第3話 武士は相身互い

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 最初に動き出したのは最上と藤巻だ。


「こっちに近寄るな!」


 自分に向かってくることを拒絶するかのように一斉に種を飛ばす。

 藤巻は走りながらも冷静にファイアウォールを発動させて種を燃やしつつ防ぐ。


「藤巻さん、頼みます」


 最上は刀を取り出し藤巻に刀を燃やしてもらう。

 犯人は無数のツルを出しこちらに向かうのを妨害しようとするものの、無慈悲にもツルは最上の燃える刀によって燃え切れる。

 慌てて犯人はスイカを発芽させスイカ爆弾を行う。

 最上は冷静に飛び散る果肉を刀身で防ぐ。あまり最上の攻撃の妨げにはならなかった。少し攻撃が緩んだものの、ほんの一瞬だ。

 体制をすぐに立て直し一気に犯人に向かっていく。


「さっきの若者より断然強いなぁ、最初っからあんな雑魚に任せず自分で向かえば良かったものを」


「五月蝿い。お前は一つ大きな間違いをしている」


「あぁ?」


 言葉を交わす間にも犯人の懐に飛び込む。

 犯人との距離を最大限詰め、犯人に向ける刀の向きを峰にする。


「海斗ッ!」


「最上さんッ!」


 正面からは弧を描くかのような斬撃と背後から勢いの良い回し蹴りが犯人を襲う。

 正面からの攻撃のみであると踏んでいたが、思いがけない方向からの攻撃に驚く。

 双方向からの強い攻撃に意識を朦朧とさせながら後ろを向く。そこにはさっき確かに自分が撃退してそこに意識を失い倒れていた少年がいた。


「お前の大きな間違えはただ一つ、こいつを雑魚と言った事だ」


 最上のその言葉を最後に犯人は完全に意識を失った。


***


「鏑木、遅くなったな」


 先程勢い良く回し蹴りを決めていたが、犯人から受けたダメージは小さくなく、床に座り込んでいた。


「やっぱり、親父みたいにはいかないか」


「まぁそんなすぐにはな。これからもっと成長すれば良い」


「そうですね」


 鏑木の父親であり、魔術・〈本質〉事件の第一人者だった鏑木勝利のことである。かつて、特殊スーツを身に纏い颯爽と事件を解決していく英雄と呼ばれた男。

 警察の他の人員も駆けつけ、戦場の後始末や怪我人の手当てを行う。


「最上さん、こいつどうします?」


 ポニーテールを揺らしながら声をかける一係ルーキー兎宮が声をかける。体を拘束された犯人を丸太を担ぐかのように持つ様は勇ましさとたくましさがあった。


「そうだな、うちの車にでも乗せておけ」


「了解っす」


 指示を受け、さっきまで自分達が乗っていた自動車の後部座席に載せようとすると、


「ちょとまった、そいつの身柄はこちらが引き取る」


「ちょっと待って下さい。身柄はこちらで預かります」


 兎宮の行動を止める声が二方向から聞こえた。声の主の一人は魔特の人間と同じスーツ姿。もう一人はスーツ姿に黒いサングラスをかけた格好をした男の二人だ。

 何事かと思い、屈強な体つきの藤巻と長い髪をさらさらと靡かせる宇都宮が兎宮の方に向かってきた。


「これはこれは、公安にICOの方までどうしたんですか」


 身柄を要求する二人は公安警察の者と国際特異事件対策機構ICOの日本支部の人間の連絡係の者であった。


「確かに並のの人より手強い相手でしたけれども、国や国際組織が出るような事件ではないと思われるのですが」


 宇都宮がこの場にいる者の共通の疑問を口にする。


「まだ詳しい事は言えないですが、こいつはこれからの戦いにおいて我々がいち早く動くための鍵となる人物です」


 犯人を担いだままの兎宮も藤巻も宇都宮もその言葉を理解できていなかった。


「それって、あいつの〈本質〉のスイカが他者から付与されたって事だからですか」


 その三人の後ろから最上に肩を貸してもらいながらゆっくり鏑木が近寄ってきた。


「そうです。これが第一例目であり、付与されたであろう〈本質〉がスイカというまだまだ可愛らしい物だったから良かったもののこれがより強力なものとなっていってしまったらそれは日本の、いや世界の脅威になり得ますから」


 ICOの人間の言い分は最もであった。

 人工的に付与された〈本質〉は今回のスイカを見る限りだと、自然に覚醒した〈本質〉よりも解釈が広く、能力の自由度が圧倒的に高い。どこまで技術が進んでいるのかはまだわかっていないが、この能力により無数の多種多様な〈本質〉が生まれてしまうという事である。


「このことから、警察や、公安より世界でまずこの段階でこの事件を終結させることが最善であるという判断です」


「ですが、たとえそちらの組織に世界最強の男がいるからといってまだ姿形も露わになっていない黒幕を対処するのは困難であると思われます」


 この中で最上は一つの提案をする。


「ここは一つ、警察、公安、ICOの三組織で手を取り合うというのはどうですか」


 話し合いの流れが変わる。

 今まで誰がこの事態を主に対処するのかという話し合いを手を取り合うという方向に持っていった。


「それは難しい話ですね」


「それは……」


 最上の提案に警察以外の二組織の反応はあまり良いものとは言えなかった。


「今まで手を取り合うという前例がありません。そしてICOは世界を、公安は日本を、警察は民間を。と一つ一つの組織のスケールと対応する事件が違います」


 最上はさらに自分の提案を推す。


「しかし、黒幕が本当に〈本質〉を自由自在に付与することができるというものであった場合、そんなスケールなどと言っている場合じゃなくなります。今は日本ですが、次はもしかしたら外国で起こるかもしれない。だからこそ最大限この事態の対処をすることが出来る者は手を取り合い協力すべきだと思います」


 他二人が黙り込む。

 今までにこんなに大きく膨らむ危険を持ち合わせた事件は無い。どのように対処するべきであるのか最良の選択を選ぶのに決めきれていない。

 沈黙を破ったのはさっきまでこの場に居なかった者であった。ICOの人間の後ろから襟足長めセンター分けの男が現れた。


「なんや、話聞いている限りやと選択肢は一つしかないんやないのか」


「桐生さん、何故ここに」


 桐生大吾。世界最強の男の名だ。

 恐らく車の後部座席に座っていて、じっとしていられなくなって出てきてしまったのだろう。


「車で少し待ってろ言われてて待ってたら、なんか騒がしいな思ってきてみたらこないな事になっているんやから」


 最上がICOの実際に動く人物に聞いてみる。


「それで、協力の件どうでしょうか」


「ええやないの。前代未聞の三組織が共同戦線組んで敵に立ち向かう。ごっつ派手で俺好みやないの。しかも、味方なんてぎょうさんおっても困る事あらへん。公安も手ェ取り合ったらええやないの」


「すみません。上に聞いてみます」


「分かりました」


 桐生の賛成と公安への同調の煽りによって三組織の協力関係の成立が一歩前まできた。

 公安の者が上司であろう人に電話をかける。

 この現場で身柄の引き取りを任された訳であって、全権力全判断権を委ねられたという訳ではないようだ。


「はい。わかりました。はい。では後ほど」


 公安の判断が決まったようだ。


「今回の件、公安も協力することが許されました」


「これで三組織の共同戦線が完成しましたね。これからよろしくお願いします。良い意味でこの共同戦線がはやく終わることを祈っています」


 これより、警察・公安・ICOの三組織共同戦線が完成した。予想できる未曾有の危機に出来るだけの対策することができるのか。

 警察からは魔特の一係から七係までの人員全員。公安からは四人の人員。ICOからは桐生大吾。

 公安は残りの人員には情報収集などを行なってもらう。ICOの戦闘できる人間は、桐生大吾が強すぎるが為に他に人員が集まらず今一人で活動している。


「これからどないなっていくんか、ごっつ楽しみやな」


「桐生さん、この危機な状況にワクワクしないでもらいますか」


「はいはい、気ぃつける。気ぃつける」


「私は一度拠点に戻って参加させようとしている者たちにこの状況と現状を伝えます」


 一通りの現場の片付けが終わり、怪我人の搬送も完了した。

 とりあえず今回は犯人は警察の方で預かっておく事となった。そして、決める事も特に何もなくなり、それぞれこの場を後にする。

 

 本当の戦いはここから始まる。

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