第2章

-Prologue- あの空が高すぎたから

ゲオルギウスによる勇者パーティー襲撃より数日後。

魔王城、玉座の間。

玉座の間にて、魔王陛下の前で首を項垂れ、膝をつき、両手を拘束されるゲオルギウス。

その横には、幹部長であるグアダルーペが居る。



「ゲオルギウス…貴様、何ということをしてくれた!」


「お言葉ですが、魔王様。私は間違ったことをしたとは思っていません」


「黙れ!お前に発言の許可は出ていない、問われたことにのみ答えろ!」



拘束具を縛り上げるグアダルーペ。が、ゲオルギウスはびくともしない。

そのまま彼を睨むグアダルーペ。それもそうだろう。

自身と魔王の計画を台無しにされたのだから。




「お前は私が幹部だった頃からの古い付き合いだった…一時期失踪した時もあったが、あの事件の後に戻って来たではないか。そのお前が事件を起こすとはどういうことだ?」


「魔王陛下の為です」



ゲオルギウスは理由について何も言わない。何を聞いても魔王陛下の為としか答えない。

この押し問答に、ついに魔王も諦める。



「もういい…牢に戻せ。幹部の座は改めて検討する」


「はい」


「かしこまりました。立て、ゲオルギウス」



◇◇◇



独房に戻され、自身の拘束具を確認した後、光を見上げるゲオルギウス。



「ゲルガルドは理解していない…勇者など魔王軍にとって敵でしかない。殺すにこしたことは無いというのに。まさか…魔族にあの空は…高すぎると言うのか、魔王陛下よ」



牢の中で、窓から差し込む光に向かい、一人呟いていた。



ゲオルギウスを牢に戻した後。

玉座の間にて、二人は彼について話している。



「グアダルーペ…奴の行動、どう見る?」


「どう…と言いますと?」


「言わずとも分かるだろう。奴の変化だ」



魔王はゲオルギウスの変化に気付いていた。だが、捉え方の違いだと言われてしまえばそれまでとの考えに至ったので、疑問には思いつつも、口には出さなかった。

が、今回に限りそれは、表面化させるべきであった。



「私は彼の失踪前の様子を知りませんので…ですが、聞いていた話とは違うなとは復帰当時より感じていました」


「うむ…再編の際にも以前からの幹部が居たな。奴らも違和感は感じなかったのだろうか?」


「ふむ。…そう言えば、ジェラルド殿が変わり始めたのも幹部再編の頃ではありませんでしたか?」



グアダルーペの指摘にはっとするゲルガルド。

じっと何かを考えているようだ。



「もしや…再編時に残った幹部には何かしらあったのか?…いや、ハクジャやカイデンは以前と変わった様子は無い。勿論、私もだ」


「…私はその頃は存じ上げませんが」


「まぁ、それは時期が悪かったな。とりあえず今はその頃の話はいい。とにかく、一度調べる必要が有りそうだ。洗脳魔法等に掛かっていないか、確かめなくてはな。ラディリアスを呼んでくれ。調べることが出来る筈だ」


「かしこまりました。呼んで参ります」



◇◇◇



「すまないが、私と共に魔王陛下の元に来て欲しい」


「えぇ…めんどくさっ。まぁ、いいけど。何の用?勇者のことについてなら、僕は関与してないよ?」



ものすごく嫌そうな顔をするラディリアス。

自室で何やら研究を行っているらしく、机の上には資料を山ほど積んでいる。

周りには赤黒い液体の入った瓶や、青い煙を吐き出す物体など、様々なものが置いてある。



「あ、あぁ…勇者に関することではあるが、勇者自体の話では無い。主犯である、彼についてだ」



グアダルーペは室内に入り、扉を閉める。

そして、この部屋一帯に防音魔法を使う。



「ゲオルギウスが?どうかしたの?」


「ゲオルギウスには…洗脳魔法、若しくは催眠魔法に掛かっている疑いがある。もし、事実だとすれば非常にまずい」



ラディリアスの目つきが変わる。じっと真面目な表情でグアダルーペを見る。



「…なるほど。幹部が操り人形になってる可能性が有るっていうのは確かにまずいね…いいよ。行く」


「本当か!助かる!」


「…うん。まだ何も判明してないんだから、後でいいよ…そう云うの」



そう言って、部屋を出る二人。向かう先は勿論、玉座の間だ。



「さーて…何が待ってるんだか」


「ん?何か言ったか、ラディリアス」


「別に。何も?」


「…それなら良いが」



ラディリアスの一人呟いた言葉はグアダルーペの耳には届かなかった。



◇◇◇



暗い部屋に一人、窓から夜空を見上げるカイデン。



「あいつはもう俺の道具として使い物にはならん。やはり、自分の物を使った方が良さそうだ。グリム、居るか?」


「はい。ここに」


「お前は人間に扮して、オーガスティアのある大陸に行ってこい。お前は素体の外見がそのまま残っている。露呈することはあるまい。いずれ何かしら指令を出す」


「はっ。承知致しました」



グリムと呼ばれた者は、その場から瞬時に消える。



「転移魔法か。流石に良い素体の証だな」



そう言うとカイデンは地下へ降りる。そこには不意に拡がった研究室のような場所であり、怪し気な雰囲気がこれでもかという風に佇んでいる。



「ふむ、研究成果が出ているな…」



そこの中央には8つの円柱型の大きなポッドのようなものがあり、そのうち5つは中身が無く、もう3つは人体らしきものが液体と共に閉じ込められていた。

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