第7話 王都へ

あの日の話し合いから5日後、全員で王都へ向かう日が来た。


あの後はアルフレッドとの話の後、ダムド公との今回の襲撃の救出に対する報酬についての話が行われ、一人ずつに金貨が10枚ずつ支払われることになった。

それを聞いた彼らは全員が卒倒する勢いだった。

基本的な冒険者ギルドから支払われるのは銀貨からだ。

大銅貨や小銀貨の時も多い。

下から順に、オーガスティア小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨、白金貨となっているので、その重さが分かるだろう。



「準備は出来たか?暫くここを後にするんだ。何か残しておくと面倒だぞ」


「大丈夫です、中佐。これからよろしくお願いします」


「あぁ、こちらこそ宜しく頼む。それと、もしかしたら視線が集まるかもしれんが気にするな。王族と騎士団のトップ、それと私の上司には、君の存在を報告している。少なからず、王城では注目を少なからず集めるだろう」


「えぇ…大丈夫です。もう、覚悟してますから」


「安心しろ。道中には何も起こらない。列車で数時間といった所だ。ここから馬車で駅に向かい、乗ってしまえば後は待つだけだからな。それに到着後も君達の安全は保証する」


「ですが、王都に行くのは俺達初めてなもんで…」


「大丈夫だ、バーナード。街並みはこことそう変わらないし、まぁ、違いがあるとすればここより進んでいることぐらいだろう」


「進んでいる…?具体的には何がですか?」



バーニィが疑問を浮かべる。



「まぁ、それは自分の目で確かめるといい。きっと驚くぞ。あらゆるものにな。それと、そいつには触れた方が良いのか?」


「いや、中佐。聞かなくていいですよ~。ただの二日酔いなので」



シャルが触れなくていい問題をスルーさせようとする。



「二日酔いねぇ…。18歳の本成人前の飲酒は推奨されていないはずだが」



が、そうは行かなかった。



「中佐、聞いてください。俺たちは、基本的に飲まないんですよ。こういう偶にある時ぐらいだけで」



◇◇◇



『とうとう明日は王都に出発か…。楽しみだな!』


『ノア、遊びに行くんじゃないのよ。これから王都で更なる調査等が行われた後、ようやく陛下に会う許可が降りるんだから』


『そう、つまり…今日は酒解禁だぁー!!』



4人とも目を見開き、お互いに顔を合わせる。



『何でそう云う話になった?ノア』


『分かってねぇなぁ、バーニィ。月末の一回きりじゃ足りねぇってことよ!』


『あ、お前、何でもう飲んでんだ!』



ノアの右手にはいつの間にか酒瓶が。よく見ると顔も若干赤くなってきている。



『なぁ、バーニィ』


『ん?何だよ』


『勝負しようぜ。どっちがより飲めるか』



ノアがバーニィに飲み比べ対決に誘う。



『は?やだよ。お前とはやりたくねぇ!莫迦ほど飲むくせに後で絶対吐くからな!』


『お前張っ倒すぞ』


『まぁまぁ。悪酔いしてるぞ、ノア。程々にしとけって教わったろ?ていうか何でもう飲んでるんだよ』


『…水入れてた瓶と間違えて飲んだ』


『あーっ!それ、アルコール度数高いやつ!私がこっそり用意しといたのに!』



シャルの発言を聞くことなく、ノアは床に座り込む。



『こりゃノアはもう駄目だな…。俺が部屋に連れてくから、レオン、二人と飲んでていいぜ。ほら、ノア。上行くまでは起きてろよ。運ぶの面倒なんだからな』


『あいよ〜…』



そう言うとバーニィはノアを担ぎ、階段を上がってゆく。



『…まぁ、バーニィはあぁ言ってるけど、来るまで待とうか。せっかくだしね』


『うん、良いよー』


『ノアをバーニィに任せちゃってるしね。先に始めるのは流石にね…』


『じゃあ、二人のことでも聞いて待ってよっかなー。良いでしょ?』


『え?い、いやそれは…』


『何だよ、照れんなよー!』



◇◇◇



バーニィが階段を降りてくる。レオン達の方を見ると、まだ始まっていないことに気づく。


『ふぅ…、あいつ…。あれ?まだ始めてなかったのか?』



レオンがバーニィの方を振り向き、脱兎の如くこっちへ来る。



『バーニィ!待ってた!さぁ始めようか。よし、この話は終わりだ!』


『おいおい…何が会ったってんだよ。何かやったか?シャル』


『失礼な!二人の惚気を聞いてただけだよ〜』


『何だ…そう云うことか。…俺も気になるな。話のタネはそれだな』


『ちょっと!何でそうなるの…』


『バーニィ…。お前、恨むぞ…』


『ははっ、良いじゃねぇか。結局あの時も、対して教えてもらってねぇしよ』



◇◇◇



「…なるほど。先に早々に飲んでいたノアだけはシャーロットの用意していた酒をほぼ一瓶飲んでしまい、二日酔い状態にある、と」


「えぇ…そうなんですよ。俺たちも別に潰れさせようとしたわけではなくてですね…」


「…まぁいい。馬車の後部座席に寝かせておけ。あぁ、それと…絶対に吐くなよ?」



中佐が目を光らせ、ノアを鋭い目つきでじっと見る。



「うぅ…はい、何とか頑張ります…」


「列車に乗ったら横になるといい。窓を開け、外でも見ながら揺られるのも悪くないぞ。…酔いを軽くしてくれる」


「中佐、もしかして…?」


レオンが純粋な疑問を口にする。



「来るときに軽くな…。最近は使わなかったのでなってしまった…、いや、私の話はいい。それでは、出発するぞ」


「はい、お願いします!」



◇◇◇



「これが…列車の内部!」


「綺麗だね!しかも広い!」


「これが馬車より速く走るのか…。列車か、凄いな…!」


「俺はそれどころじゃねぇ…」


レオン達が目を輝かせる。始めて見るものに好奇心を抱いている様子だ。二日酔いの奴と冷静な人の二人を除いてだが。



「何だ、お前達は乗るのは始めてか?」


「はい、それに見たのも初めてですね。拠点に移った時も、移動手段は馬車と徒歩でしたから」


「そうか…。確かに地方へはまだ増加する予定は無いからな」


「それは…まだ使う人が多くないから、でしょうか?」



アルフレッドが驚嘆するような目でオリビアを見る。



「良く分かったな。初めて見たのだろう?」


「えぇ。ですが、聞いたことは有りましたから。私達が来る少し前に列車の為の駅が出来たことは」


「見に来なかったのか?」



アルフレッドが更に質問を重ねる。初めての列車にテンションの高い3人と、絶賛二日酔い中の1人とは違い、非常に冷静であるオリビアは彼の目には少し珍しく見えた。



「当時の私達にはここも新しいことばかりで、未知に溢れていたんです。迷宮ダンジョンなんて村には無かったですから」


「この街についても知らなかったのに、そこから更に出て国の中心部や色んな所に行こうっていうのは無かったですね」


「バーナード…。それもそうだな。未知なることが多すぎても困るか」


「えぇ。ですから、今回のことはいい切っ掛けになったかもしれません」


「そう言ってもらえると有り難い。これから君達の日常

少なからず変えてしまうことになるからな」



アルフレッドがほっと胸を撫で下ろす。



「それと、彼等に席につくよう言ってくれ。後少しで出発だ」



バーニィに彼等に出発することを伝えるよう促す。



「レオンー、シャルー。座っとこうぜ。後数分で動き出すってよ」


「分かった!シャル、三人のとこへ戻ろう」


「座席で死んでる二日酔いも入れてあげなよ」


「死んでねぇ…。着く頃には復活してらぁ…」



ノアがいかにも酔っている声で座席から二人に反応を返す。



「さぁ、どうだかね…。レオン、今の発言信用できると思う?」


「いや、無理だろ。寧ろ…」


「寧ろ?」



◇◇◇



「うおぇぇぇぇっ!!」


「…こうなると思った」



ノアが盛大に備え付けのトイレに戻している。



「と、言うと?」


「列車に始めて乗ってるんだぞ?身体が馴れてもないのに二日酔いの状態でこうやって揺られるんだ。もう…な?」


「あーらら。残念でしたってことね。まぁ、私達がちょっかいを出したのもありそうだけど…」


「いや、それはないだろう。うん、絶対に。」


「お前らな…。ノアが可哀想だと思わないのか?…到着後が思いやられるな、これは」



身内の裏切りにノアを若干哀れに思うアルフレッドであった。

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