度もへこたれてばかりで…でも、今回は大丈夫なんですよね?大佐は、生きてるんですよね?」


「えぇ。だから、大丈夫。安心して行って。君は君に出来ることを。私達は私達に出来ることをするから」



レオンは涙を拭い、拳をしっかりと握る。レナードはそれを見て、にこやかに笑う。



「勿論、君達もね。特に、アリアさんは新しく入ったばかりでいろいろ有ると思うけど、負けないように」


「はい、ありがとうございます!」


「レナさん、俺達は予定通り明日、出発します。大佐に今度会う時は良い報告が出来るように。勿論、皆にも」


「うん。私は明日見送りには行けないから、ここで言うわ。私達は君達に全てを託す。そして、その分、未来で恩を返す。レオン君、未来をお願いします」


「ありがとうございます。必ず、その想いに報いてみせます」


「皆、頼んだわよ」


「「「はい!」」」


「それと、レオン君…大佐から伝言が。敵は複数居る、とのことだったわ」


「複数…?どういう意味ですか?」


「そこまでは言ってくれなかったわ…すまないわね」



◇◇◇



場面は変わり、王都から遠く離れたとある地にて。



「ほぉ…こんな時期に流れ星とは珍しい…」


「兄さん…そろそろ時間。家に入った方が良い」


「もうそんな時間か。ありがとな」



兄と呼ばれた彼は、家へ戻り、彼女の頭を撫でる。



「ん。そうやって妹扱いする…」


「妹は妹だろう。ほら、行くか」



◇◇◇



翌日、南下するために王都発の列車に乗るレオン達。

フェニクス達が見送りに来る。



「では、お前達、頼んだぞ。手紙を魔王に渡してくれ。だが、別にレオンが話をつけるのであれば、それはそれでも構わん」


「え、そうなってもいいんですか?」


「まぁ、その後に話し合いがあることは変わらんがな。それより前にお互い話す内容が分かっているのならその方が楽だ」


「なるほど、分かりました。では、行ってきます」


「うむ、頼んだぞ」



列車に乗りこむレオン達。すると、ドアが閉まり、ゆっくりと動き出し、あっという間にその地を離れていく。



「遂にか…レオン、最初の街にはどれぐらい掛かるんだっけ?」


「レイヴォール以上に距離がある。だから、こいつは前も乗った速いやつだとさ」


「あたしも質問。その最初の街ってのはどこ?」


「えっと…ヴァイロ。主要都市では一番南にある。4大公爵が治める地の一つだ。因みに言うと、終点だから時間とかは気にしなくていいよ」


「ふーん…じゃ、当分暇か。俺、寝る。酔いたくねぇもん」


「それなら、あたしは内部見てくるわ」


「着くまで時間あるからな。好きにしてていいよ」



◇◇◇



それから1時間程のこと。

後方から発砲音が聞こえてくる。



「この列車は俺達が占拠した!逆らうんじゃねぇ!」


「死にたくねぇなら無駄な抵抗はやめるんだなぁ!!」



三十分後。



「すみませんでした。もうしません」


「俺らねぇ…こんなことやってる暇無いんですよ。次の駅、引き渡し、騎士団。OK?」


「「「はい」」」


「ノア…何でそんな片言なんだ?」


「馬鹿に付ける薬は無い。馬鹿に通じる言葉もねぇ。レオン…分かるか?」


「いや、分からねぇよ。レオンもこういうのは放っといて良いって」


「そっか…」


「放っとくな?俺悲しいから」


「あのぉ…お話のところすみませんが、次の駅で引き渡しを行いますので、お手を貸していただけますか?」


「「「あ、はい」」」



そんなことがあってから更に1時間後。



「なぁレオン…俺達電車やめるか」


「…あたしもノアに賛成…」



アリアが気まずそうに手を挙げる。



「えーっと…次で降りるか!」


「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないんですがぁぁ〜!屋根に!魔物いるんですってぇ!」


-ユウシャハドコダァァァ!!!-


「…ま、屋根行ってくるよ。片付けてくる」



一人、電車の屋根に上るレオン。屋根に居座る魔物と対峙する。



-オマエカ、ユウシャァァァ!-



その魔物はレオンがやって来たことを確認すると、直ぐに襲いかかってくる。



「はぁ…俺らの邪魔をするな。時間の無駄だ。大暴風ウインドストーム!」



魔力を一瞬で片手に溜めると、その魔物に向かい、風の斬撃が飛んでいく。


魔物はレオンの足下にすら届くこと無く、斬り刻まれそのまま風に飛ばされていった。



「はい、これで終わり。よいしょっ…と。終わったよ」



窓から入り、先程までの場所へ戻ってくる。



「早いな…お前、まじで上手くなったな」


「もう終わらせたのか?やっぱり凄いな…」


「訓練の成果だな。じゃあ、車掌さん。俺達引き渡してそのまま降りるのでこの人達見張ってますよ」


「本当ですか!ありがとうございます!では、失礼します!」



◇◇◇



その後、やって来た騎士団に彼らを引き渡し、線路に沿って歩き始めるレオン達。



「なぁ、レオン…やっぱり馬車かなんか手配してもらった方が良かったんじゃないか…?」


「確かにな…あの時は俺も徒歩に賛成したけど、このペースだとどれほどかかるか…」



その時だった。



水球ウォーターボール



上空から魔法が突如放たれてくる。

レオンは素早く距離を取り、同じ水属性の魔法で水球を弾き飛ばす。



「何だ!?」



空を見上げると男が宙に浮いている。



「流石にこの程度は避けるか…」


「てめぇ…何者だ!」



宙に浮かぶ謎の男にノアが声を上げる。



「俺は魔王軍幹部の一人、マリウス…勇者、お前と力比べに来た…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る