第6話 レオン·ヴァーミリオン
「ダ…ダムド公爵!?失礼しました!」
レオン達が立ち上がり、一斉に頭を下げる。
「そういうのはいい。頭を上げてくれ。それに、もう先代だ」
レオン達が頭を上げる。座り直すが、明らかに緊張している。
「さて…何から話そうか。何が聞きたい?」
「じゃあ、俺から良いですか?」
ノアが手を挙げる。
「良いとも。何かね?」
「レオンの左腕には確かに、紋章って程ではないんですけど模様みたいなのがあります。でも、どうしてそれを知っているんですか?」
「それはな、私がルーファス·ヴァーミリオンと旧知の仲だったからだ。彼に教えてもらったことがある。幼い頃に『継承』した者は腕に封印の跡がある、と。何しろルーファスも腕に封印があったからな」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!!」
バーニィが席から立ち上がり、会話に入る。
「あの、今の会話だとまるでレオンがヴァーミリオンだと言うような言い方に感じるんですが…」
「勿論だとも。そう言っているのだから」
「まさか…レオンが?」
バーニィが信じられないといった目で、レオンを見る。
だが、それはレオンも同じだった。
「俺が…ヴァーミリオン?聞いてない…」
「それはそうだろう。15年前に君は失踪している。まぁ、事実上の死亡扱いだが」
「それなら、何で親父も俺やレオンに何も言わなかったんです!?だって、ヴァーミリオンって…」
「そうだ、魔族の襲撃により滅んだ。だが、そんな一族の直系が生き残っていたことが周囲に知られたらどうなる?まず王族により保護され、厳戒態勢が敷かれるだろう、間違いなく今のような生活は出来なかったぞ。今も捜索が続いてる程だからな」
「え、今も…?長くないですか?」
「再開されたの自体は2年前からだ。それまでは見込なしということで中断されてた」
「え、何で今さら…」
「まぁ、陛下にも色々あるんだろうよ…。で、だ。レオン。お前に聞きたいことがある」
「…?」
レオンが首を傾げる。
「別にそう大したことじゃない。俺と王都に行って陛下に報告に行くかってだけの話だ」
「え…」
レオン達が固まる。無理もない。今は普通に貴族の彼と話しているが、元々は王族どころか貴族とも無縁だったのだ。いきなりこの国のトップと面会するかもしれないとなると、驚くしかないだろう。
「別に嫌ならそれでもいい。無理強いはしない」
「ご主人様、失礼します。少々申し上げたいことが」
「…何だ」
「こちらの会合に参加したいと仰る者が来られまして…」
「帰らせろ。俺が話しているんだぞ」
「それが…騎士団の者なのです」
「…そう云うことか。ここに連れてこい。但し、俺達の邪魔をしないと約束させろ」
「はい、畏まりました」
彼は部屋から出ると、階段を降りる。
「あの…どうかしたんですか?」
「あぁ、すまないな、レオン。話し合いに客が増えることになった」
「…え?」
◇◇◇
「どうも、ご歓談のなか、お邪魔して申し訳ありません。私、特務課に所属しております、アルフレッド·アッガスと申します。階級は中佐です」
「…騎士団がよくもまぁ俺の前に顔を出せたもんだな」
エドワードは騎士団に対する苛立ちを隠そうともしない。
「それは重々承知です。ですが、我々としても失態を返上すべく、こうして活動しているので勘弁願えませんか?」
「…勝手にしろ。伝えた通りだが、俺等の会話に口を挟むな。お前らは何かある時は手を挙げろ。それとは別に話が終わったら時間を取ってやる」
「分かりました。それで構いません。…こちらに挨拶しても?」
「…挨拶ぐらいすればいいだろう。レオン達がお前らのことを知らないまま、話をする気か?」
「それもそうですね。失礼しました。前ダムド公の前ですが、では、改めて。私はアルフレッド·アッガス中佐だ。君を探しにここまで来た。レオン·ヴァーミリオン」
◇◇◇
「…紹介が終わったら執事に声をかけろ。俺は話をしてくる」
レオン達五人が席を立ち、順番に名乗ってゆく。
「は、始めまして。レオンと申します。パーティーでは魔法剣士をしています。先ほど自分がヴァーミリオンかもしれないと言われて、まだ動揺しています。よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ宜しく頼む。君が認められれば、君たちとは長い付き合いになるだろうしな。では、君は?」
「バーナードと申します。このパーティーのリーダーをしています。
「君がリーダーか。立派な体格をしているな、羨ましいよ。守護者も納得だ」
「いや、とんでもないです!偶々ですよ!」
「そう謙遜するな。持って生まれたものだ。存分に使え。君の名前は?」
「俺はノアです!パーティーでは
「そうか…。因みに父の名前は?」
「ケインです!昔は冒険者だったらしいです!」
アルフレッドの顔がより引き締まる。彼もこれらの状況証拠から確信を得つつあるのだろう。
「そうか、ありがとう。では、そちらの女性二人の名を聞こうか」
「はい、私はシャーロットです!うちのリーダーとは兄妹です!職は
「ほぉ、そうなのか。あまり似てはないのだな」
「はい!よく言われます!でも慣れっこです!」
「うむ、元気なのは良いことだ。これからも頑張ってくれたまえ。最後は君だ」
「私はオリビアと申します。バーナードとシャーロットの従兄妹です。職は治癒師です」
「なるほど、相分かった。そちらが五人なのに私は一人で来て申し訳ないな。元々は二人で来ていたんだが、諸事情により、先ほど戻ってしまってな。いずれ、紹介しよう。では宜しく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「では、私はダムド公にお声掛けせねばならんので、一度失礼する」
「あ、はい」
そう言うとアルフレッドは扉を開け、部屋から退出する。足音が遠くなると同時に、彼らも座り込み、ため息を漏らす。
「「「「「はぁー…」」」」」
「まさか、俺があのヴァーミリオン一族の生き残りで、元公爵に騎士団の中佐が俺に会いに来た?意味が分からない…」
「一日に起きることじゃねぇよな、レオン。それに何か俺も聞かれるし…」
「ケインさんや師匠にお前ら何か聞かなかったのかよ?」
「何もねぇよ…昔聞いたこともあったけど、故人のことを知る必要があるか?とかいう感じで有耶無耶にされたりとかでよ…今考えたら誤魔化されてるなぁ…」
「師匠なら何か教えてくれたかもね…。知ってた?師匠って王城で働いてたことあったんだって!」
シャル以外の四人が驚く。5年程師事していたが、師匠の過去は殆ど聞いたことが無かったからだ。
「シャル、何で黙ってたの?」
「?うーんと…。聞かれなかったから?」
「シャル…貴方は、もう…。そんな重要なことがあったなら、もうレオンはヴァーミリオンでほぼ間違いないじゃない…」
「え?何で?」
「ルイス師匠は、王城で働いてたんでしょ?ならあの時、職場を辞めてここに来たって言ってたけどそれが王城のことだって言ってたりしなかった?」
「言ってたよ?探してる人がいるから、王城から退職して、ここまで来たって」
「皆、師匠が最初に会った時に聞いてきたことを覚えてる?」
「『ケインという男性、若しくはレオンという少年を知らないか?』こんな感じだったよな?いきなり知らない人がレオンのことを聞いてきたからびっくりしたぜ。怪しい者じゃないって言ってたけど、怪しさしか無かったからな、あの時は」
「バーニィ、正解。つまりノアのお父さんかレオンを探しに師匠は王城から退職してまで、私達の住む北の地にやってきた。そして、これは私が皆に黙っていたことなんだけど…師匠は一時期先代勇者パーティーに居たことがあるらしいの」
「「「「えぇっ!?」」」」
今度はオリビアを除く四人が驚く。
ルイス師匠、ここに来て隠し事が一斉にバレる。
「じゃあ、親父と一緒に入ってたパーティーってのは…」
「十中八九、勇者パーティーのことでしょうね」
「まじかよ、師匠…」
「ほら、私達が居たとこってかなり田舎だから情報なんて来ないじゃない?実際先代勇者パーティーなんて師匠から教えてもらうまで、エリオット様しか知らなかったし。顔も分からなかったけどね」
「で、それから?」
「元勇者パーティーの人間が何かを託しに、若しくは探しにここまで来たのよ。貴方を探しに来たと考えて然るべきじゃない?」
「…。それで俺は、皆より多くの特訓をさせられたのか…?」
「おい、何だそれ。聞いてねぇぞ!!」
ノアがレオンの呟きに反応する。一瞬でレオンの表情が変わる。
「やば!!皆には内緒って言われてたのに…」
「どーゆーことだ?レオン。じっくり教えてもらおうか」
ノアの声色が変わっていく。いつもとは違うドスの利いた声だ。
そこに冷静に突っ込む男が一人。
「いや、師匠…隠し事多すぎだろぉ!!」
バーニィだった。
◇◇◇
「どうした、バーナード。大声なんか出して。向こうまで聞こえるぞ」
「あ、すみません。ダムド公」
エドワードが執事を連れ、アルフレッドを最後尾にして戻ってくる。
「さて…話を続けても大丈夫か?悪いが、ルイスのことは後にしてくれや」
「あ、はい。お願いします」
「つっても正直な…こいつが来たことであんま俺とこの話をする意味は無いんだがな…」
「え、と…何故でしょうか?」
レオンが質問する。それもそうだろう。
自分がヴァーミリオンの生き残りとして王都に行くか否かの話が急に意味が無くなったと言われたのだから。
「こいつがお前さんを捜索する部隊の人間だからだ。そしてこいつは発見した場合、報告の義務付けがされている」
「そ、そうですか…。じゃあ俺はアルフレッドさんと王都に行かなきゃいけないってことですね…」
「…そう云うことになる。お前が本物ならな」
「ぇ、でも…」
「そうだ、お前達は過去、自分達に提示された証拠からレオンがヴァーミリオンである可能性が高いことを導いた。たった今な」
「レオン君、済まないが左腕を見せてくれないか?ダムド公より情報提供して頂いたが、やはり自分の目で確認しておきたい」
「はい…これで良いですか?」
レオンが左腕の袖を捲る。そこには先ほどノアが言った通りの模様が有った。
「十字の下に三本線…聞いた通りだ。レオン君、君がヴァーミリオンの生き残りであることは最早間違いないだろう。今すぐにとは言わない。私と共に王都へ来てくれないか?」
「えっと、それは…」
レオンが言葉を詰まらせる。冒険者としての活動もあり、四人のことも考えているのだろう。
「俺達も行っていいですか?それなら良いですよ、アルフレッドさん」
「バーニィ!?」
「大丈夫だって。何も変わりゃしねぇよ。お前も、俺達も、な。ダチでパーティーメンバーで仲間だろ?お前とオリビアの関係は何れ変わるかもしれねぇが…」
「おい!バーニィ…」
「何も心配するこたぁねぇよ。世界がどうあろうと俺達はお前の味方だ。絶対に」
「ノア…」
「そーそー!何も心配要らないって!
「シャル…」
「皆がこう言ってるんだから、少しは信じてみたら?知らなかった自分も受け入れてみたら、何か世界が変わるかもよ」
「オリビア…。そうだな、自分を知るのもいいかもしれないな。アルフレッドさん、俺達、王都に行きます」
「レオン、まだ俺のこともよく分からんだろうが、頼るといい。お前の祖父と俺は旧友だったからな。ある程度、ヴァーミリオンについても教えてやれる」
「…はい。王都から帰ったらお伺いしてもいいですか?」
「おう。領主の屋敷に来たらこいつを見せるといい。直ぐに通されるだろう」
そう言うと彼は四つ折りにされた紙を手渡す。
二人のやり取りが終わった後、アルフレッドが口を開く。
「よし、ならこれからは中佐と呼んでくれ。私だけが近しいと思われるのは立場的にも不味い可能性があるからな」
「はい、これからお願いします、中佐」
レオン·ヴァーミリオン、16歳。新たなる始まりの日であった。
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