第16話 割れた太陽
レオンの勇者任命から三ヶ月後。
魔王城の一角にて。
「…オーガスティアの新たな勇者…面白い。私が実力を測ってやろう」
「ゲオルギウス様!あまり勝手な行動をされては魔王様に―ぐっ!?」
ゲオルギウスの言葉を聞き、彼の部下が止めようとするも、それは遮られてしまう。
「私の邪魔をするというのか。ならば、お前は部下に要らん。死ね」
部下の頭を鷲掴みにし、そのまま持ち上げると、部下は抵抗するが、その頭を容赦なく握りつぶす。
「私には従順な道具以外必要ない」
そう呟いた後、椅子から立ち上がり、自室から出ていく。
(
そう思い直すとゲオルギウスは退室し、何処かへと消えていく。
◇◇◇
「うおぉぉぉっっ!!」
息切れを起こすクラウドが剣を振り下ろす。が、それをレオンは難なく受け流し、彼の後ろに周り、首元に剣先をつける。
「これで俺が二本目ですね。今回も俺が取らせていただきました」
「あぁ。もう、敵わないかもな…」
「この三ヶ月で随分成長したな、レオン。俺ともやるか?」
クラウドに勝ったレオンに、次は自分もと声をかけるホッグス。
「いえ、この後予定が入っているので、今日は遠慮しておきます。明後日、お願いできますか」
「なら明後日、楽しみにしておくぞ」
「はい、僕もです。では、今日はこれで失礼します」
◇◇◇
「お、やっと戻って来たかレオン。遅いぞ、今日は明日の準備って話だったろ」
「ごめんごめん、ちょっと試合が長引いてさ」
「よっしゃ、全員揃ったし、行こうぜ!」
5人は明日の依頼の為に街へ出る。と言っても、大して難しい依頼でも無いので、準備を口実に出掛けているようなものだ。
「それにしてもよー、5人で出掛けんのは結構久しぶりじゃねぇか?」
「確かにね。家では5人で居た時が多かったけど、出掛けるのは1ヶ月振りぐらいかしら」
「1ヶ月振りか…たまにはこういう日があってもいいよな!」
ノアがそう言った直後、目の前から4人が消える。
「…は?」
◇◇◇
ノアの前から消えた4人は、森の中に転移する。が、いつも使う森では無いことは直ぐに気が付いた。景色が違い、森の雰囲気も違う。身体も先程より重く感じる。
「…何だ、今の。何処だ、ここ」
「バーニィ、落ち着けよ。先ずは魔力感知を発動して」
「あ、あぁ…分かった、レオン。…うん?これは…」
「シャル、何か反応はある?」
「…分かんない」
「分からないって?」
レオンの問いにシャルは答えず、その問いに対し、バーニィが答える。
「…レオン、恐らくだがここは、魔力地帯だ」
「!?何だって…」
◇◇◇
「おーい、レオン!バーニィ!オリビア!シャル!どこだー!」
街道を歩く最中、突如として消えた4人をノアは一人探していた。
ノアは魔力感知を発動させていたが、範囲内に4人の魔力は見つからない。
それは4人が近辺には居ないことを意味していた。
ノアは、先程のあれは転移魔法陣が発動されたのだと判断した。
「何で道の真ん中にある…?転移魔法陣は
その場で一人考え込んだ後、ノアはとある場所に向け、走り出す。
「大佐!居ますか!」
「…居なかったら入れないだろう…どうした、急に。待て、お前、どうやって入って来た?」
「今そんなことはどうでもいいんです。それより、レオン達が転移魔法陣に巻き込まれ、何処かに消えました。宰相さんか騎士団長に連絡取っていただけませんか」
「…は?どういうことだ?」
アルフレッドは、ノアの突拍子も無い話に理解が及ばなかったのと、ノアが真面目な顔をしているのを初めて見たこと。
そもそもどうやって騎士団本部に入って来たのかが分からず、三つのことで事態を認識出来ていなかった。
◇◇◇
「レオン、さっきの場所には何も無かった。自力でここから出るしか無いな」
「あぁ、今上空に炎魔法を撃った。騎士団か魔法師団が気付けば、何かしらあるだろう」
「それだけど…もしかしたら、失敗だったかもしれないわね」
「何故だ?オリビア」
「もしこれが何者かの罠なら、さっきの魔法は私達が敵の罠に掛かったことを知らせたも同然だからよ」
「…不味くないか、それ」
その状況を正に水晶で見張るゲオルギウス。
「流石に勇者の仲間だ。頭は回るか…やはり、私自ら行う必要がありそうだな」
「おや、ゲオルギウス殿。水晶で何を見てらっしゃるんです?」
「アクスか…別に大したものではない。勇者だ」
「…勇者、ですか」
アクスの顔付きが変わる。
「どうした、何かあったか。顔色が悪いぞ」
「い、いえ、何でもございません。勇者という者にいい思い出は有りませんから。それより、何処かにお出に?」
「あぁ。少し、な…」
「…あまり無茶は為さらぬようにお願いしますよ」
「勿論だ、寧ろ魔族の為になることだからな」
そう言うとゲオルギウスは水晶の間から離れ、何処かへ向かう。
「やれやれ、何処へ行ったのやら…私は忠告したぞ、ゲオルギウス」
◇◇◇
あの後、結局は何も起こらず、森で突如上がった魔法の確認に来た騎士団の人にアルフレッドを呼んでもらい、無事戻って来た。のだったが…
「…何で、お前が怪我してんだよ?」
「ははは…わりぃわりぃ。ちょっとやらかしちゃってさぁ…」
騎士団本部に連れられ、ノアと合流すると、右足にギプスを巻いていた。
「連絡が来る前に三人で捜索していてな。一度個人で探そうとなり、もう一度集まった時にはこれだ。しかも何があったか言おうとしない」
「ノア、何やったんだよ?」
「…これはまだ言えねぇ、お前らにも」
ノアが苦い顔をして答える。
「何やら特殊な症状でな。治癒魔法では完治しなかった。それで上級魔法薬の使用を申請しているが、許可が降りるには時間がかかる。変なことに巻き込まれた直後で済まないが、薬草を取りに行けないか?自分達が材料を用意すれば待つ必要も無い」
「良いですよ」
「いや…やめとけよ、レオン。なんか嫌な感じがするって」
「大丈夫だって。それに、その怪我は俺達の為に走り回ったからしたんだろ?俺達もお前の為にさせてくれよ」
「レオン…ありがとよ」
「俺等に任せとけよ、ノア」
「バーニィ…頼んだぜ」
「おうよ。頼まれた」
◇◇◇
翌日、ノアの治療薬の材料、月光花の為にとある地へ向かうレオン一行。
「…まさか、その月光花が飛ばされたあの森にしか無いとはな…」
向かう最中、バーニィが呟く。それに、オリビアが反応する。
「王国で確認されてるのはそこだけらしいわね。厚い魔力の層に覆われたあの森で、日が沈む時にだけ層が薄くなることで、月明かりで成長する特殊な花。満月の日に開花し、そして新月の日に枯れる」
「丁度昨日満月だったからね〜。一番濃い花のエキスが取れるのは今日なんでしょ?」
「厳密には満月の日に取れるものが一番濃い。だが殆どは
「何なら、昨日取れれば良かったのに。ていうか、それってどうやって取るんだっけ?忘れちゃった」
「シャル、昨日は自分達のことで精いっぱいだったでしょ、そんな余裕は無かったわ。それに、説明されたことぐらい、ちゃんと覚えておきなさいよ…一つの花に花弁が8枚あるからそれを何本分か取って魔法薬と煮るの。だから、私達がやることは花の収穫だけよ」
「オッケー、じゃあ花を探せばいいんだね?」
「シャル、そんな簡単じゃねぇぞ。ここで咲いてることが確認されてるだけで、群生地は見つかってない。この森の中から、まぁ、一人一本てとこか…探さねぇといけないんだ。大変だぞ」
「うわぁ。まじですか」
「まじだよ。ほら、行くぞ」
◇◇◇
森に入り、暫くしてのことだった。苔に覆われた木の根元にぼんやりと淡く光る花がある。
「あ!もしかして、これがそう!?」
「お、シャルあったか!よし、これで2本目だなこのペースなら、後一時間もすれば戻れるんじゃないか?」
「呑気なものだな…」
奥の方から誰かの声がした。その不気味さと、薄っすらと大柄の体格が見えるが、それよりも、声をかけられるまで気付かなかったことに恐怖を覚える。
「昨日もここに来ておきながら、またここに来たのか?随分と危機意識が低いな」
「何者だ、お前は。それ以上近づくな!皆、気を付けろ!」
「これから死ぬ者が知る必要は無い!」
猛スピードで近付き、襲いかかる謎の男。手始めに一番近かったシャルに殴りかかる。咄嗟に腕を構え、守るシャル。しかし、後方に吹き飛ばされる。
「ぐっ!?うわぁぁ!」
「大丈夫か、シャル!」
剣を構えたレオンが敵と対峙したまま、声をかける。
「防御してたんだけど、肋がやられたね…でもまだ、いけるよ!」
「てめぇ、よくもやりやがったな!」
口から煙を出したまま直立する相手に、殴りかかるバーニィ。
「勇者パーティーの仲間の実力はこんなものか?がっかりだな」
「てめぇ…言わせておけば!やってやんよ!
「やってみろ」
ゲオルギウスはにやりと静かに笑う。
◇◇◇
「オリビア、
「張れない…」
「張れない?何で!?なら、結界は?」
「やってるけど、魔力が濃いからか、敵の魔力に当てられてかは、分からないけど、何度やっても無効化されるの…」
「くっ…分かった。-身体強化-!二人にも掛けてくれ!後方支援を頼む!」
「えぇ、気を付けて、レオン。治癒魔法も効かない可能性があるから」
「…嘘だろ?」
オリビアの言葉に、レオンは一気に焦燥感が湧いてくる。
「バーニィ!加勢するぞ!」
「おう、頼むぜ。レオン!」
◇◇◇
「はぁ、はぁ…ちくしょう…まじかよ…」
「今の攻撃はなかなか効いたぞ、勇者。そこの人間も、ぼやく暇があるなら、何かしたらどうだ?ほら、こいつのように」
後ろから魔力を纏い、蹴りかかるシャル。それを躱し、裏拳で弾き飛ばすゲオルギウス。
「シャル、しっかりして!嘘でしょ…意識が無い。不味い、一刻も早くこの場を離れないと。レオン、撤退しよう!シャルが危ないかもしれない!」
「何だって!?」
レオンがそっちに一瞬、気を取られる。その隙をゲオルギウスが見逃すはずも無い。
「首は貰ったぞ!」
奴が放った手刀から斬撃が飛んでくる。
「な…」
「馬鹿!」
バーニィがレオンを突き飛ばす。ゲオルギウスが放った攻撃をもろに喰らってしまう。
「バーニィ!!」
「オリビア、俺はいい!逃げろ!使え、あれを!」
「バーニィ、でも、あれは…」
彼の言葉に、躊躇うオリビア。が、それを一喝するバーニィ。
「いいから、速くやれーっっ!」
「何をさせる気か知らんが、誰がそんなことをやらせるか」
指先から、オリビアに向かって何かを放つゲオルギウス。其れはあまりに一瞬のことで、オリビアはおろか、レオンも反応することは出来なかった。
「…え?」
心臓部を貫かれるオリビア。撃たれた先から、身体が黒色に染まっていく。
「オリビアァーー!!!」
体勢を崩すオリビアに駆け寄るレオン。倒れるオリビアを支える。
「大丈夫か、オリビア!しっかりして!」
「…大丈夫だから、そのまま居て…」
「仲間が身を挺して庇ったというのに、無駄だったな。哀れなことだ」
レオンの眼前に立つゲオルギウス。
先程まで彼とバーニィが居た場所には、バーニィのものも思われる血溜まりができていた。
「…無駄なんかじゃない…無駄には…させない!」
「おや、まだ意識があったか。強いな」
「…?」
「お前が知る必要は無い。眠れ、永遠に」
拳を振り上げるゲオルギウス。その瞬間だった。
「てめぇ、黙ってろっっ!!」
レオンの迫力に思わず気圧されるゲオルギウス。一瞬止まった時を見逃さず、秘技を発動させるオリビア。ゲオルギウスを羽交い締めにするバーニィ。
「転移魔法発動…-王都-」
レオン達3人を光が包む。その先のバーニィを残して。
「オリビア!?バーニィがまだ!」
「俺のことは気にすんな…もう駄目だ…」
そう言いながらバーニィは全身に最後の魔力を纏わせると、ゲオルギウスを押さえ付ける。
「っ!この、死に損ないが!離せ!」
「誰が離すか、バーカ」
「っ、何でだよ、バーニィ!」
「…悪いな、レオン。ノアに謝っといてくれ。花取れなくて悪いって」
「ふざけんな!自分で言―」
言い切る前にレオン達はその場から消える。
それに安心したのか、バーニィは掴んでいた手を離す。
「こいつ、今すぐ止めを…その必要は無い、か…」
バーニィは既に息絶えていた。
「…ちっ、逃したか。まぁ、いい。あれはもう、駄目だ」
そう言い残し、森の奥へ去るゲオルギウス。
その場に残っていたのは、戦闘の痕跡と、一人倒れるバーニィ。その手元には月光花が落ちていた。
◇◇◇
「ラドルファス殿、魔王軍の件なのだが…」
「どうしました、メルヴィル」
「うむ、陛下に頼まれて―」
王城にて、メルヴィルとラドルファスが話している目の前に三人は飛ばされた。
「な、何だ?いきなり、レオン殿?それにオリビア殿と…シャーロット、殿…」
「メルヴィル…二人は…」
「言うな、まだ可能性はある筈だ…お前は…駄目だったな。誰か、治癒師を呼べ!シャーロット殿とオリビア殿が危ない!」
「は、はい!」
「オリビア嬢は私に任せろ。心当たりがある」
「ラドルファス、頼む」
「…メルヴィル、さん…」
「オリビア殿!意識があったか!何があったのです!?」
「レオンとシャルを…お願いします…レオンが…狙われ、てる…」
(何という強い人だ。自分のことより先に相手のことが出るとは。死なせてはならん!)
「オリビア殿!?治癒師はまだか!」
「申し訳ありません!遅れました!」
治癒師が3人に治癒魔法をかける。が、二人に効果はあれど、シャルは辺りが光るだけで傷が癒えない。
「イヴァン!もっと強いものを掛けなさい!」
「私に出来る最上級のものをやっています!効果が無いのであれば…結論は一つしか有りません…」
「う、うぅ…」
「レオン殿!?目が覚めたか!」
「メルヴィルさん…バーニィが、敵にやられてる…今日、俺達が行った…森です…」
「分かりました。直ぐに救援を出します。早く身体を治さないと!」
そのまま、レオンはもう一度意識を失う。
「レオン殿?レオン殿!しっかりしなさい!」
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