第10話 職判明

レオンが国王との面会を終えた後、5人は王城の客室に移ってきていた。


先ずはその広さと絢爛さに驚いていたが、シャルとノアは、出された食事の豪華さの方が上回ったようだった。

しかもその待遇も良く、宿泊する部屋は各個人に一人ずつということだった。



◇◇◇



翌日、レオンとノアがジョブの判別を受ける時間が近付いてきていた。



「あいつらが判別受けなかったのはそういうことか…」


「二人が自分の職知らなかったのも納得だねー。だって騒ぎになったらまずいもん」


「今日やっと受けられるようになって良かったね。二人さっきからずっとそわそわして、嬉しそうだったもの」


「あぁ。これでより、冒険者生活が楽しくなるぜ」


「本当にそうかなー」



「どういうことだ?シャル」



シャルの呟きにバーニィが反応する。



「いや、何となくだけどね。今までとは違うし、おんなじようには行かないかなーって」


「…そうかもね。なら、合うようにすればいいだけのことじゃない?」


「おぉ〜。流石オリビア。さらっと言うねぇ」


「ま、オリビアの言うとおりだな。何も一つに拘り続ける必要はない。その都度、対応していけばいいさ」


「二人は今頃判別を受けてる頃かしら…」



◇◇◇



レオンとノアの二人は、メルヴィルに案内され、職の判別を行うための部屋に案内されていた。



「では、司祭を呼んで来ますのでこちらでお待ち下さい。準備ができましたらお呼びします」


「はい。分かりました」



メルヴィルが退室する。扉が閉まるのを見届けた後、ノアが早速レオンに声をかける。



「なぁ、レオン…お前、何だと思う?」


「剣は師匠に教えてもらって、魔法も使えるから適性あるってことだし…魔法戦士だといいな。今と殆ど変わらないし」


「魔法戦士と剣士って基本的には、大して違いないもんな。天職か本職かぐらいだろ?」


「魔法戦士の中の一つが魔法剣士だからな。魔法剣士自体は天職には無い。が、本職として使うことができる。魔法戦士としてひと括りにされてるからな。魔法を使って近接戦闘をする魔法戦闘士も同様だ」


「ほぉ、レオン殿はよくご存知で」



二人を呼びに来たメルヴィルが二人の会話に乗ってくる。



「メルヴィルさん!実は師匠に色々と教わりまして…」


「…なるほど。あれ程の者に師事したのであれば納得ですな」


「やっぱりですか…メルヴィルさん、師匠のことを何か知っているなら教えてもらえませんか」


「ルイスのことを…ですか。多少のことなら構いませんが、あまり気は進みませんね…」


「…知ってます。師匠は2年前、姿を消しました」


「…そうですか。やはり…」


「てか、メルヴィルさん。今扉開きました?」


「ノア殿、私は内側を通って来たのですよ。さぁ、準備が出来ました。こちらへどうぞ」


「内側…?」



◇◇◇



部屋の中央には台座の上に水晶が置かれ、髪を後ろに流し、一房だけ前に垂らした眼鏡をかけたメルヴィルよりは若そうな壮年の男性が立って、レオン達を待っていた。



「メルヴィル、遅いですよ。貴方はたかが二人呼ぶのに随分時間がかかるのですね。私は無駄なことが何より嫌いだと、長年言っているはずですが」


「そう言うな、ラドルファス。その待ち時間は無駄になってなどおらん。待つだけの価値がある」


「…その少年二人が?わざわざ私を呼ぶほどとは思えませんが」



その言葉に、ノアが噛み付く。



「おっさん、何様だよ。判別やってくれるのは有り難いけど、口わりぃぞ」


「で、メルヴィル、その二人は誰です?」


「おい、無視すんな!」


「いいよ、ノア。気にするな」


「お前にかかってきた方がノア·マクスウェル殿。ケイン殿の息子だ。そして、制止した方がレオン·ヴァーミリオン殿。ルーファス殿の孫にして、エリオット殿の息子だ」


「何と…生きていたのか。確かにこれは価値があることですね」



ラドルファスは目を見開き、まじまじと二人を見る。



「…納得いかねぇ」



ノアはラドルファスの手のひら返しに不満げな様子だった。



◇◇◇



「さて、そろそろ判別をやりますか。メルヴィル」


「あぁ、じゃあ水晶を起動させてくれ」


「主ラドルファスが命じる。選定の水晶よ、目覚めなさい」



ラドルファスがそう命じると、水晶が光り、浮かび上がる。



「凄い…どうなってるんだ」


「さあ?伝聞によれば数百年前のある人物によって作られたものだとか…私は興味ありませんがね。さぁ、どちらからやるんです?」


「先ずは俺からだ!」


「え、ノア!?最初は俺じゃ―」


「楽しみは後に取っとけって。そう思いません?メルヴィルさん」


「まぁ、どちらからやっても変わりませんし、私は構いませんよ」


「では、ノア。上の水晶に魔力を飛ばしなさい」


「はーいよ」


そう言うとノアは右手を水晶に向け、開いた掌から、緑色の魔力を放出させる。


「ほう…珍しい。君は、遊撃手レンジャー盗賊シーフ等が合いそうですね」


「パーティーじゃ、遊撃手やってますよ」


「君に遊撃手を推奨したのは誰です?随分とセンスがいい…」


「…師匠。ルイスって人」


「ルイス…もしやルイス·バーネットですか?あ、もう魔力の放出は大丈夫ですよ。片目を前髪で隠している、金髪緑眼でよくフードを被っていた男…」


「…何で皆、師匠のこと分かるんだ。王城で働いてたってのと、勇者パーティーに一時期居たってことはちょっと前に聞いたけど…」


「…彼は過酷な運命にあることが、本当に惜しい人間でした。まさしく天才だった。あれ程の者があの家系に生まれたのは、良くも悪くも運命だったのでしょうね…」


「…?分からねぇ…」


「ルイスから教えられてないのですか?幾ら弟子とはいえ、言うのは憚られましたか…」


「いや、何年か前にそろそろ寿命って話は聞いてた。左胸の紋章も見せてくれたし」


「…その理由については聞いていない?なるほど…」


「師匠のことを知ってるなら教えてくれ!俺たちは元々それを―」


「すみませんが、判別が終わりました。今はここまでにしましょう。それに、その話は他の方も聞きたいのでは?」



ラドルファスが水晶から目線を移し、レオンの方を見る。

ノアも皆のことを考え、今は追求することをやめた。



「…いつか続きを教えてくれるか」


「えぇ、良いですとも。会えたら…ですが」


「?」


「さて、君は…ほう、暗殺者アサシンですか。魔力的に見れば合っていると思いますが、君、前線に立ちたいタイプでしょう?」


「分かる?俺はガンガン前に出たいんだよなー」


「ですが、天職はあくまでも目安。必ずしもそれでないといけないなんてことはない。君は先代騎士団長の天職を知っていますか?」


「知らんけど、それが?」


「彼の天職は治癒師でした。しかも戦闘魔法にも適性が有りました。分かりますか?彼は騎士になど向いていなかったのです。ですが、今尚支持される名騎士団長として、彼は亡くなって十年以上が経った今も騎士達に尊敬の念を抱かれています。つまり、己が人生は自分で切り開くものということです。…私には出来ませんでしたが…」


「なら俺は、堂々たる暗殺者になるぜ!」


「矛盾してますよ。まぁ、それも良いと思いますがね…さぁ、次は貴方の番ですよ!レオン」


「ラドルファスさん、ありがとうございました」


「私は頼まれたことをしただけですから。礼など必要ありませんよ」



ノアは下がり、メルヴィルの元へ戻る。レオンとハイタッチをして、レオンが水晶の元へやってくる。



「今のは見ていましたね。貴方も水晶に魔力を飛ばしてください」


「はい」



レオンがノアと同じように手を上にあげ、魔力を放出させる。レオンの魔力は炎のような赤色だった。


「ふむ…君は前衛職ですかね。パーティーでは何を?」


「魔法剣士をしてます。天職が何かは分からなかったですけど、剣も魔法も使えたので、ラドルファスさんの言ってることは合ってると思います」


「…君は父上に似ていますね。顔つきもそうですが、性格もよく似ている。魔力の色も同じですしね」


「父さんも赤だったんですか?」


「えぇ。其れはもう。燃えるような赤い魔力を纏ってここに来た時は本当に驚きましたとも」


「父さんも…ここで…」


「何なら、君の祖父もここで受けていますよ。彼は紫色の魔力をしていましたね。親子三代がここで判別を行い、其れに私が関われるとは…運命とは、粋なことをしてくれますね」


「…ラドルファスさん、貴方は―」


「おや、目の色は母親から受け継いでいるんですね。エリオット殿は魔力と同じ赤でしたが、君は青ですか」


「え!?母さんも知ってるんですか?」


「えぇ。君の両親と、彼の父、ケイン殿はエリオット殿が勇者を襲名する前に、3人で冒険者パーティーを組んでいましたから。勇者パーティーとして、再編された際に今の騎士団長と魔法師団長になる前の二人が、ルーファス殿の推薦で加わり、一時期、君達の師であるルイスも参加していたのですよ」


「…そう云うことがあったんですか…」


「えぇ。おや、判別が出たようで…すね…何、と。初めて見た…メルヴィル、早く此方へ来なさい!」



メルヴィルがこちらへ駆け寄り、ラドルファスの肩を掴み、水晶を見る。



「どうした、ラドルファス、何が見えた…まさか。これは…事実か?」


「…えぇ。水晶はその者の天職を表す。そう云う『ルール』ですから」


「え…?何ですか、二人して固まって。俺の天職は一体何だったんですか?」



メルヴィルとラドルファスの狼狽えに、レオンも自身の天職は何かと焦燥感が湧いてくる。



「レオン…君の天職は『勇者』です。初代勇者以来の。…千年振りの再来です」


「…え?」



ラドルファスの言葉に、レオンも自身の耳を疑った。

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