第7話 暗夜の礫
場所は石川県金沢駅、綾小路龍我と最上が博多駅にて蜘蛛男と戦っている同時刻。
「いましたよ、藤巻さん、兎宮 うさぎみやさん」
いち早く他二人よりも目的に人物を、綾小路龍我の妹である綾小路みおが見つける。
みおが見つけた人物は見えていないが足の裏にホッピングを仕込んでいるのでは無いのかと言うような風にピョンピョンはねて足で周囲の建物を破壊している。
「周辺の人々の避難はすでに終わらせているそうだ。被害拡大の前にとっ捕まえるぞ。ちょっと暑いが我慢しろよ。ファイアライン」
藤巻はいの一番に手のひらから数本の炎の糸を出す。
糸はピョンピョン跳ねることをやめない犯人へと向かうが犯人はポケットから小さい何かを出しながら、その小さい何かの真反対の方向へと飛び出し、攻撃を回避する。
「藤巻さん、さっき出た小さいやつ私やっちゃってもいいですか」
「構わないぞ」
少し長めのポニーテールを揺らしながら小さい方へと向かう。
さっきポケットから出た小さいのは、それを出した張本人である犯人そっくりだった。犯人をそっくりそのままスーパーディフォルメ、SD化しましたと言われれば納得するようなほどに。
藤巻はファイアラインを駆使して相手に広範囲に攻撃する。
兎宮は蹴りを入れてもその小さい図体で俊敏に避けられてしまい攻撃し切れない。
「皆さんすごいなぁ。多分お兄ちゃんも頑張っているんだし私も頑張らなきゃ。変身」
みおのスーツの右腕に取り付けられているブレスレットに指をかざし変身をする。
『チェンジ・アームドスナイプ』
みおの全身を装甲に身を包む。龍我のアームドエモーショナルに比べてスリムな容姿をしている。
左腕に取り付けられている体に比べて一際大きい装置を展開させると左腕全体が大きい銃の様な形へと変化する。
綾小路みおの〈本質〉は視る。と言っても兄龍我の視るとは少し違う。龍我の視るは動体視力に重きを置いた能力であるが、みおの視るは純粋な視力を強化する能力だ。
アームドスナイプはその高められた視力を使って正確無比な射撃を可能とするための強化スーツだ。
すぐさま藤巻と兎宮の対処している犯人とそこから出た小さい方を狙撃する。
放たれた弾丸、例えバラバラな方向であるが双方吸い付けられる様に二者の足を狙撃する。
「んぁあああああッ」
犯人は痛みに耐えかねて叫ぶ。それもそのはずだ。普段なんの変哲もない平凡な生活をしている人間はまず弾丸をその身に受けることはまずない。ある種新鮮で今までに味わった事のないレベルの痛みだったのだろう。
「今です二人とも」
「ナイスだ、綾小路」
「ありがとう、みおちゃん」
弾丸を受け著しく行動が鈍った隙に藤巻と兎宮は犯人を捕える。
「あぁ、モガさん……俺、不合格かぁ」
観念して犯人は黙り込んだ。
「モガって一体誰のことなんだ」
「そこはまぁ、取り調べできっちり聞かせて貰えばいいだろう。最上のキッツイ取り調べなら並大抵のやつならゲロるだろ」
「そうですね。みおちゃん、この人こっちで預かっても大丈夫」
みおは変身を解除して兎宮と藤巻の所へ駆け寄る。
「多分大丈夫だと思いますよ。後で仙台組と博多組の人と連絡取る時にでも聞いてみますよ」
三人で取り押さえた犯人をどの様にするのかを決めていると、気を失い手錠にかけられている犯人の頭から血が流れて始めた。
よくみるとどうやら頭の出血元は穴からであった。つまり頭が貫通していると言うことだ。
「なぁッ。どういう事だ」
これにいち早く気がついたのは藤巻だった。
藤巻の驚きに何事かと他二人が反応すると今起きている事を瞬時に理解する。
兎宮が視る限りでは周囲には弾丸は落ちていない。
みおが〈本質〉を使って周囲を見て近くに犯人を狙撃した者がいないか捜索する。一方向ならず満遍なく全体的にそして集中的に建物の上の方を見る。
「誰ですかあれ……」
みおが視界にとらえた者はみお自身が使っているアームドシステムとよく似た様な装甲の姿であった。違いとしてはアームドスナイプが桃色を基調とした装甲なのに対して、その者の装甲は水色を基調とした物であった。
そして、装甲の体格から相手は大方男性であると言う事が分かる。
「あいつが、モガなのか……」
みおが見つけてから数秒もしない内にモガは姿を消した。
こうして、金沢での戦いは一旦幕を閉じた。
***
そして所変わって宮城県仙台にある商店街。同じく博多、金沢で戦っている同時刻。
「いましたね。宇都宮さん、潔さん」
金沢に派遣されたのは公安の一之瀬渡、御手洗潔に魔特の宇都宮明穂だ。
「敵は一人だ。行こう」
「はい」
「了解です。変身」
右腕に取り付けられたブレスレットに指をかざす。
『チェンジ・アームドオーケストラ』
全体のフォルムはアームドエモーショナルと似たようなものだ。
一之瀬の〈本質〉は演奏。楽器を触ることでその楽器の演奏方法、特徴を理解する。そして、音の波を増幅させエアフォースを生み出す。
音の強弱によってエアフォースの威力は変わってくる。
基本強い攻撃をする時はフォルテやフォルテッシモ。ただ、その上のフォルティッシッシモは威力が強すぎ、周りの二次被害が甚大な事になってしまいかねないので封印している。
「皆さん離れていてください」
背中に背負ったバッグからバイオリンを取り出し演奏を開始する。
フォルテにより犯人は大きく飛ばされ、商店街の中へと入っていった。
「皆さん、今ですッ」
「ホワイトルーム」
入っていった商店街の通路を全体的に凍らせる。そして、間髪入れずに御手洗潔が〈本質〉を発動させる。
「ここの空気を綺麗にしてやる」
御手洗の〈本質〉は掃除。汚れているものをなんでも綺麗にする。大気中の空気も例外では無い。
空間は最も綺麗な状態へと掃除される。
「これで終わりだ」
さっきのフォルテよりもより一層強い音を奏でる。
フォルティッシモ相当のエアフォースはさっきのフォルテのエアフォースよりも鋭く、そして素早く通る。そして、氷にぶつかった空気は反射して再度犯人に向かっていく。
ロジックは簡単だ。空気を綺麗にすることでより音が通る様にする。そして氷に区画が包まれた事によって氷で音が反響する。音への影響は全てエアフォースにも影響する。
犯人は初撃に加え、氷によった反響によって何度も全方向から強い衝撃が加えられる。
何度も強い衝撃を与えられる中で犯人が意識を失うことを確認する。
そして、一之瀬はオーケストラで指揮者が演奏を終了する時のように音を指揮し、エアフォースを消失させる。
まさに一人オーケストラというわけだ。
「犯人確保だ」
衝撃が止み御手洗が犯人確保へと向かう。
駆け寄る先に犯人と御手洗の間に赤い装甲をした人物がどこからともなく出現した。
そして、出現するや否や向かってくる御手洗の腹部に重い一撃を喰らわせる。
突然の攻撃に防ぎ切れずモロに攻撃を受けてしまい、商店街の外へと大きく飛ばされる。
「御手洗さんッ」
御手洗の後ろを走っていた宇都宮の横を御手洗自身が飛んでくる。
赤い装甲の人物は犯人に目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「んっぁ。マイムさん、助けに来てくれ」
犯人が意識を少しばかり取り戻しゆっくり話している途中に赤い装甲をしたマイムと呼ばれる者は、犯人の首元を切り多量出血で犯人の命を絶つ。
「あんたは不合格だよ。〈本質〉兎だったしもうちょっと上手くやってくれるもんだと思っていたのになぁ」
マイムは犯人の返り血を、手を洗う時に水気を取るかのように手を揺らしながら話している。
「兎にカンガルーに蜘蛛の並びだったら兎が勝ちそうなのになぁ。俺の偏見が過ぎるだけなのか、それとも君が〈本質〉を使いこなす事ができなかったからなのか……まぁいいか、そんな事どうでも」
前にいる宇都宮と一之瀬なんて気にも止めずに上の空で一人ブツブツ喋っている。
「あぁ、あんま俺は表に出ちゃあいけないんだった。じゃあね、みんな」
瞬間移動かのようにその場から瞬きをする暇も無い程に素早く消えていった。
「あれは一体何なのでしょうか、一之瀬さん」
「考えても埒があきません。今は御手洗さんの救護と犯人の生死確認をしましょう」
こうして事件の進展となる様な大きな謎を残したまま仙台での戦いも幕を閉じた。
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