第15話 勇者は発展途上

勇者として活動し始めてから、一ヶ月。

レオンは順調に成長していた。が、とある問題に直面していた。


レオンは魔法師団長オーウェンにとある場所に連れて来られた。



「お前は魔法の使い方が下手だ。しかも構築するのが遅い。こんなことでは冒険者はおろか、実戦など到底無理だ」


「いや、2年間冒険者としてやって来たんですが…」


「ということで今日はこれだ」


「無視かぁ…」



レオンも一応の抗議を試みるものの、スルーされる始末。



「こいつを壊してみせろ」


「…いや、無理ですよ…」



レオンの言葉を聞き、彼は顔をしかめる。



「…何?たかがこんな岩程度も破壊出来んのか」


「いや、それにしてもこれは無理ですってぇぇ!!」



レオンの前にあったのは、最早岩というレベルを超えた、山の一部をもぎ取ったとでも言うべき塊であった。



◇◇◇



騎士団長ホッグスとの特訓を始めてある程度経った後、魔法師団長オーウェンとの特訓も始まっていた。


出会いの印象が良くなかったこともあり、当初はぎこちない様子が続いていたが、2回目の特訓の際に起きたとある事件により、大分関係は改善された。全てを説明すると長くなるため、それはここでは割愛する。



「何だ?もう一度説明が必要か?。そう言っただけだが」


「いや、それが問題なんですって!砕く岩が大きすぎますし、そもそも大魔法は一人で発動させるものじゃない!」


「ヴァーミリオンならそれぐらいやってみせろ。お前の父は出来ていたぞ」


「…はぁ。何を使えばいいんですか?基本五属性は使えますが」


「…ふむ。では、大暴風ウインドストームはどうだ?あれは初心者と熟練者の違いが直ぐに出る。一定の大きさの塊に刻んでみろ」


「…分かりましたよ。失敗しても文句は無しですよ!」


「構わん。寧ろ、失敗した方が教えがいがあるというものだ」



レオンが魔力を練り上げると、辺り一帯に風が吹き始め、彼の手元に収束していく。



「もっとだ。もっと魔力を練り上げろ」



二人の周りに風が吹き荒れる。オーウェンは風魔法を自身に纏わせ、いなしている。



「行きますよ。風魔法-大暴風ウインドストー-!」



レオンは手を前方へ向け、魔法を岩に向かって放出させる。魔法が直撃し、岩の前面部分は綺麗に砕かれたが、中央より後方は砕けず、幾らかの切り傷が残る程度だった。



「くそ…半分か」


「いや、上出来だ。一度目で半分砕くとは想定以上だ。訓練場に戻るぞ」


「え、ここじゃなくていいんですか?」


「あっちの方が楽なのでな。それとも、まだ壊し足りないのか?」


「いえ、大丈夫です!」


「だろう?では、戻るぞ」



◇◇◇



訓練場の裏山から戻って来たレオンとオーウェン。二人は今一度、魔法について復習していた。



「レオン、ルイスから完全詠唱は習ったか?」


「いえ、無いです。師事してある程度経った頃に聞いたことがあったんですが、自分は教える気はないので誰かに聞けと言われました」


「ふっ。だろうな。あいつは完全詠唱を研究分野としては好んでいたが、実用性には肯定的では無かったからな」


「何故なのか聞いていいですか?僕達は無詠唱や詠唱短縮が基本なので完全詠唱については知らないので」


「完全詠唱は確実性があるが時間と魔力を喰う。詠唱短縮は両方の長所を取り入れている。戦闘ならこれが一番良いだろう。そして、無詠唱は構築速度も速く、魔力の消費も少ない。一つ懸念が有るとすれば、詠唱する時に比べ、確実性に欠ける。つまり、失敗の可能性があるということだ。勿論、詠唱自体を間違えれば詠唱魔法も失敗するがな」


「なるほど。そうなんですね」


「だから大魔法は基本複数人で詠唱を行うのだ。一人で無詠唱で行使するなど、一般の人間はしない。そもそも魔力が足りん」



その発言にレオンが反応する。



「オーウェンさん!何てことやらせてるんですか!」


「だが、使えていただろう?何の問題も無い」



オーウェンが不敵な笑みを浮かべる。レオンに反論の余地は無かった。



「くっ、それはもっともかもしれないですが…」


「よし、座学はここまでだ。実戦に戻るぞ」


「はい、お願いします!」



◇◇◇



特訓が終わり、戻ってきたレオン。リビングでは先に戻っていたバーニィが装備品のチェックを行っており、二人は他愛もない話をしていた。



「それでさ、レオン。別に勇者として何か特別してるわけでも無いけどいいのか?2日に一度、騎士団長と魔法師団長の特訓は受けてるけどさ」


「当分は修行だってさ。でも、冒険者としての活動続けていいって」


「へぇ…じゃあ明日早速何か受けるか!」


「ノア、帰ってたのか。食料はちゃんと買ってきたんだろうな?」


「いや、バーニィ、俺を何だと思ってんだよ。買い物ぐらい一人で出来るっつーの」



ノアがいじられたことに反応する。



「まぁ、それもそうか。で、何買ってきたんだ?」



それに、バーニィが笑って応える。



「それだよ!聞いて驚け、見て喚け!なんと王鶏キングチキンの串焼きが5本で2割引きだったんだよ!」


「「…は?」」



レオンとバーニィの二人は目を見合わせ、ため息をつく。



「…いや、何だよその反応。まさか、驚き過ぎて声も出ないのか?」


「ノア…俺達は確かに驚き過ぎてるよ。…ノア、お前のドあほっぷりになぁ!!」


「はぁ?何でそうなんだよ!」


「王鶏がこんなところに売ってる訳ないだろ!滅多に人前に出ないのに串焼きになんかなるか!」



バーニィが串焼きを出し、一口食べる。



「うん…普通に鶏の串焼きだな。ノア、食ってみろ」



バーニィから自分の分を受け取り、食べてみる。

いつも食べる鶏の味がした。



「…騙されたぁー!!」



ノアが雄叫びを上げる。すると、オリビアとシャルの二人が階段から降りてくる。



「3人ともうるさいよ。静かにやりなさい」


「なーにやってんの?3人で」


「聞いてくれよ。それがさ、ノアが…」



◇◇◇



3人の争いにオリビアとシャルの二人も加わったことで収束した。はずだった…



「…すみませんでした」


「…いや、俺達も言い過ぎた。で?他は何買ったんだ?」


「いや、その、えっと…串焼き《それ》だけ…」


「へぇ…一週間分の食料費で串焼き五本だけ、買ってきたんだ?君は」


「い、いや、お釣りはある…」


「はい?」



シャルがマジで切れている。流石にノアもふざけられない空気を察した。



「ねぇ、ノア」


「は、はい。何でしょう」



シャルの呼びかけに思わず敬語で答えるノア。本気のシャルは怖いということを誰よりも知っている。



「今週ご飯抜きと自腹で新しく買ってくるかどっちがいい?」


「じ、自腹で買ってきます…」


「なら、よろしい。じゃあ私たちはこのただの鶏の串焼き食べてるからよろしくね」


「え、今ですか?」


「じゃなきゃいつ行くの?」


「はい…」


「ノア、俺も行くよ。荷物多いかもしれないしな」


「レオン…!ありがとよ、俺は嬉しいぜ!」



買い出しの帰り道、女子って怖ぇなぁと感じるノアなのだった。

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