第4話 会うは別れの初め

都内某所の会議室にて。


「ではこちらから現段階での捜査結果を伝えます」


 プロジェクタに映し出されたスイカの犯人の顔などの情報を映し出されている。何枚かの操作結果をまとめた資料を片手に最上は他の公安とICOの人間を前に説明する。


「児島道夫、三十八歳、男性。〈本質〉スイカ。〈本質〉のスイカは第三者によってもたらされた物だと供述。我々は第三者による物だということを事実であると踏んでいます。しかし当の本人は第三者が誰であるのかは記憶に無いとの事」


「ちょっと待ってくれ。これが児島の勝手な供述という線はないのか」


 少し襟足の長い黒縁メガネを掛けた男性が静かに手を挙げて発言する。

 この男性は公安の選出された人の一人だ。

 短髪の青年、綾小路龍我。その姉のみお。後ろに髪を結んだ男性の一之瀬渡。そして先ほど発言をした御手洗潔 みたらいいさぎ。この計四名が選出メンバーだ。

 そして、御手洗は続ける。


「確かに〈本質〉スイカはなんとも不思議ではあるが、第三者に貰ったという事は分かっているが誰に貰ったのかは分からない。少し出来過ぎな気がしないか」


「御手洗さん。我々もその線を考えましたが、本当にそうであった最悪の場合を想定して捜査する。もちろんただの見せかけという線も潰しはしないつもりです」


 最上の答えに御手洗は納得する。


「御手洗さん、でも〈本質〉スイカって自力での発現ってなかなか無理じゃないですか」


 横の席に座っていた同じ公安の一之瀬が最上の発現の説得力の補助のような発言をする。


「そうなるとまず俺らがやらなあかんことは、四十七都道府県日本全国の警察署にいつでも直ぐに向かえるように転送魔術を繋げとく必要があるなぁ」


 この場の全員が全てスーツにネクタイ姿の中ただ一人エスニックの服装をしている最強の男が席を立ち最上の隣に立つ。最上を横にやり、続ける。


「俺らが必要なのは情報や。だから、各地と〈本質〉事件の報連相をしっかりやって、怪しいなって思ったらその場で現場直行。現場百回や。あれ、これ使い方あっとるか。まぁ、とりあえずそういうことや」


 基本、警視庁魔術特化捜査課は四十七都道府県に人員を派遣する。警視庁にいるのを一係として、次に神奈川に二係と、東京を起点に係が作られている。そして、同じ地方で時に助け合いをするというシステムを取られている。

 最上は直ぐに別室の方へと向かい、他の県警に事件の事と転移魔術の件を伝える。


「今、確認を取りました。これから転移魔術を警視庁に繋げてくださるとの事らしいです」


 会議室にいた今入院している鏑木をのぞく一係の全員。その他の組織の人間は場所を変える。

 移動した場所は大きいホールのような場所だった。

 窓は一切無く、コンクリートだけの大きな部屋だ。


「藤巻さん、明穂、この場で魔術を使うことができるのは二人だけだ。向こうと転移の道をつなげて欲しい」


「了解だ。いやぁ、これは骨が折れそうだ」


 その後、電話で向こうと連携をとりつつ四十六個のワープゲートを作った。


***


 会議から数日後。

 魔特に一つの電話が掛かる。


「もしもし、警視庁魔術特化捜査課一係、宇都宮です」


『こちら宮城県警。仙台駅で何やら兎の様に動き暴れる人がいました。〈本質〉兎との見立てでこちらに電話しました』


「了解です。今、そちらに向かいます」


 魔特の部屋は五人のデスクがあり、資料などの書類がデスクに散らかっている。

 電話に出た宇都宮は狭い部屋をデスクチェアでコロコロと移動しながら電話の内容を伝える。


「晴翔、〈本質〉兎で、移植されたものの疑い有り」


 伝えていると魔特にはゆっくり事情説明する暇も与えず電話はかかってくる。


「もしもし、こちら警視庁魔術特化捜査課一係、兎宮です」


『こちら石川県警。金沢駅でピョンピョン跳び跳ねる男が暴れ回っているとの事です。魔術も使いませんので恐らく〈本質〉によるものだと。自然に覚醒するものとは少し違うと思い連絡をかけました』


「わかりました。直ぐにそちらに向かいます」


 宮城の次は石川。どちらも人の多い繁華街。栄えている街の大きな駅である。

 そして、間髪入れずに電話はもう一通届く。


「もしもし、こちらは警視庁魔術特化捜査課一係、藤巻です」


『こちら福岡県警。博多駅にてピョンピョン跳ねたり壁に張り付いたりする男が現れました。例の事件に関係する可能性があると判断したので連絡しました』


「了解です。向かいます」


 今のこの時だけで同時に三か所である。しかも近くの場所ではない。宮城県、石川県、福岡県と一つ一つの場所が離れている。

 どういう訳なのか、これが一体どういう事なのか分からずに最上は髪を掻く。


「同時に三か所、こんなに一気に来られると俺たちだけで対処できないな。鏑木もまだ入院中だっていうのに」


「最上さん。こいつは今すぐに他組織のメンバーに連絡を」


 藤巻の提案に何も言わずに最上は頷き、すぐさま公安とICOに回線を繋げる。


「皆さん、緊急です。宮城、石川、福岡で移植された疑いのある〈本質〉持ちが現れました。いずれもピョンピョン跳ねるとの事らしいです」


 事は一刻を争う。その場で五分かからず配置を決める。宮城県には公安の一之瀬渡、御手洗潔、魔特の宇都宮明穂。石川県には公安の綾小路みお、魔特の藤巻光輝、兎宮遥。福岡県には公安の綾小路龍我、魔特の最上晴翔。となる。

 通話中にも移動を開始していたらしく、決め終わって約五分で警視庁に公安組が着く。東京や、いざという時の留守番を桐生大吾に任せ、各自任せられた県に繋がっている転移ゲートに入る。

 今は九月の中旬の暑くも寒くも無い丁度良い気候、昼食時が終わり十四時半ほどである。人だかりが多く関係ない人が巻き込まれている可能性が大いにある。そのため、急いで事を肩付けなければならない。

 各々の戦いが始まる。


***


「お前の〈本質〉はなんなんだ?」


 部屋も空も暗い。建物の上部に取り付けられた三角窓からは月光が差し込む。その中で二人の男性が相対する。

 一人はロマンスグレー。もう一人は二十代前半の青年。ロマンスグレーが青年に問いていた。


「俺の〈本質〉は、速さだ。遠くても追いついて手が届くくらいに速い速さだ」


 青年はロマンスグレーを見つめ、ただ頷く。


「よく理解した。それが分かったら前へ進んでいけ。新世界の誕生を阻止しろ」


 そして、青年は目を閉じて意識がなくなる。


***


「またこの夢か……」


 微風が少し開いた窓の隙間から入り、カーテンがヒラヒラとたなびく。カーテンが浮いたことで太陽の光が差し込む。

 鏑木は眩しく目を少し萎ませて、眩しさが収まり、自分が今どこに居てどこで寝ているのかを理解する。


「そっか、俺入院したのか」


 川崎大師の一件の後、鏑木は都心の病院で入院していた。

 今は最上たちにが会議室で捜査結果を元に作戦会議を行なっている時だ。

 鏑木は一刻も早く現場に戻らなければならないと思い、急いで掛け布団を剥ぎ点滴の針を抜き、入院服からスーツに着替えようとすると、丁度点滴を替えるタイミングだったらしく看護師がきた。


「ダメですよ鏑木さん。腰の骨折れているんですから」


「でも、こうしている間にも」


 すると、病室に一人の男が入ってくる。白衣にアロハシャツにジーパンという病院ではあまり見ない格好で、パンチパーマをかけた医師であった。


「初めまして、主治医の矢吹悟です。えっと、鏑木さん。安静にしていてください。本来こんなガッツリ腰の骨折れていると時間かかりますけど、うちの〈本質〉持ちの医師とか使って色々やった結果入院期間一週間半に縮めたのですから」


「わ、分かりました。一週間半に縮めるって何をたんですか」


「そこは企業秘密っていうことで」


 主治医によって宥められたことで鏑木はもう一回点滴を打ち直して、渋々ベッドに潜った。

 あぁだこうだ、嫌だ何だと反抗的な行動をするが、なんだかんだで言い聞かせれば割と素直に話を聞く男、鏑木海斗なのであった。

 ベッドに入っても目おきなので眠くはない。かといって鏑木に小説を読む習慣もなく暇潰しの物が無い。しかも見舞いにも他の魔特メンバーは事件の会議中であるためこるハズが無い。故にひたすらに暇だという事だ。

 何かこの暇を少しでも潰せるような物や場面はないのかと病室の周りを見回していると。


「よぉ、どうした周りをキョロキョロして。そんなのをしていても何もねぇぞ」


 鏑木の隣のベッドに寝ている黒髪よりも白髪の方が多い六十代といった男がいた。


「そんなに急に話をかけたらびっくりするだろう、辰。やめたれやめたれ」


 男の隣のベッドに入っているおばさんも話しかけてきた。どうやら隣のベッドにいるのは辰というらしい。


「だってよぉ、綾。あんまり話しかけるタイミングが見つからなかったからよ、こう無理矢理やるしか……」


「だとしてもよ」


 辰と綾が言い合いを始める。見たところ二人は仲が悪く犬猿の仲であるという事ではないらしい。言わ有る喧嘩するほど仲が良いと言うものだ。


「どうもこんにちは」


 戸惑いながらも二人に挨拶をする。

 こうして、鏑木の短い入院生活が始まった。

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