第3話 YOU ARE BRAVE

「勝負あり、勝者レオン!」


「いてて、負けた…それより、聞いたぞ。今、あんたのこと、レオンって呼んだよな?しかもノア、さっき隣のその人のこと、副団長って言ってたよな?あんた…勇者レオンだな?」


「そうだと言ったら?」



体制を立て直し、まっすぐレオンと向き合うアリア。



「頼む!勇者レオン!戦争を止めてくれ!」



その言葉と同時に、頭を下げるアリア。思わず、その場の3人とも動揺してしまう。



「もう皆、争いに疲れてるんだ…人々はこの生活が日常かもしれないけど、戦いに行く人達はいつまでも終わらない争いに精神をすり減らしてる…でも!勇者が戦争を止めるか、魔王を討つ旅に出たりすれば、それだけでも気持ちの持ちようは変わるはずなんだ!勇者が終わらせてくれるぐらいの時間ならまだ戦えると勝手に思ってる!」



アリアの迫力に思わず押されるレオン達。更にアリアは続ける。



「だから頼む!勇者なんだろ!?ヴァーミリオン家の生き残りなんだろ!?もう戦争を終わらせてくれ…!」



レオンの肩を掴み、懇願するアリア。

それに対するレオンの答えは―。



「…悪いけど、今はそれには答えられない」


「え、…な、何でだよ」



頼みを拒絶されるアリア。思わず絶句してしまう。



「…君には関係ない。それに君の言うとおり、行動に移す時が来たとしても、まだ当分先のことだ。もう話は聞いた。帰ってくれ。ロベルトさん、行きましょう」


「あ、あぁ…良いのか?」


「はい」


「い、いや、こっちもそうはいか―」


「まぁまぁ!今日は一旦引いてくれ!話なら俺が聞くから!レオン、悪かったな!」



レオンに対して話を続けようとする彼女を止めるノア。

今これ以上話を続けても、無意味であることをレオンの拒絶から察したのだ。



「いい店知ってんだ!そこで早めの夕飯でもどうだ?」


「あたしはそんな呑気に食ってる場合じゃ―」


「それはそれ。これはこれ。ピリピリしてばっかだと疲れるぜ?」


「…分かったよ」



不満気な顔をしながらも、ノアに着いていくアリア。



◇◇◇



訓練場を出て、20分程歩き、ある店に到着した。



「ふぅ…よし。親父さん!やってる?」


「ノア…随分久しぶりじゃねぇか。いつ振りだ?うん?そっちの連れは誰だ?見ねぇ顔だな」


「いやぁ…ちょっといろいろあってよ…空いてる?」


「…ちょっと待ってろ。準備してくる」


「ありがとな。親父さん」


「礼なんか要らねぇ。但し、いずれはきちんと聞かせてもらうぜ」


「あぁ…わりぃな」



ノアと二人、個室で料理が来るのを待つアリア。


ノアは先ほど通された食前酒を少しずつ飲んでいる。

アリアは、この待ち時間にノアに勇者についての疑問をぶつける。



「…なぁ、何で勇者は何もしてくれないんだ…?旅のために金が要るってんなら、稼いでくるから…連れてってくれよ…!」


「金なんか俺達はいらねぇよ。資金は支給される。大体、たかが金で何が出来んだよ」


「だったら…何で?ていうか、ちゃんと教えてくれ。ノア…あんたは、勇者とどういう関係なんだ?」


「…俺は、勇者パーティーのメンバーの一人だ。そして、ただ一人の生き残りだよ」



ノアの発言に声が出ないアリア。



「…前半は予想してたことだけど…その、ただ一人の生き残りってのは…?」



アリアが驚くのも無理はない。勇者襲撃の報道はされたが、仲間の二人が死亡し、一人が植物状態にあることなど、世間には公表されていないからだ。



「言葉の通りだよ。今、勇者パーティーは俺とあいつの二人だけ」


「…え?前聞いた話じゃ5人だって…」



はぁ…とため息をつき、食前酒を飲み干すノア。



「…前の事件で、レオン以外のメンバーが重症を負った…そのうち二人は居なくなって、一人は院でずっと寝てる。俺は事件の時、そこに居なかった。だから…生きてる」


「…そんな。嘘だろ…」


「嘘じゃない。つく意味が無い。それ以降、俺達はばらばらだ。…だから、活動出来てない」



あまりのことに言葉が続かず、下を向くアリア。

ノアもその様子を見て、思わずフォローする。



「表立った活動は出来てねぇけど、何もしてないって訳じゃねぇから…流石にレオンも、勇者として何かしなくちゃいけないってことは分かってる筈なんだ。だからさ…急な話で悪いとは思うんだけど、パーティーに入る気はないか?」


「え、あたしが!?」



そのままアリアをパーティーへ勧誘するノア。流石の彼女も突然の話に頭が追いつかない。



「え、な…何で?」


「今の俺達にはあんたみたいな人が必要だと思うんだ。俺達は今、立ち止まってる。自分の足で、進めない。なら、無理やりにでも引っ張ってくれる人が必要なんじゃないかって…」


「ノア…そっちの事情は分かったし、今の話も聞いたけど、流石に考えさせてくれ。…手伝いが出来れば、とは思ってたけど、いきなり勇者パーティーに入るなんて…考えてもなかった」


「おい。ノア、話してるとこ悪いが、飯運ぶの手伝ってくれねぇか」



二人の話が途切れた所に店主が料理を運んでくる。



「オッケー。手伝うよ」



多くの料理が運ばれ、二人は食事を始める。



「突然悪いな。でも、良かったら考えてみてくれ。俺もレオンの説得はするからさ」


「あ、あぁ…」



◇◇◇



夕飯を終えた後、店の前で話す二人。



「じゃあ、さっきの件宜しく頼む。出来れば近いうちに教えてくれるとありがたい」


「あぁ、ちゃんと考えとくよ」


「決まったらさ、ヴィンスさんに取り次いでもらってくれ。あの人には俺が伝えとく。家教えてもいいんだけど、基本空けてると思うからさ。騎士団の所に行っても一人じゃ多分入れない」


「分かった。…あのさ」


「うん?」


「今日は助かった。急に押しかけてさ、勇者の案内とか、いろいろさせちまったし…」


「いいよ、別に。寧ろ、助かったのはこっちの方だ。ありがとな。送ろうか?」


「大丈夫。宿、近いから」


「そっか。なら、良かった」


「…じゃ、また今度。連絡する」


「あぁ、待ってる」



そう言うとアリアはすっかり暗くなった夜道を歩いて行く。



「まさかお前が、うちの店でナンパとは随分成長したもんだ…」



アリアがすっかり離れた後、店主がノアの様子を見に、入口から顔を出す。



「親父さん!?別にそんなんじゃないって…」


「冗談に決まってんだろ。本気にすんな。ほら、今日はもう客が居ねぇから店じまいだ。お前も帰んな」


「いや、そうしたいのはやまやまなんだけどさ…」


「ん?何だってんだ」


「俺も帰る方向同じだからさ、ちょっと時間空けようと思って…」


「はぁ…入んな。軽く付き合え」



あまりにしまらないノアの発言にため息をつく店主。

営業時間外の看板を立てかけ、ノアを飲みに誘う。



「ははは…助かるわ」



◇◇◇



軽くのつもりが結構話し込み、酒が進んだ後。

2時間程してノアが家に戻ってくる。



「ただいま〜。久しぶりに結構飲んじまったわ〜」


「おかえり、ノア。こんな遅くまで何やってたんだ?」


「え?あー…飲みに」


「一人で?」


「いや、今日お前に手合わせしてもらったあいつ」


「ふーん」



ノアが出した相手のことに露骨に興味を無くすレオン。



「で、その後親父さんと飲んでた」


「あそこで飲んだのか…おい、そこでやってるなら俺も呼べよ…」


「はは…わりぃわりぃ」


「ま、いいや。俺は明日の準備して寝るから」


「おう。後、レオン」


「ん?」



2階に上がろうとしたレオンをノアが止める。



「近々…のことについて話があるかもしれねぇ。そこは把握しといてくれ」


「あぁ…分かった」



レオンは返事をするとそのまま階段を上がり、自室へ戻っていく。



「やれやれ…ほんとに分かってんのかね…」



◇◇◇



それから3日後。

あの日の翌々日にヴィンスからアリアが答えを出したという連絡があったとのことでその翌日、つまり今日、昼頃に会うことになった。


商店街の通りの喫茶店で話をすることになり、ノアは先に入り、個室で待っている。

10分程待つと、店員に通され、アリアが個室に入ってくる。



「よ、結構早かったな」


「あ、うん…」


「…?」



彼の言葉に対し、空返事気味の返しに少々違和感を抱くノア。



「まぁ、後で教えてくれ。今は昼飯でも取ろうぜ」


「あ、あぁ…!丁度腹減ってたんだ、助かる」



ある程度食事が進み、遂にノアが切り出す。



「でさ、前の話なんだけど…そろそろ答え、聞かせてくれるか?」



アリアも遂に来たかというような表情でノアを見る。



「ノア…前の、勇者パーティー加入って話なんだけど…受けようと思う」

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