第5話 それは運命か

翌日、レオン達は夜にどうやってか、拠点に来た執事から、全員がギルドに来るよう伝えられた。

理由を尋ねると、『主人が話がある』とのことだった。


五人とも複雑な心持ちのまま、街のギルドへ向かう。

ギルドの扉を開けるとギルドマスターがしかめっ面で立っていた。



「お前ら…今度は何をやったんだ?」


「いや、俺らをトラブルメーカーみたいに言わないでくださいよ…」


「ギルマス〜。余りにうちらが凄いからって嫉妬は良くないよ〜」


「おっさん、そうかっかすんなって。また入院するはめになるぞ?俺のように清らかでおおらかさが無くっちゃぁな」



バーニィがギルドマスターにそう返し、シャルやノアもそれに続く。が、それは甘かった。



「何だとぉ!?冒険者登録の試験で試験場を破壊し、近隣住民から山のような苦情、初任務で炎魔法を屋内でぶっ放して屋敷を吹っ飛ばしたパーティーをトラブルメーカーと呼ぶなだと!?何の冗談だ!!その後も大体トラブルを引き寄せる!俺達がお前らの為にどれだけ走り周ったと思ってるんだ!この無自覚馬鹿どもがぁ!」



ギルドマスターは彼らの自覚症状無しの言葉に、一瞬にしてブチ切れる。



「ギ、ギルマス、まぁ落ち着いて下さい…。三人とも悪気はないはずですから」


「はぁ、はぁ…。どうやらレオンとはお互いの認識に対して話をした方が良いようだな…。まぁ、今はいい。お前ら、取り敢えず俺の部屋に来い」



「…?は、はぁ…」


「ねぇ、レオン…」


「ああ、分かってる」



◇◇◇



ギルマスの執務室に移動した後。彼は真面目な表情で話を続ける。



「今回は真面目に行け。これは真剣な忠告だ。さっきのやつは俺だから笑い話にしてやる。が、今回の相手はそうはいかん。相手が相手だからな」


「…その、相手というのは?」


「バーナード。世の中には他人から聞かん方がいい話もある。分かるな?」


「は、はい…」


「ねぇ、レオン。どういうこと?」



シャルが小声でレオンに尋ねる。

それにレオンも小声で答える。



「…要は、俺に聞くなってこと。相手から明確に出されるまで、口にしちゃいけないんだろう。それ程の立場の人ってことだ…」


「まじかよ…。俺、あのおっさんの前でめちゃくちゃ失礼な態度取ってんだけど!」



失礼な態度をしていた自覚がありながら取っていたことに、今更ながら焦るノア。

自覚があるならより一層、直すべきだろう。



「大丈夫よ、ノア。確かに褒められたことではないけど、相手の立場が明らかになっていなかったし、仮にそうだとしてもあの人は執事だろうから」


「ふー…それ聞いて一先ず安心したぜ」


「まぁ、自分より上の立場の人に対して軽すぎるのがノアの悪癖だから、直した方が良いとは思うけどね」


「うっ…。ま、まぁ善処するってことで…」



シャルのご尤もな発言に、心に何か刺さっているノア。



「…直す気無いな」


「無いだろ」


「無いねー」


「無いでしょ」



レオン、バーニィ、シャル、オリビアの意見は全く同じだった。



◇◇◇



「ここか…。やっと着いたな」


「中佐が列車の時間を寝過ごすからでしょう。せっかく最初の便を取っていたというのに」


「悪かった、悪かったって。勘弁してくれ」


「まぁ、私は別に構いませんが…」


「よし、それじゃ…」


「はい。では早速、彼らの拠点に…」


「飯だ!」


「…はい?」



中佐の発言に思わず首を傾げるレナード。



「長い時間列車で拘束されてたからな…気分転換もいいだろう」


「…では、そこのカフェで何か取りましょうか」


「あぁ、ここは私が出そう。詫びだ」


「では、遠慮なく」



◇◇◇



「来たぞ…お前ら、くれぐれも失礼のないようにな。俺はこの話に入れん。外で待ってるぞ」



レオン達に緊張が走る。

一度深呼吸をすると、レオン達は覚悟を決める。



「お待たせして申し訳ない。が、こちらとしても、あまり大事にはしたくないのでね」



レオン達は席から立ち上がると、頭を下げる。



「いえ、こちらこそ私達に時間を割いていただき、ありがとうございます。私はパーティーのリーダーをしております、バーナードと申します」


「私に下げる必要はない。そもそも最初に呼んだのはこちらだ。元々は昨日の報酬についての話であったのに、主が全員を呼ぶように、と急に仰ったのでな。どうやら確認したいことが出来たようなのだ」


「それは、今聞いても…?」


「いや、済まないが主から直接聞いてくれ。この件に関しては私は内心疑問があるのでな…」



執事はレオンを横目で一瞬見ると、すぐに視線を戻す。



「…?」


「…まぁ、いい。私は主を連れてくるので、もう少し待っていてくれ」


「はい」



◇◇◇



アルフレッドとレナードの二人が街を歩く。昼食を取り終わったので、彼らの拠点に向かっているところだ。



「あそこのカフェは旨かったな。特にあの魚のサンドイッチが良かった」


「えぇ、ホワイトフィッシュとは思わなかったですね」


「全くだ。庶民の味方がああも変わるとは…。作り方を教えて欲しいものだ」


「…中佐、昼食の話はそこまでにしましょう。後ろに居ます」


「路地裏に行くか。これ以上余計な時間を取りたくない」



二人は表通りから少し外れた道の路地裏に入ってゆく。

すると…



「おいおい、仮にも軍のやつがこんな道を使うとは間抜けだなぁ!」


「兄貴、軍じゃないですよ、騎士団ですよ、一応ね!」


「おっと、そうだったな!改名しただけのお飾り騎士団だったなぁ!」



明らかにガラの悪い連中が絡んでくる。



「何の用だ。我々は用事があってここに来ている。昼から飲むのは奨めんぞ」


「飲んでねぇよ!てめぇら騎士団がこっちまで仕事やらねぇから魔物とか魔獣が多いんだろうが!」


「そんなことはない。定期的に行われる調査で騎士団が討伐に出る程ではないと報告が出ている。現地住民や冒険者だけで対処できる数だ」


「うるっせぇよ!お前らがやらねぇせいで俺は魔獣に足をやられたんだ!てめぇが責任取りやがれ!」



いきなり殴りかかるスキンヘッドの男。

アルフレッドは軽くため息をつき、男の拳を躱す。その右手を掴み、引っ張ると、男はバランスを崩す。そのまま左手で体を地面に叩きつける。



「自分の失敗を騎士団に押し付けるんじゃない。この馬鹿が」


「ひいっ!!」


「お前も。こんなのとつるんでる暇があるなら仕事でも探せ。行くぞ、レナ」


「…くそ野郎が」



レオン達の拠点の前に到着する二人。

最後にもう一度確認をしていた。



「ここが、彼らの拠点で間違いないな?」


「はい。間違いありません」


「よし、行くぞ」


ドアをノックするアルフレッド。しかし、返事はない。

もう一度ドアをノックする。やはり、人が出てくることはなかった。



「…もしかしたら、冒険に出ているかもしれませんね。ギルドに一度行ってみましょう」


「…それもそうだな。よし、行こう」



◇◇◇



「やぁ、急に呼び出してすまないな。昨日は危ないところをありがとうな、助かった」


「いえ、人として当然のことをしたまでです!それに礼ならこちらの二人にお願いします。俺達は二人について行っただけですので」


「ふむ、救われたという点では変わらんのだがね…。まぁ、それはいい。ここに私が直接来たのはある話を君たちとしたかったからだ。あぁ、君たちも座りたまえ」



シャル、ノア、バーニィ、レオン、オリビアの順で並んで座る。



「失礼します。それで、話というのは?」


「うむ、先ず聞きたいのが、左から二番目の君がレオン君かね?」


「えっ…。はい。でもどうして―」


「今はそれだけでいい。そして、君がノア君だね?」


「は、はい!そうです!」


「そうか…。君たち三人は何の話か分からないかもしれんが、静かに聞いてくれ」


「はい」 「分かりました」 「はい」


「君たち二人にこれからいくつか聞かねばならない。私の質問が終わったら、君たちからも質問を聞こう。例えば…私が誰か、とかね」


「はい。お願いします」


「こちらこそ宜しく頼む。では、君たちは従兄弟とのことだが、分かっている範囲で構わない。知っている親族を教えてくれ」


「僕は母親がモニカという名前だと聞いています。幼い頃に亡くなったので、記憶にはありませんが」


「っ…。続けてくれ」


「父親は聞いていません。叔父からも聞かされませんでした。既に亡くなったとしか」


「…そうか。ノア君、君は?」


「その叔父が俺の父ですね。ケインという人です。まぁ十年は前に亡くなってるんですが、昔は冒険者をしてたらしいです。でも、詳しいことは特に何も。あー…なぁ、レオン、言っていいと思う?」


「師匠のことか?良いと思うぞ」


「俺達全員の師匠なんですが、ルイスという人でして―えっ!?」



突如エドワードが立ち上がる。座り直すが、机に腕を載せ、こちらに上半身を近づける。



「ルイス!?名字は?名字は何だ!」


「え?…ルイス·バーネットですけど…」



あまりの迫力に気圧されるノア。四人ともエドワードの変わりように驚愕している。



「まさか、生きていたとは…。いい、続けてくれ」



突然涙を流すエドワード。情緒の不安定さにたじろぎつつもノアは話を続ける。



「親父と師匠は一時期同じパーティーのメンバーだったらしくて…国中を周って探してたって師匠は言ってました」


「だろうな…。ノア君、ありがとう。ルイスのことはもう大丈夫だ。レオン君、君のことが聞きたい。君の左腕に何かないか?紋章や、魔力を使った時に光るとか…」


「…その前に、教えてもらえませんか。貴方が一体何者なのかを」


「…そうだな。フェアじゃなかった。あまり緊張もしてほしくなかったのだが、君の言うことも尤もだ。私はエドワード·フォン·ダムド。先代ダムド公爵だ」

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