第5話 勇者の帰還
3人での話し合いから3日後。
遂に国王との面会の日がやって来た。
「…緊張するな」
「大丈夫か?俺達は何回も会ってるけどアリアは始めてだもんな。でも、緊張することないぜ」
新しい勇者パーティーのメンバーとして、初めて国王に会うアリアを励ますノア。
「そうは言ってもさ…」
「心配いらない。俺なんて違う意味で緊張してるからな…」
「レオン、そこに関しては俺も同じだ」
「ほら、お前ら。話してないで行くぞ」
勇者専属として国王との面会に立ち会うアルフレッド。
このような場は何気に久しぶりだった。
◇◇◇
そして、玉座の間に国王、メルヴィル、国王の護衛として近衛師団長ファルークが居り、その場にレオン、ノア、アリアの3人にアルフレッドを加え、遂に会合が始まろうとしていた。
「陛下。私達からお話があり、やって参りました」
「…聞こう。それと、そちらの女性は見覚えがないが、誰かね?」
フェニクスがアリアに視線を移す。
「…彼女は新しい仲間です。つい先日、加わりました」
「勇者パーティーに相応しい人格と実力はあるのかね?」
「陛下、その点に関しましては私から」
「ノアか。申してみよ」
「はい。先日、ノアと模擬戦を行い、槍と剣での戦闘にも関わらず、善戦していました。それに至ったきっかけと致しましては、彼女からお願いします」
「貴女、名は?」
「…アリア·スカーレットと申します」
「…成程、スカーレットか。で、模擬戦に至った理由とは?」
フェニクスがアリアに視線を向ける。アリアは一呼吸置き、話し始める。
「…はい。父が騎士団所属の為、家に居ない事が多く、騎士団関係者はいつ終わるとも分からない戦いに辟易しています。それに勇者が動きさえしてくれれば、まだ戦いに希望が持てるのではと思い、勇者に活動を懇願しに来た事がことのきっかけとなります」
「ふむ。なるほどな。その心意気は見上げたものだ。だがな、それだけではついて行けぬのも事実だ。私の護衛であるファルークと、少し模擬戦をやってみてくれぬか」
「私がですか…お言葉ですが陛下、勇者に勝てない者と戦った所で結果は見えていると思いますが」
ファルークはアリアとの模擬戦に乗り気では無いようだ。
だが、そうは行かないのがアリアという人である。
「勇者に負けた奴に負けるのがそんなに怖いのか?なら、あたしが国王の護衛変わってやるよ!」
「女…あまり舐めたことを言うもんじゃないぞ…良いだろう。やってやる」
(うわぁ…こいつ煽り耐性無さすぎだろ。ちょろぉ…)
「では、決まりだな。裏庭に広がった場所がある。そこで良いだろう」
◇◇◇
「…では、始めようか。私の得物は剣だが、君に合わせ私も槍を使おう」
「そいつはありがたいけど、負けた言い訳にすんなよ!」
「ご忠告どうも。だが、陛下の護衛としてあらゆる物を使えねばならんのでな」
「それでは、私、メルヴィルが審判を務めさせていただきます。二人とも、準備は宜しいですね」
「私はいつでも構わない」
「あたしもいいぜ!」
「それでは、魔法使用無しの純粋な一本勝負。始め!」
ファルークとアリアの手合わせが始まる。
最初に仕掛けるのはアリア。
槍を前に構え、突撃するが、それを見切り、難なく躱すファルーク。
「良い攻撃だな」
「躱しといてよく言うぜ…」
「では、私も行くぞ!」
ファルークは槍を構えると、素早く突いてくる。
何とか見えたアリアは後ろに避けるも、パラパラと多少、髪が落ちる。
「まじかよ…」
「どうした?もう終わりか?」
「なわけ…ないだろっ!!」
後ろに下がり、距離を取ったアリアは、先ほど以上の速さで刺突を繰り返しながら、一気に距離を詰める。
「なるほどな…悪くない。が、甘いっ!」
あまりに直線的な攻撃のため、ファルークはアリアの攻撃の隙を見抜き、槍を下から突き上げると、彼女の槍を払う。
「あっ…!」
「…勝負は付いたようですね。勝者ファルーク!」
◇◇◇
その後、玉座の間から書斎に移ってきたレオン達は話を続ける。
「で、ファルークよ、お主はどう感じた?」
「はい。率直に述べますと、まだまだ発展途上といったところです。ですが、旅の最中で経験を積んでいけば宜しいかと」
「そうか。では、スカーレット嬢。そなたの同行を許可する。旅の目的については、聞いておるか?」
「はい。その点については聞いています」
「ならば良し。レオンよ、渡した物はまだ持っているな?」
「はい。マジックバッグ魔法の袋に保管しています」
「うむ。とは言え、お前達にも準備があろう。何日で出来る?」
「3日で。4日後に出発します」
「良かろう。頼んだぞ、お前達」
「「「はい!」」」
◇◇◇
翌日、始発の列車に乗り、レオン達がかつて活動していた地、レイヴォールに戻って来ていた。
「なぁ…こんなとこに何しに来たんだ?」
「ここに俺達が借りっぱなしの場所があるんだ。そこを引き払いに来た。…ほんとは、もっと早く来るべきだったんだけどな。ここで活動することは無いだろうし」
「…そっか」
「じゃあ、俺大佐に連絡するからギルド行ってくる。二人は先に行って待っててくれ」
「オッケー。じゃ、行ってるわ」
「え?い、良いのか?」
「レオンがああ言ってるから良いんだよ。ほら、行こうぜ」
「あ、あぁ…」
◇◇◇
二人と別れたレオンは、レイヴォールのギルドへやって来ていた。
「すみません、騎士団から連絡が有ったと思うんですが…」
「話は聞いてるよ。久しぶりだね、レオン君」
「リンさん。お久しぶりです」
「いろいろあったらしいけど、忙しいだろうから今度聞かせてもらうよ」
「副ギルドマスター…ありがとうございます」
「さ、こっちだ。ギルマスは仕事に追われてるから、私が案内するよ」
レオンはアルフレッドから聞いていた番号に電話を掛ける。
『はい、こちら騎士団特務課。誰を御所望ですか』
「レオンです。アッガス大佐との定時連絡をお願いします」
『何だ、レオンか。ちょっと待ってろ。あぁ、来た来た』
「ありがとうございます。シリウスさん」
『礼なんかいい。ほら、代わるぞ』
『レオンか。私だ。早かったな。こっちはまだ準備が終わってなかったぞ』
「すみません…今、大丈夫ですか?」
『謝ることじゃない。大丈夫だ。それと、次の連絡の際には今から言う番号にしてくれ。000-…それが私の番号だ。ここじゃ不味いかもしれん』
「分かりました。メモしておきます」
『では、早速本題だが、連絡してきたということは着いたんだな』
『はい。二人には先に行ってもらってます』
『確認だが、今日君達がそっちでやることは、かつての住居の引き払いと、荷物整理だ。処分していいものはそのまま、回収するものは渡した魔法の袋に入れ、明日戻って来た際にこちらが預かる。いいな?』
「はい。こっちの滞在時間は最小限に、ですよね?」
『分かってるならいい。今、11時を過ぎたところだ。16時頃にもう一度連絡をくれるか。明日迄に戻って来れるか確認しておきたいのでな。明後日出発だからな』
「では、16時頃に掛けます」
『よし、頼むぞ。こっちも準備を進めておく』
そう言うとアルフレッドは電話を切る。
電話が切れたことを確認したレオンは、ギルドを出るとかつての拠点へ向かう。
「おー、来たか、レオン。結構進んでるぜ。意外と残ってなかったわ。割とあっちに持っていったしな」
「今あるのは…あぁ、昔のか」
「…どうする?もう使うこと無いぜ?」
「二人ともー!ここのテーブルとかはどうすんだー?」
リビングの方からアリアが声を飛ばしてくる。
「家具は持ってかねぇからそのまんまでいいぞー!」
「分かったー!」
「…前も決めかねて、置いてったんだよな」
「迷ってんなら、とりあえず魔法の袋に放り込んどけよ。まだ二階もあんだぞ?レオン」
「…それもそっか。時間も無いしな。一旦詰めとくか」
◇◇◇
所は変わり、騎士団本部。総務課にて。
「俺、ちょっと煙草休憩行きまーす」
「アレックス。仕事はやってるのか?」
「ちゃんとやってますよ。ほら。じゃ」
そのまま上司の返答も聞かず部屋を出るアレックス中佐。
「…確かにな。進めているようだが…あいつはどうも気に食わん。先遣隊から異動してきたのもあって、イマイチ奴の掴み所が分からん」
「仕事はちゃんとしてるんすよね…」
「あぁ。お前らと違ってな。全く、サボり癖が無ければ優秀なんだがな…」
(こいつのサボり癖はもう周知の事実と化してるな。今のうちに探りを入れてくるか…)
「よう!特務課。暇してる?」
またも突然の来訪に嫌な顔を隠そうともしないアルフレッド。今回は言葉を返す事なく、ドアを思い切り閉める。
「え?ちょ、ちょっと!あんまりでしょ、その対応!」
「アレックス中佐…俺は忙しいんだ。お前の煙草に付き合う時間は無い」
「へー。そりゃ、また何で?」
「何でも良いだろ、仕事の邪魔だ。帰れ」
アレックスに構おうとせず、背中を押すアルフレッド。
「相変わらずキツいなぁ…分かった、分かった。帰りますよ…」
(うん?あれは…)
「ほら、さっさと帰…れ!」
冷静さより苛立ちが勝ったのか、背中を蹴飛ばすアルフレッド。
「うわっとぉっ!?危ねー、気を付けろよ。俺じゃなきゃ怪我するぞ!」
「はっ。お前なら怪我しようと構わんな」
「もういいよ。当分来ねぇから」
(来る必要無くなったし…)
「ん?何だって?」
「いや、別に?じゃあな〜」
「…何しに来たんだ、あいつは」
「あの人は大佐に殴られる為に来たんですか?」
今のやり取りを余すことなく見ていながら何も触れに来なかったレナードが口を開く。
「さぁな…そうじゃないと信じたいが」
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