第14話 幹部長の憂鬱
「あら?もう始まってたの?ごめんなさいね、遅れちゃって」
「姉さん、久しぶり!会いたかったよ!」
ラディリアスが彼女に抱きつく。彼女は優しくそれを受け止める。
「あらあら、ラディ…」
「君が遅れるとは珍しいな。もう始めていたぞ、エステファニア」
彼女は幹部の一人、エステファニア。彼女は魔族には珍しい治癒魔法の使い手だった。
「ちょっと色々有ってね…さっきまで仕事してたのよ〜」
「ま、それなら仕方ない。別に責める気も無いしな」
「で?何の話?今話題の勇者のことかしら?」
「あぁ。ラディリアスにも伝えたが、新しい勇者についてだ」
「あら、そう…私その子に別に興味無いのよね〜。戻ってもいいかしら?」
「別にいいが、話の共有はしていってくれ。ハクジャにも言われたが、緊急招集を使いはしたが手出し無用ということを伝えるのと、業務の進捗を聞くぐらいしか今回は無い」
「ふ〜ん。なら、残るわ。情報共有は大切だものね」
「これでやっといつもの人数が揃ったな。グアダルーペ殿、進行を」
「あぁ。そうだな、ディミトリ。では、今回の幹部会議を始めよう」
「「「「「はい、幹部長」」」」」
◇◇◇
「はぁ…疲れた。いつも真面目なのは最初だけ。後は好きにしてる。魔王様も何故あぁも個性的な人材を認めたのか…」
『ラディリアス…魔法で遊ぶんじゃない!マリウスが困ってるだろうが!』
『いや、困ってないと思うよ。消える炎を周りに浮かせてるだけだし。精々鬱陶しいぐらいじゃない?』
『…分かっているならやめろ。壊されたいのか?』
『おぉ、怖い。オーケー。ここらにしとくよ〜』
『…相変わらず器用な奴だ。フィンガースナップで魔法を解除するとは。そういうことをもっと魔王軍の為になることに使ったらどうだ』
『それは嫌。僕は、自分が気分良く過ごす為に自分の魔法を使うって決めてるんだ』
『気ままな奴だ…』
『ラディ…皆に迷惑かけちゃ駄目よ?』
◇◇◇
「あいつらを纏めるのは疲れるな…」
「再編の際の選抜で結果を残したからではありませんかな?幹部長殿」
「えっ?」
グアダルーペが後ろを向くと、相談役のアクスが居た。
彼の気配に一切気が付かなかったグアダルーペは少し驚いた表情をし、ほっと息を吐く。
「先生…驚きましたよ。居るなら普通に話し掛けて下さい。それに先生に敬語を使われるのは未だに慣れないですね」
「はっはっはっ。良いんだよ。引退している私より君の方が立場は上なのは当たり前だ。気にすることは無い」
「私が気にするんですよ。昔のように話し掛けて下さって構いませんので」
「そうかい?じゃあこういう時は普通に話させてもらおうかな」
「お願いします。では、私はこれで」
グアダルーペが軽くお辞儀をし、この場を去ろうとする。
「せっかくだ。ついて行こうかな」
「おや、大丈夫なんですか」
「仕事も別に多くないしね。偶には弟子の仕事を見させてもらうよ」
「御手柔らかにお願いします、先生」
◇◇◇
「ふぅ…扱かれた…」
「幹部長!」
「…今度は何だ!」
珍しく気が立っているグアダルーペ。いつもは完璧に抑えている魔力が溢れていた。
「ひっ…す、すみません。レイモンド殿より、魔王軍を離脱するとの報告が」
そのため、部下を強ばらせてしまった。が、彼もグアダルーペの部下。ある程度のことには馴れているため、直ぐに持ち直し
「何!?レイモンド殿は何処に居る!そのような話は聞いてないぞ!」
「は、はい。先程魔王城を出立しましたので、まだ近くには居られるかと」
城門を出たグアダルーペは魔力感知を発動させる。
魔王城からある程度離れた場所に高速で移動する、覚えのある魔力があった。それが目当ての人物だろう。
その魔力目掛け、グアダルーペは猛スピードで飛び立つ。
ものの数分で見える距離まで追い付いた。
「おい、レイモンド!待て。許可無く離脱するとはどういうつもりだ」
その言葉が聞こえたのか、飛ぶのをやめ、空中で停止する男。
距離を取り、グアダルーペも停止する。
「どういうことだと?それはこっちの台詞だ。いつまであんな戦争ごっこを続ける気だ。俺はあんな遊びに付き合うつもりは無い!」
「…我々に必要なのは争いではなく対話だ。何度も魔王様や私が説明しただろう。何故それが分からない…」
「…幹部が再編されて以降、魔王軍は弱くなった。今の魔王軍について行きたいとは思わない。第一、俺はもう辞めた。お前の命令に従う義務は無い。じゃあな」
突如、真っ白な閃光が辺りを包む。
「くそ…やられた。使わせないよう気を付けていたつもりだったが…始めから準備していたのか?…近辺には居ない、か。仕方ない、戻ろう。魔王様に伝えねば」
◇◇◇
「…そうか。レイモンドが、か。あやつはかなり古参であったからな。残念だ」
「申し訳ありません、魔王様。魔王軍の求心力が弱まっているのは私の責任です」
「そう言うな、グアダルーペ。その方針を認めたのは私だ。元来、魔族は戦闘を好む者が多いのは確かだが、全ての魔族が肯定的という訳ではない。寧ろ、嫌う者も一定数居る。それはお前が知っている筈だ」
「はい。身に沁みて承知しております」
「グアダルーペよ。お前には苦労をかけるな」
「いえ、主の為に身を捧げるのは当然のこと。これはディミトリも共感してくれるものと思います」
「そうか…私は部下に恵まれたな。よし、行っていいぞ、グアダルーペ」
「はっ。では、失礼致します」
玉座の間から退出するグアダルーペ。その顔にはかなりの疲労が浮かんでいた。
「頭痛い…明日は休暇取るか」
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