第4話 偶然か必然か
「-
バーニィは振り下ろされた棍棒を躱すと、オークを下から左アッパーで殴りつける。そのまま右拳を顔面に撃ち込む。
顔面を殴られたオークは鼻血を出し、頭を揺らす。
その隙を見逃さず、バーニィはひたすらオークを殴り続ける。
「でぇりゃあああっ!」
数十発ほどバーニィのパンチを全身にくらったところで地面に倒れ伏す。
「ふぅ…呆気なかったな。あいつらはどうだ?お、シャルが左側、ノアが右側か。大丈夫そうだな。…これは、もしかしなくても殴り過ぎたか?」
◇◇◇
「-魔闘術-開放!」
シャルが魔闘術を発動させる。
これは体内の魔力路に流れる魔力を自らが操作し、身体の周りに付与することで外側から肉体を強化する方法である。
熟練者になるとそれを拡げ、自身の使う武器等にも付与することができ、強化魔法とは別に更なる強化を行うことができる。
「今日は力が有り余ってるからね!最初っから飛ばすよ!」
シャルは両腕の手甲に魔力を流し、魔闘拳の準備をする。
以前より更に大きな紫のスパークが辺りに飛び散り、攻撃の段階に入る。
腰を低く落とし、右手を前に構え、左手は横に構える。足に一瞬のスパークが流れると目にも留まらぬ速さでシャルは飛び出す。
そのまま思いきりオークの頭部を殴りつける。
殴られたオークは何が起きたか分からないまま、首から上が遠くの空へ飛び、首から血が噴き出し、地面に倒れると同時にシャルも地面へと着地する。
「ありゃま…飛ばし過ぎたかな?まぁいいや!左側のゴブリン半分は任せて!」
そのままシャルは再度足に力を込め、ゴブリンが居る方向へ走り出す。
◇◇◇
「このノア様に掛かって来いよ、ブタ野郎ども。-挑発-!」
ノアがスキルの挑発を発動すると、今まさに馬車に襲いかかろうとしていたオークが一斉にこちらへ意識を向ける。
ゴブリンはこちらに意識こそ向いているが、既に戦闘が始まっているということもあり、こちらを気にしつつも、目の前の敵に攻撃を繰り返している。
「俺達に見つかったのがお前らの運の尽きだ。それにしても馬鹿だなぁ!こんな街の近くまで来ちまうなんてよ!」
ノアは引き抜いたバスタードソードを持ち直すと、スキルを発動する。
「行くぜ。-瞬光-」
瞬光はスピードを高めるスキルの一つ。習得自体は簡単だが、習得難易度の低さにしては、使いこなすのが難しく、速まるスピードに肉体と目が追い付かないといけないため、あまり使い手は多くない。
「…よし。一体撃破、と」
「…ガ?ウォォォォ!!」
オークは自身の身体を見渡すが、何も変わったところは見られない。いつの間にか後ろに周ったノアに咆哮をあげ、襲いかかろうとする。
「あー、うるさいうるさい。死体が喚くな。早く崩れろ」
「ウ?グロロロロ?ガァァァァァ!!」
後ろに振り向き、脚に力を込めた瞬間、脚の先から輪切りとなり、崩れていく。
「…シャルは左か。なら、俺は右に行くぜ!」
◇◇◇
オリビアは4人に身体強化を掛けた後、レオンの後方に続く。彼女自身は殆ど戦闘は行わない。彼女は基本的にサポートである。だが、彼女の一番の強みはその精密性にある。
「馬車の前側に二人、後方に四人…。それに、先頭の馬車に二人が乗ってる…。馬車には一応バリヤを張るべきね。-
「オリビア、俺は馬車の後方のオークに向かう!来てくれ!」
「勿論!怪我は私に任せて!レオンは思いっきり剣、振ってきて!」
「あぁ、任せろ!そっちは頼んだ!行くぞ、-烈火斬-!」
レオンは剣の尖端から炎を放出させ、それを刃の全体に拡げてゆく。
突撃するかのような勢いでそのまま馬車の直ぐ近くに居たオークを斬り裂く。
「ウゴォ?ゴアァァァ!!」
自身の身体が燃え盛りながらも雄叫びをあげるオーク。
その身が倒れようとする時には、既に朽ち、灰になっており、その場には十センチ程の魔石しか残っていなかった。
「ご無事ですか!?」
「待て!そこから動くな。魔物の討伐の協力には感謝するが、我々は君たちの素性を知らない。我々にとって害でないと証明してくれ」
先ほどの執事がレオン達に制止を行う。それもそうだろう。レオン達もそちら側もお互い何も知らないのだから。
「それもそうですね。これが俺の冒険者登録証です。皆も冒険者登録証出してくれー!」
◇◇◇
「…なるほど。君たち五人は冒険者パーティーか。パーティーランクC…。あれ程の力を持っていながらCなのかね…?」
「別に俺達はランクアップが目当てじゃありませんからね。なぁ、レオン?」
「えぇ、珍しいと思われるかもしれませんが、俺達はSランクになりたくて冒険者をやってるわけじゃないんです」
「…そうか。では、改めて。我々の突然の事態にご協力いただき感謝する。乗っている方が事情がお有りでな…。直ぐには身分を明かせぬこと済まなく思う」
「いえ、あることだと思います。僕たちは通りすがりですから、気にしないでください」
「…そう言ってもらえて感謝する」
「…あー、話してるとこ悪いんだが、いいか?」
「お前か…。何だ?」
「何だとはなんだよ!俺たちも命の危機にあってんだ、報酬は上乗せしてもらうからな」
「…分かっている。ギルドに伝えておくからもう下がっていいぞ」
「いや、うちの奴に確認させる。レイ!お前、こいつがちゃんとギルドに報告に行くか確認するまでついてろ」
「え、それは僕の役目じゃ…」
レイと呼ばれた少年が一応の抗議を試みるものの、呆気なく突っぱねられる。
「うるせぇ!俺がやれっつったらやるんだよ!拾ってやった恩を忘れたのか!?」
「…はい」
「おい、あんたら内輪揉めなら向こうでやってくれよ。仮にも依頼主の前でやるもんじゃねぇぜ」
ノアが傭兵達に苦言を呈する。
「…ちっ。レイ、ちゃんと見張っとけよ」
傭兵のリーダーと思われる彼はそのまま仲間のところに戻ってゆく。
「…はい。すみません。お見苦しいところをお見せしました。うちのリーダーは報酬に凄く厳しくて…」
「いや、こちらこそ差し出がましいことをした。部外者が殆ど戦闘を行ってしまえば報酬に不安があるのも当然だろう。済まない」
レオンも勝手に間に入ったことを詫びる。
「いえ、皆さんが来てくれなければ僕たちも危なかったですから」
「そうか…ありがとう」
「話しているなか申し訳ないが、こちらの話を進めていいかね?」
「はい、お願いします。レオン、俺が話聞いとくから、悪いけどそっちで頼む」
バーニィがパーティーのリーダーとして話を聞くため、話している二人をこの場より遠ざける。
「分かった。じゃあ、レイ、向こうで話をしよう」
「はい、分かりました」
◇◇◇
「…では、私がギルドに話を通すので、バーナード殿、君もパーティーの一人として来てくれ。これが私の名刺だ。明日の正午にこの街のギルドに来るように」
「はい、分かりました。中で待っていたほうが良いですか?」
「うむ、そうしてくれると有り難い。では、私は主を送らねばならんのでな。こちらで失礼する。ご主人様、馬がやられましたので、後ろの馬車に乗り換えていただきます」
「ふぅ、やっと街に入れるのか。大分待ったぜ」
「申し訳御座いません。ご主人様、不足の事態が起きてしまった為、時間がかかってしまいました」
「…まぁいいさ。よくあることだ。行くぞ」
「はっ。それではまた明日頼むぞ、バーナード殿」
「はい。明日、お願いします。…ふぅ、貴族相手は疲れるな」
「なんだよ、今の貴族だったのか?」
「まぁ、まず間違いないだろうな。身分をこの場で明かせないなんて貴族とかそっち系だろうよ」
「ふぅん…おーい、レオン!話は終わったかー?」
「あぁ!今行く、ノア!レイ、彼が俺の親友、ノアだ。パーティーメンバーでもある」
「ノアさん!さっきのあれって瞬光ですよね!?それもかなり速かったです!誰かから教わったんですか?」
「何だ、あれに興味あんのか?珍しいな。あれは俺たちの師匠から教わってな…」
◇◇◇
「すまんな、息子よ。連絡もなしに押し掛けて」
「本当ですよ、父上!何で護衛も無く来たんです!?しかもあんな傭兵なんかに頼むなんて…」
「俺のやつを使うと否が応でも気づく奴が出る。そう思っていたんだがな…。街の外側、徹底的に調査しとけ。俺が襲われたのは、魔物を呼ぶ香が焚かれていたからだ」
「な!?禁止魔道具である、魔物を呼ぶ香が?」
「あぁ、だがその割には大して集まって無かった。分かるよな、意味が」
「…えぇ、直前に使用したのでしょうね。父上が来る直前に」
「そういうことだ。が、本来禁止魔道具だ。使うタイミングが分からず、あれしか集まらなかったんだろう」
「…分かりました。徹底的に内部を洗おうと思います」
「失礼します、エドワード様。先ほどのパーティーについて、調べて参りました」
「よし、聞こう。お前も一応聞いておけ」
「はい、父上」
「まず、パーティーは五人全員が同じ村の出身のようです。同郷で年も近いため、昔から行動を共にしていたようです」
「うむ、それで?」
「パーティーのリーダー、バーナードとシャーロット…魔闘術の使い手は兄妹関係にあり、オリビアという治癒魔法の使い手とは母が姉妹のようです。そして、レオンとノアの二人も同じく従兄弟であると。年齢は、レオン、ノア、シャーロットの三名が現在16歳。オリビアが17歳、バーナードが18歳のようです」
「…うん?レオンって言ったか?」
「…?はい。偶然にもヴァーミリオンの赤子と同じ名前ですが、偶々でしょう。出身が違いますから」
「…名字は?それに、従兄弟って言ったな。どっちかの親の名前は?」
「はい、名字は記載無し。レオンの親は両親共に記載無し。養父にケインと。ノアには実父ケインと記載。母は無しでした」
父親の情報を聞いてから、黙り込むエドワード。
「…明日パーティーのリーダーとギルドで会うって言ったな。全員連れてこい、俺も参加する」
「な、何ですって!父上、それでは正体を隠して来た意味が!」
「うるさい。もう決めたことだ。何時だ?」
「しょ、正午ですが…」
「レオン…。それに16歳か…。一致するな。それに記憶が確かなら、あいつの息子のパーティーにケインという名前の奴が居たはずだ…」
「そ、それは本当ですか!?父上!まさか…この街にヴァーミリオンが生きていたなんて…」
「まぁ、落ち着け。偶然の一致って可能性もある。まだ、分からねぇ。…が、期待しちまうな、これは」
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