番外 -泡沫-

「レオン…何ぼーっと突っ立ってんの?」



あぁ、またか…

これはだ。

直ぐにそう分かった。


だって、あり得ないことが目の前でもう何日も続いてる。

最近、眠りにつくと、最初にこの夢を見る。

皆が居て、先生も生きている。


そんな有りもしない悪夢だ。



「レオン、僕の顔にでも何かあるかい?」


「先生…」



先生は、何でも出来る人だった。


今でも魔法に関して上回ってるとは思いにくいし、俺より多くのことを知っている。

多分、俺よりヴァーミリオン家のことを知っていたと思う。

でも、俺には言ってくれなかった。


先生が俺達に稽古を付けてくれてたのも、自衛の為に剣と魔法、スキルを知る。そう云う理由だった。

今考えれば、正体がヴァーミリオンだと露呈したときの為だろう。



「ほら、どうしたのさ。皆揃ったんだし、レオンも座りなよ」


「レオン、今日は俺達がやっと冒険者になった日だ。これから毎年、この日は祝おうぜ!」


「バーニィ…あぁ、座るよ…」



それで、俺が席に着くと次が来る。


皆が黒く染まる。影のような、実体が無いような、人間とは違う形に変わっていく。



-レオン、バーニィを見捨てて逃げたんだって?-


違う。逃げたんじゃない。


-何が違うのさ?あたしも死んだし、オリビアも目覚めることは無い。レオン、分かってるよね?-


誰がそんなこと望んだと…!


-大丈夫。分かってる。貴方は勇者だから、しょうがなかったんだよね-


君からの言葉が一番刺さる…


どうして君にこんなことを言わせてるんだ。

何で夢でも、家族にこんなことを思わせてるんだ…俺は…


自分が嫌になる。本当に。

いつまでも引きずってる。とっくにノアは立ち上がってるって言うのに。


この夢に出てくるノアは何も言わない。


俺は今、ノアに何を思ってるんだろう。

何を感じているんだろうか。


分からない。から、ノアは俺に何も言わない。


ただそこに佇んでる。何も言わず、僕を見てる。



あぁ。悪夢だ。

責められることで、被害者に成りすまそうとしてる。


全ての原因は俺だって言うのに。

逃げる理由を探してる。


赦される理由を、求めてる。



『何してる。お前の向く方向はそっちじゃないぞ』



誰だ…?



『どうした?忘れたのか?※※※だ。仲間の顔を忘れるとは、非道い奴だ。悲しいぞ、俺は』


『違う、忘れた訳じゃなくて…』



え…今、何でそんな言葉が出た?俺はこんな人知らないぞ。

…そうだ。俺は知らない。見たことも無い。

なのに…仲間?

誰なんだ、君は。



『おい、レオン。起きろよ。何ぼーっとしてんだ』



起きてるよ…君も、誰だ?光で顔がよく見えないな…



ろ…



多いな…今度は…誰?



だ…ら…お前は…きろって…



…ノア…?



「いい加減起きろって、レオン!今日は国王に呼ばれてんだろ!行くぞ!」



違う、夢じゃない。これは現実だ。



「ごめん、ノア。起きた。準備したら行こう」


「ったく…隈できてんぞ。早く寝ろよ」


「あぁ、気を付けるよ。ちょっと待ってて」


「じゃ、終わったら声掛けてくれ」



もう、あれから2ヶ月が経つ…俺も、早く何とかしないとな…



◇◇◇



現在、自室でうなされるレオンを、謎の男が向かいの屋根の上から偵察していた。



「成程…これがお前の悪夢か。レオン·ヴァーミリオン。このことはに報告させてもらうぞ」



闇夜に佇むその男は、うなされるレオンを確認した後、何処かへ消えていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る