第9話 国王とレオンとヴァーミリオン
「まぁ、昨日のことは気にするな。…準備はいいか?行くぞ」
「はい、いつでも行けます」
頬を軽く叩くとレオンは気合を入れ、真っ直ぐな視線をアルフレッドに向ける。覚悟のついた顔を見て、彼も表情が一層締まる。
「よし、良い表情だ。出るぞ」
「はい!」
アルフレッドは待機室の扉を開けるとレオンに視線を向ける。それは彼にも通じたようで軽く頷くと立ち上がり、部屋を出る。
「いいか?レオン。私がついて行けるのは扉の前までだ。入ると陛下と宰相殿、それと近衛師団長が居る筈だ。騎士団長と魔法師団長は居ないから安心しろ」
「もう別に居ても構いませんけどね…。魔法師団長はともかく、騎士団長さんは悪い人じゃ無さそうですし」
レオンは受け入れたような表情で中佐に答える。
「…まぁ、あれは良い印象は与えないか。あぁ言っといてなんだが、私もあの対応は好かん。特にうちの団長じゃない人の対応はな」
アルフレッドもそれに同意する。
◇◇◇
レオンとアルフレッドの二人は、謁見の間の扉の前までやって来る。
とうとうこの国の王に会う時が来たのだ。
「いいか?今日は君と陛下の顔合わせみたいなものだ。唯一の生き残りとして面会するだけ。時間はかかるものではないし、まず今日は何も無い」
「今日は…ですか」
アルフレッドが苦しげな顔をする。
「…会えば分かるだろうが、陛下はヴァーミリオンを大層気に入っていたことで有名だ。幼い頃には、先代騎士団長が騎士学校在学中にも関わらず、自身の専属騎士になるよう押し掛けたという逸話もあるくらいだ。その孫が生きていたんだ。こう言っては何だが、何かしらはあるだろうさ」
「じゃあ…行ってきます」
「大丈夫だ、陛下はお前個人を見てくれる。安心して行ってこい。これは内密なものだから、跪くとかそう云う堅苦しいのは無い。扉が開いたら一礼、後は向こうの言うとおりで大丈夫だ」
レオンは頷くと、ドアノッカーを使い、ドアを叩く。
すると、扉が音を立て、開いていく。
中には、荘厳な雰囲気を醸し出す背の高い人物が玉座の前に居り、その佇まいは圧倒的なものを感じさせる。
その目は真っ直ぐレオンを見ていた。
その左側には身なりの良い初老の男性が居り、入ってきたレオンに驚いている模様。
右側には純白に金の装飾が施された鎧を装備した、アルフレッドと同年代程と思われる青年が立っており、何故かレオンを鋭い目つきで見ていた。
レオンはそれらに臆することなく、一礼すると、真っ直ぐ彼らに向かい、進んでいく。
「そこで止まれ。名を名乗るといい」
玉座の前の人物がレオンに名乗りを求める。
レオンは玉座の間のすぐ前に立ち、深呼吸をしてもう一度彼らを見る。そして、口を開く。
「レオン·ヴァーミリオン」
玉座の人物が、初老の男性に視線を向ける。
それに応え、頷く。
「では、まず、レオン·ヴァーミリオンよ。ここは公の場ではない。故に、堅苦しいのは無しだ」
玉座の前から近付き、レオンの目の前までやって来る。
鎧の男がそれに反応する。
「陛下!近付き過ぎでは!?」
「口を挟むな。許可を出した覚えはないぞ」
「っ…。失礼致しました」
「レオンよ。私も名乗ろう。余はフェニクス·オーガスタ。オーガスティア王国国王である」
国王の後、宰相、近衛師団長からそれぞれ名乗りを受け、国王直々にとある場所へ案内される。
「あの…宰相さん、これは一体何処に向かっているんですか…?」
レオンは歩きながら、宰相に質問する。
「私のことはメルヴィルとお呼び下さい。貴方のお祖父様と父上には大変お世話になりました」
「では…メルヴィルさん。陛下は僕を何処に連れて行くのでしょうか?あれから何も仰られないので…」
「…とある部屋がございます。陛下は其処にレオン殿を連れて行くおつもりかと」
「なるほど。…それとあの後ろの二人の小競り合いは一体…?」
レオンとメルヴィルの二人は、後方に視線を向ける。
「何故お前が此処にいる。アルフレッド·アッガス」
「私はレオンの専属なんでな。何か問題あるか?ファルーク·ザカリアス」
「専属が居ることに反対などしておらん!が、何故よりによってお前なのだ!」
「騎士団として任務を承ったのが俺だからだろうな」
「くそっ…。お前が居ることはもういい。が、一つ聞きたいことがある」
「…何だ」
嫌そうな顔をして、アルフレッドはファルークの言葉に反応する。
「本当に…本物なんだろうな」
ファルークのその言葉を受け、更に目つきが鋭くなる。
「お前…認定を受けて尚、あいつ《レオン》を信用出来ないのか?陛下が認めた人を?」
「十五年前に消息を絶った赤子が今になって、都合よくこのタイミングで見つかるのか…ということだ。お前も騎士団なら分かるだろう…」
「…あぁ、魔族との戦争はここ数年で激化している。一刻も早く勇者が必要なんだろう」
「そうだ。…だからあの部屋へ連れ、話をするのだろう」
◇◇◇
レオン達は国王の書斎に入ると、隠し部屋の仕掛けを作動させる。
本棚が半分に分かれ、下へ続く階段が現れる。
「レオンよ。私とメルヴィルと共にこの下の部屋まで来れるか」
「はい。行けます」
国王の問いに、レオンは迷うことなく答えた。
「よし、ならいい。メルヴィル、行くぞ」
「では、陛下。我々は扉の警護を」
「うむ、頼むぞ。ファルーク」
◇◇◇
国王、レオン、メルヴィルの順で下へ降っていく。
レオンは階段をくだりながら、辺りを見回していた。
(何だろう…。この空気感、知ってる気がする…。でも、村に居た時も、街に移ってからもこんなところ入ったことが無い…)
「…レオンよ」
「は、はい!」
「お主はここに見覚えでもあるのか?」
「いえ、無いはずなんですが…初めて入った気がしないというか、不思議な感覚があって…」
「そうか…」
暫しの沈黙が流れ、広がった場所の扉の前に立つ。
螺旋模様の入った珠を取り出すと、扉の穴に嵌め込む。
すると解錠音がし、扉が開いていく。
「こ、ここは…」
「私の私的な書斎であり、代々国王が引き継いでいく部屋だ」
見ると部屋一帯に何かの資料が山のように積んでおり、壁にも新しいものから古びたものまで様々な物が張り巡らされていた。
「…ここは国王と僅かな者のみが入ることを許される『継承の部屋』だ。最古の資料はこの国の建国以前のものもある」
「…凄い」
「何を言うか。全てお前達ヴァーミリオンに関する資料だ」
「…えぇっ!?」
「事実ですよ。ここはヴァーミリオンの持つ固有スキル『継承』になぞらえて作られた、ヴァーミリオンを知るための部屋でございます」
「レオンよ。この部屋でお前に関することと、自らの生家であるヴァーミリオン家について、お前に教えよう。だが、私も全てを知っている訳では無い。寧ろ、これだけの資料があっても尚、王家が把握していないことはある。勿論、今ここで知っている全てを伝えることは不可能だ。なので今伝えるのは、優先度が高いと私が判断したものだ。それ以外は後々伝えることにする。良いな?」
「は、はい…」
それからレオンは、本当に多くのことを聞いた。
始めに、ヴァーミリオン家は王家と共に帝国から独立するため、戦ったということ。
王家を発足させるにあたり、ヴァーミリオン家と王家は平等にあるが故に、貴族にはならずに政治に関わらず、軍務にのみ関わることを締結し、本来は騎士団長になることも無かった。が、初代が騎士団長を務めたため、騎士団は国に仕えるということで例外として許されることになったということ。
今から凡そ千年前に初代魔王と戦い、幾日にも及ぶ激闘の末に討った初代勇者が居り、その者もヴァーミリオン家の人間であり、その初代魔王とは相討ちになったという伝説。これも御伽噺ではなく事実であり、記録が残っているとのこと。
祖父、ルーファスは先代騎士団長で、
アルフレッドから聞いた勧誘の話も国王本人から聞くことになった。
何度もフェニクスが勧誘することで遂に折れ、専属騎士にはならないが、騎士団長になるよう尽力すると。
レオンの父、エリオットは職が魔法戦士であり、一般的に外れであると認知されていたが、エリオットが魔法も剣技も両立出来たことにより、魔法戦士等の複合職のイメージが塗り替わったと。
その話から、ある話題になった。
「そういえばレオンよ、お主の職はなんだ?」
「僕ですか?魔法剣士をしてます」
「違う。それはお前の職であろう。幼い頃に職の判別をやるだろう。生まれ持った天職の方だ」
「あぁ…そっちですか」
それを聞くと、レオンは少し困った顔をする。
「ええとですね…やってないんです」
フェニクスが目を見開く。
「何故だ?」
「叔父さんに受けないと言われて…」
「…身柄の安全の為か。ヴァーミリオンと判明する可能性が有るからな。なら、ここで受けてみるか?」
「では、ノアも一緒の時で良いですか?彼も判別は受けてないので…」
「構わんぞ。ケインの息子だな」
「陛下、本日はそろそろに致しましょう。かなり時間が経っておりますゆえ」
「ふむ、そうだな。レオン、宿は仲間達と共に王城を使うといい。用意させる」
「今は騎士団が用意してくれた所に居るんですが…」
「こっちの方が安全であろう。それに、職の判別を受けるのだろう?」
「ええと…じゃあ、宜しくお願いします?」
「うむ、こちらこそ宜しく頼む」
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