第3話・星の子供達。2

王都の駅に列車が到着すると…。

ホームの人の多さにびっくりした。

貨車の荷物がどんどん馬車に積まれてゆく…。

線路を延長する工事をする人達も居る。

汎人だらけだ…。

エルフもドワーフも居ない。

偶に獣人が居る。

ビゴーニュ領ではよく見るのに。

雑踏の中を歩き、駅の外に出る。

「さて、ビゴーニュ領連絡事務所は…。」

大きな壁の地図を見る。

出稼ぎ領民への王都での出先機関だ。

国元への手紙や送金、両替、困り事の相談と紹介をしてくれる。

運営は使途墳墓教会でレストランと宿も在る…。

「取り敢えず、王都の中に入らないと…。」

遠くに王都の城壁が見える。

歩いても行けそうな距離だ。

駅前のロータリーには何処かに向かう多くの人達と馬車が…。

「王都行ー!王都行ー!誰か乗らないか!」「後、三人。大銅貨一枚!!手荷物までだ!!」

馬車の上の御者が叫んでいる。

乗合馬車だ…。

どうしようか?

見渡すと…。

教会の服を着た男達が沢山いる。

アレは教会関係の馬車だ。

声を掛ける。

「すみません、ビゴーニュ領連絡事務所へ行きたいのですが…。」

声を掛けた男が身構える。

「ああ?悪いけど…。この馬車はね、乗せられないんだ。」

「そうなんですか?」

僕をジロジロ見る男。

「そう…あんたビゴーニュ領の人?」

「はい。そうです。」

「あっちの荷馬車に頼みな。教会の雑役馬車だから、手伝えば乗せてくれるよ。」

貨物から麻袋を担ぐ男達の馬車を指す男。

「あ、ハイ。」

素直に従う。

「悪いね、この馬車は乗合禁止なんだ。」

男の人達の顔で理解する。

ああ、貴重品輸送の馬車だった。

「そうでしたか、申し訳ございませんでした。でも教えて頂き助かりました。」

お礼を言い別れる。

向った先の荷馬車は簡単に乗せてくれる約束をしてくれた。

荷受けの仕事を手伝う事を条件に。

走る荷馬車の後ろに腰を掛けて…。

流れる王都の情景を眺める。

細々としているが古くて綺麗な町だ…。

ビゴーニュは無駄に広い印象だから驚く。

昔、王都に来た時はもっと暗くて寒い場所のイメージがある。

着いた先は…。

「あ。ここ、来たことある。」

母に連れられて来た建物だ…。

ご領主様と始めて会った…。

母の手を繋いで見上げた建物だ。

「おう!荷物を降ろすぞ。」

「は、はい!」

荷馬車の御者に催促されて我に返る。

荷卸しが終わると…。

空に成った荷馬車とは手を振って別れる。

行嚢を担ぎなおしバックを持って建物の中に入る。

カウンターが有って…。

皆、教会の服装だ。

「どうぞー。」

カウンターの男が手をふる。

「はい、ビゴーニュ領から来ました魔法学園への受験生です。」

「ああ、はい。学生さん。ココにサインして。国元の住所と目的も。」

「はい。」

書面に書き込む…。

カウンターの男は受け取った書面を見て…。

「あんた…。ご領主のお子様?」

驚いて尋ねられた。

「いえ!違います!!住み込み働きです。」

「そうだよね…。良かった。はい、これ。魔法学園の入試案内、内容をよく読んで。受験当日の朝に魔法学園行の馬車だすから。頑張ってな!!ご領主様から期待されてるんだから。」

「はい!頑張ります!!」

木の板に何かを書き込む男。

男は木片を読み直すと…。

「住むところは…。宿で聴いて。コレ、許可証。」

木片に焼き印とハンコが押された物が渡された。

裏には目的と期間が書かれている。

通し番号も。

「なくさないでな…。何時も持ち歩いて。王都で兵隊さんに誰何されたらそれ見せな。落とすと面倒な事に成るから。」

脅される。

「はい!」

宿屋に向い、木片を見せると…。

「あんたで三人目だね。今年の魔法学園の受験生、上手くやりなよ。夕方の鐘が鳴ったら食事だから成るべく早く降りて来な。時間が悪いとパンと干し肉しか出せないからね。」

教会関係の下働きのおばさんから部屋の鍵を貰った。

「はい!」

「汚れモンは部屋の籠に入れて朝に廊下に出しときな。無くしたり破れて困るもんなら。裏の洗い場を使いな。」

「ありがとうございます。」

鍵には木片に部屋番号が彫ってある。

部屋に向かう背中におばさんが叫ぶ。

「両隣の部屋は同じ受験生だから仲良くしな。うるさくするんじゃないよ。」

「はい。ありがとうございます。」

振り返ると笑顔だ。

手を振っている。

鍵を開け部屋に入ると…。

狭い。

窓際の机に水差し。

衣文掛けにベッド。

ベッドは簡易ベッドだ…。

横の籠に毛布とシーツが丸まっている。

「さあ…受験の準備しなきゃ…。」


受験当日は朝から雨だった。

教会の人が乗合馬車を用意してくれた。

「おーい、全員乗ったか?忘れ物は無いか?」

「「はい!」」

乗合馬車は満席だ…。

「こんなに一杯いるのか?」

僕の呟きに、隣に座る男が答える。

「昨今、教会の見習も魔法学園にを目指すのが多いからな…。」

歳が近そうな男…いや、僕より上かもしれない。

「アンタは初めての受験かい?」

隣の男が訪ねた。

「はい、そうです。初めてです。」

「そうか…。てっきり歳が近そうだから…。実は俺は二回目なんだ。一回目は三年前に受けたんだが…。僕だけ落ちた。若いからダメだって。」

「え?」

魔法習得は若い内の方が良いハズだ…。

そう聞いてる、母は体質的に何らかの補助が無いと魔法が使えない体質だったそうだ…。

今は普通に魔法を使っている。

「ああ、僕の体質らしい。若いとダメな体質。で、皆から置いてきぼりさ…。でも教会で頑張ったから助祭見習いさ…。頑張って追いつくぞ!!」

拳を突き出し意気込みを見せる…。

「え?助祭様?」

私服だから解らなかった…。

「未だ見習い。初級治癒魔法しか使えない。」

「えー。それでも教会では偉い方なのでは?」

「いや…。高度な治癒できないと…。ほら、初級治癒魔法でも魔法学園の治癒魔法では全然違うから…。君もあの宿で乗ったのなら使途墳墓教会の関係者なんだろ?」

「いや、ごめん。教会の関係者じゃないんだ。ビゴーニュ領の出身で…。」

「あーそうか…。ビゴニューさまの…。」

納得する助祭見習い様。

「あの方は使途墳墓教会の支援者だから。」

流石関係者、詳しいらしい。

確かに司祭の地位を持った貴族は珍しい…。

貴族は金で教会の地位を買う者だと噂だ。

「うん、そうなんだ。故郷の伝手でお邪魔してるだけ、使途墳墓教会を頼っているけど。お祈りは豊穣の女神ディアナさまさ。」

「なら安心だな。僕はグランド、ベレース教会の者だ。」

こそこそ自己紹介をする助祭見習いさま…。

教会関係者なら他の教会でも知っているだろう。

「あー、そうなんだ。僕はバリエンテ、ビゴーニュ育ち。」

「へー生まれは?」

「さあ…何処かの森さ、長い冬の間に生まれは消えたよ。」

「そうか…。すまない。」

「ビゴーニュ領は新興の貴族だからね、僕達の様な者も受け入れてくれる。後は全部ビゴーニュ生まれだ。」

「そうだよね…。凄いよねビゴニューさまは…。教会の為に城塞都市を一個作ったって。」

羨ましそうな口ぶりの司祭見習いさま。

ほかの教会の人から見ればそうだろう…。

町や村に教会の建物を建てた貴族の話はどこにもある。

僕は幼い頃、消えていった村や町を見てきた。

「まあ…。ビゴーニュの人達は働き者だから。」

だから、町も村も作ってしまう。

必要な物を集めて作ってしまう。

きっと信じないだろう。

嘗て雪で圧し潰され、消えた物を全て作ってしまう…。

その為にご領主様は線を引く。

水路の線、排水の線、道路の線。

建物の線。

全てご領主様が考えて引いた線だ。

そして最後に鉄道を引く。

ソレを見て領民我々が作る。

初めのころ作ったのは冥府の王北の町使途達教団だけど…。

集まった大人達は作ってしまった。

山を崩して巨大な堤で谷を埋め。

水を張って水路を作った。

汎人の手で神話の巨人が作ったような巨大な堰堤を…。

”俺達はやれるんだ!!”、”北の町よりデカい町を作ってやる!”、”そうだ!ココに骨を埋めるんだ!”、

あの完成した時の熱気を今、誰に語っても多分、解ってもらえないだろう。


「あの人たちはそうだよね…。」

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