第6話 暗躍、そして襲撃

特務課から追い出され、総務課へ戻るアレックス。



(あの机の上にあったのは、最近の情勢をまとめたものだ。その下には魔大陸についての資料もあった…魔大陸に来るか…勇者が。…なるほどね。あの情報、噓じゃ無さそうだな…)


『お前…それはだ?』


『お前…何者だ?何故それを知ってる?』


『まぁ待て。俺は今敵じゃない。そして、味方でもない。が、お前に有力な情報をやろう。今、王都に勇者パーティーは居ない』


『お前、もしかして…。あのクソ野郎カイデンの駒か…お前、主に言っとけ。僕らの邪魔をするなってな』


『奴らは今、遠く離れた地に居る。行動を起こすなら、今だぞ。それだけだ』


(言うだけ言って姿消したのも、手の平で思いのままなのも腹立つけど…計画を知られた上での行動なのが何よりムカつく。だから、あいつ嫌いなんだよな…)


「ま、思い通りになんかさせるか。最後に嗤うのは僕達だ」



◇◇◇



外に出て、身体を伸ばすアリア。魔法の袋をバッグに収納している。



「ふー…大分進んだな。後は2階だけだろ?」


「あぁ、結構予定より早く進んだ。少し休んでていいよ。俺は自分の部屋をやって来るから」


「オッケー」



すると、レオンと入れ違いにノアがアリアの近くへやって来る。



「アリア。今、ちょっと良いか?」


「ノア…どうした、急に。別に良いけど」


「もうここに来ることも無いだろうし…少し、聞いてほしくてさ」


「何だ?」


「前のレオンはさ、何て言うか…真っ直ぐな正義を信じてたんだ」


「?」


「何て表せばいいのかな…俺もそうなんだけど、世の中の正義と悪はそれぞれ在る限りで、そう何個もあるもんじゃないと思ってたんだよ」


「…うん」


「でもさ…あいつは目の前で喪って、俺は自分の手の届かないとこでいろんな事が起きてさ…あいつは再起したと思うんだけど、どこかまだ、揺らいでる気がするんだよな…」


「それで…?」


「今言ったところで…って話なんだけどさ、無理やり出発させて良いのかな…」


「うーん…あたしは二人ほどの事が起きたことは無いから分からないけど、本当に嫌ならちゃんと言うんじゃないのかな…あの日話した時もいろんな事聞いたぜ。でも、勇者として活動したくないとか、旅に出る気無い…なんて素振り無かったけどな」


「そっか…ありがとよ」


「ノア、アリアー。他の部屋、手伝ってもらっていい?」


「おう、行くぜ、レオン!ほら、ノアも!」


「…あぁ」



◇◇◇



レオンとの通話後、何かの資料をまとめたり、明日の日程の確認を進めたりしているアルフレッド。

あまりの仕事の熱量に思わず心配になるフィン。



「大佐、働き過ぎじゃないですか?身体壊しますよ?」


「この忙しさもレオン達が旅に出れば一段落だ。そう考えればどうってことはない。む…そろそろ時間か。行くか」



アルフレッドがまとめた資料をぼんやりと見るフィン。

ペラペラとページを捲りながら、ふと言葉を漏らす。



「それにしても、この襲撃した相手は随分理に敵わないことをしますよねぇ…なんでこんな回りくどい方法をしたんだか…」



ドアの前で足を止めるアルフレッド。急に向き直ると、フィンの元へ来る。



「何…?フィン、今なんて言った?」


「え?な、なんですか?大佐」


「今なんて言ったと聞いている!」


「相手は理に敵わないことをしてるって言っただけですけど…」


「そうか…そういうことか。フィン、お手柄だ!」


「…?どういうことですか?」


「説明は後だ!戻ったら教えてやる!」


「あ、ちょっと…大佐ー!今教えてくださいよー!」



部屋を急ぎ足で出て、しばらくすると、本部の裏庭で通話を始めるアルフレッド。



「大佐。こっちのやることは終わりました。今から列車で戻ります」


『いや、悪いんだが、そっちで2時間程潰してくれるか。直接会った時に話があるんだが、まだ用意出来ていない』


「…?はい、分かりました。では、失礼します」



◇◇◇



(カイデン様。勇者はまだ当分この街に滞在するようです。奴らが王都に到着するのは22時を過ぎるかと)


(ならば、指令の通りだ。王都周辺の地理は頭に入っているな?襲撃を実行に移せ。何としてでも、勇者を来させるな)


(はい。畏まりました)



男は魔法陣に身体を包まれ、姿を消していく。

偶然その場を見た者は、今の光景を自身の勘違いだと思い込んだ。

まさか、伝説の転移魔法ではあるまい、と。



「…なるほど。グリムが人間の国に行ったのはそういう理由か…俺も混ぜてもらうか…」



何故か二人の念話の内容を把握したその男は、飛び上がると、真っ直ぐ何処かへと飛び去る。



◇◇◇



場所は戻り、レオンとの通話を終えた直後の騎士団本部にて。



「よし。後に備え、早めに戻るか…うん?なっ―」



ふと窓の方を見ると、突如何かがアルフレッドの腹部に突き刺さる。

あまりに一瞬の出来事に対応する時間もなく、彼はその場から姿を消す。


そこに誰か一人でも居れば後の出来事には繋がらなかっただろう。

だが、運悪くその近くには誰一人として居なかった。




◇◇◇



「…何だ、今のは…身体には異常ない。何処だ?ここは」



そこは見渡す限り広がる異空間らしき場所だった。



「ここはお前の処刑場だ」


「…?何者だ、お前は」


「グリム・リーパー。主の命によりお前の命をもらいに来た」


「ふざけるな…そんなことに付き合っていられ―なっ!?」



瞬時に避けるも、風の斬撃に右頬を斬られるアルフレッド。



「…ほぉ、ある程度はやれるようだな。が、悪く思うな。命令なんでな」



剣を引き抜き、一瞬のうちに自身の目の前までやって来るグリム・リーパー。

だが、その時にはアルフレッドも剣を抜いており、打ち合いになる。



「何処の勢力だ、お前は!」


「!!速いな。殺さねばならんのが、ますます惜しい」


(この剣の振るい方…何となく似ているような…だが、あいつの話では、もう…しかし、この推測が間違っていないのなら不味いな。一刻も早くレオンに伝えねば。と、なると…ここは離脱だ!)



相手から離れ、ここからの離脱を図るアルフレッド。が、そうはいかなかった。



「ここから脱出でも試みたか?無駄だ。ここは-外界げかい-精神の世界だ。因みにお前の肉体は俺が預かっている」


「何…?」


「ここから出たいのなら、自分が死ぬか俺を殺すことだな」


「…何だって…」



◇◇◇



通話後のレオン。通話中は二人をギルドの受付の近くに待機させており、その後戻って来ていた。



「よー、レオン。どうだった?」


「何か二時間ぐらいそっちで過ごしとけって。どうする?」


「また何時間も列車に乗るんだろ?早めに飯食っとかねぇ?」


「なるほど。どう?アリアは」


「あぁ〜…まぁ、軽くなら」


「よし、じゃあ何か食べとくか」



◇◇◇



「…大佐遅くないですか?そろそろ三十分ですよ?」 


「うん…もしかしたら、通話が長引いているのかも。課長、一度見てきます」


「あぁ、頼む。流石に長いだろう」



ペンを置き、一人部屋を出るレナード。

アルフレッドが個人番号を教えていたのは知っていたので辺りを見回るも、彼の姿は無い。

裏庭に出て、魔力感知を発動させるも、騎士団本部一帯に彼の魔力は感じなかった。



「課長、大佐が居ません!魔力感知にも引っ掛かりませんでした!」


「何だと!?」



◇◇◇



「もう大人しく死を受け入れろ。この世界での傷は現実の肉体にも直結する。どちらにしろお前を待っているのは死のみだ」


「はぁ、はぁ…何が目的だ…俺を殺す意味はなんだ…」


「いいだろう…教えてやる。主は勇者の崩壊、そしてこの世界の現状の維持をお望みだ。つまり、勇者が魔大陸に来てもらっては困るのだよ」


「なるほどな…あいつらを襲ったのも、それが理由か…?」


「おそらくな。私と奴は立ち位置が違うのでな」


「…?何を言ってる…?」


「…喋り過ぎたな。さぁ、止めだ」



グリムがまさに、アルフレッドに止めをさそうとした時だった。



「面白そうなことやってるな。俺も混ぜろ」



グリムの攻撃を見知らぬ男が受けていた。



「…ソウル!」


「な、何だ。あんたは…」


「なんてな。最後は俺にくれ」



ソウルと呼ばれた男の攻撃がアルフレッドの腹部に突き刺さる。




「かはっ…」


「どうだ?現実でも外界でも同じとこをぶっ刺されるってのは?」


「…」



ソウルが腕を引き抜くと、そのまま地に倒れるアルフレッド。



「こいつはもう駄目だな。大して味がしない」


「ソウル…何故貴様がここに居る…」



嫌そうな口調でソウルに質問するグリム。



「もっと用心しとくんだな。念話は聞き取りやすいんだよ」


「ちっ…化け物め…何はともあれ任務はは果たした。-瓦解-」


「あらま。もう出るのか?」


「お前なんぞとこんなとこに居られるか…」


「あれで助かったら、相当運いいぜ?あれ」


「そこまでは知らん」



そのまま、その世界は崩れ、2人の身体は光の粒となって消える。横たわったままのアルフレッドも無の空間へ落ちながら、光の粒へと変わっていく。



「…ここは。物置か…早く…戻らねば…」



全身傷だらけの状態で腹部を押さえながら、特務課の部屋を目指すアルフレッド。


そのうち、傷だらけのアルフレッドを見かけたかつての仲間と出会う。



「お、おい!アル、どうした!?その傷は!早く治癒師を―うぉっ!?」


「どうでもいい…早く、俺を特務課に連れてってくれ…」


「分かった!誰か、治癒師を特務課へ!ほら、行くぞ!」



アルフレッドを背負うと、そのまま特務課へ駆け出す。



「失礼します!アルフレッド大佐を運んできました!」


「え、どういうこと…うわっ!トーマスさん、血、血がっ!」


「フィン…レナードを呼べ…」


「馬鹿、そんなことを言ってる場合か!フィン、今すぐ治癒師を!それと、トーマス君、シリウス―」



「は、はいっ!」



指示を出そうとするカイルを思いっきり引っ張るアルフレッド。



「カイルさん…レナードを、呼んでくれ…」


「な、何が…大佐!?」



丁度、部屋へ彼を探しに出ていたレナードが戻ってくる。



「レナ…来たか。レオンに伝えてくれ…敵は…複数居る…」



レナードの肩を必死に掴み、その言葉のみを伝えると、意識を手放すアルフレッド。



「た、大佐!?起きてください!今のはどういう意味ですか!?」


「治癒師はまだか!何してる!」



その後、フィンに連れられ治癒師が急いでやって来るも、現場は騒然であった。



その数時間後。王都にレオン達が戻って来る。



「まずいな…遅れてる…」


「仕方ねぇよ。あっちの駅で勇者ってバレたんだから」


「…俺はあんな喜ばれるようなやつじゃない。さっさと行こう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る