第2話 水火器物を一つにせず

 川崎大師の現場に鏑木がいち早く着いた。


 鏑木が見た現場である広い交差点の地面にはツルが所々張り巡らされていた。

倒れている人が三人。跪き、建物の壁に身を隠す人が二人確認される。そして、ツルの出どころは一人の男に収束される。


「何だこれ」


 バイクから降り、ツルを出す犯人と思しき男性が鏑木の存在に気が付くと鏑木が乗っていたバイクにツルが巻き付いていく。次第に縛りは強くなっていき、バイクが大破し煙を大きく出す。


 鏑木はその隙に身を寄せ合う二係らしき二人に近寄る。


「二係の才川さいかわさんとこまさんですか?」


「あぁ、君は一係の鏑木海斗だな。助太刀感謝する。今、不甲斐なくも駒と身を潜めて次の一手を考えていた」


「犯人は見たところスイカを使ってこちらを攻撃している」


 駒から出てきた情報は鏑木の想像していた、魔術とも〈本質〉とも違うスイカだった。


「駒さん。それは本当ですか? 見間違えじゃあなくて」


「見間違えじゃあない。スイカを使った魔術なんて見たことも聞いた事もない。だが、あれは普通の人間が自力でできるようなものじゃあない」


「そうなると、このスイカ攻撃は〈本質〉によるものだと」


 何とも信じ難いことだ。普通〈本質〉と言うのは文字通りそのものの本質を表す。

例えば鏑木は速さを強く求める事で速さが鏑木にとっての根本的な要素となっている。鏑木の〈本質〉も珍しい方で、基本〈本質〉は動作系が多い。そして被る事もある。

 その中でスイカだ。そうスイカだ。あのよく夏に食べるウリ科の植物だ。つまり犯人の根本的要素がスイカという事だ。

 今は多様性の社会。だから許容しろと言われればそれまでだが、何とも不自然だ。

 鏑木は魔術とも〈本質〉とも違う新しい能力なのかとも考えた。


「あいつをとっ捕まえたら分かる話だ」


「鏑木、俺たちは足を折られていて足手纏いになってしまう。この場は任せてもいいか?」


「大丈夫です。任せてください」


 そして、煙が晴れた交差点に向かっていく。


「何だ? 加勢か? まぁ殺せばいいか」


 鏑木に向かって五本ほどのツルがまとまって一直線上に凄まじい勢いで伸びてくる。

 鏑木は〈本質〉を発動して回避する。そしてツタ達は進行方向を変え斜め上に向かって飛ぶ鏑木に再度狙いを定め飛んで来る。


「こいつ、追尾するのかよ」


 鏑木は空中で横に一回転して勢いそのままツタを回し蹴る。

 ツタは鏑木の攻撃に耐えられず千切れ、追尾がなくなる。

 蹴った後、交差点の歩道橋に着地する。


「おいおいおい。隠れてねぇで早く出てこいよ。出てこねぇんだったらこうだ」


 犯人が下から突き上げるように両手を掲げると五つスイカが地面から生えてきた。そして、スイカは空中で浮遊しながら爆散し、種だけが中に浮遊し続ける。そして鏑木が隠れている歩道橋に目がけて種が飛んで来る。鉄骨に当たりカンカンと甲高い音を立てる。

 鏑木は耐えかねて歩道橋から身を出し上へ飛ぶ。前を開け風でたなびくスーツに種が当たり、穴があく。


「種、スーツ貫通するのかよ」


 下にいる犯人に向かって種を避けつつ近づき踵落としをきめる。

 犯人の身のこなしは思ったよりも軽く、上から落下する様に襲って来る攻撃を回避していく。着地次第次々と犯人に蹴りを入れるが全てスイカを間に挟まれ防がれてしまう。


「こうなりゃ、ゴリ押すッ」


 正面にいる犯人に向かって凄まじい速度で突っ込む。

 スイカをいくつか間に仕込まれ、幾分か衝撃を緩和されてしまったが犯人を大きく飛ばすには十分な攻撃力だった。


「観念しろ」


 吹っ飛んだ犯人をすかさず力ずくで取り押さえる。


「あんた、さっきの奴らより強ぇな」


「お前のそのスイカの能力は〈本質〉なのか、それとも魔術なのか?」


「犯人に聞くことのまず一つ目がそれかよ。まぁいいか。これは〈本質〉だよ」


 少し笑みを浮かべながら鏑木の問いに答える。


「今お前、珍しいって思ったろ。そりゃ聞いたことねぇわな。だってこの〈本質〉人工の〈本質〉だからなぁ」


 人工の〈本質〉を鏑木は聞いたことはなかった。

 普通〈本質〉とは自然的に覚醒するものだ。今まで人工のものなんて存在はしなかった。すなわち、この世に〈本質〉に人工的に作り出すことができる人物が現れたという事だ。

 魔術を使って生み出したのか、はたまた〈本質〉を使って生み出されたものなのか。


「誰にその〈本質〉もらったんだよ」


「そんなこたぁ言えるわけねよな」


 舌打ちをしながら犯人に手錠をかけ、反撃のできないようにする。


「後お前、さっきスイカ何個割った?」


「何言ってやがる」


「こういうことだ」


 鏑木の背後へ、さっきの攻撃で割れたいくつかの割れたスイカの残骸から出た無数の種が一斉に弾丸のように飛ぶ。

 次々と、ミニガンのような連射が鏑木を襲う。

 スイカの種の恐ろしさは 一つ一つは軽く、歯で簡単に噛み砕ける小さい小さい種ではあり、一発一発の攻撃の威力は速度で多少増されていても小さいものだ。

だが、無数で広範囲の連射によって確実に衝撃は与えられ、そして持続的な攻撃となる。

 一瞬連射が止み、隙が生まれたと思い動こうとするが動けなかった。そう、ダメージは確実に蓄積されていたのだ。


「これで終いだ。スイカ爆弾」


 鏑木の背中の近くのコンクリートの地面から芽が出て瞬く間に大玉のスイカに成長する。


「やばいッ」


 避けなければならないと、動けなかった体を無理矢理身を守るために動かしその場を離れようとする。

 しかし間に合わなかった。成長した大玉スイカは鏑木の近くで勢いよく破裂する。凄まじい速度で飛び散るスイカの破片が鏑木を襲う。

スイカ爆弾の威力に耐えかね鏑木はその場で膝を突き、気を失ってしまう。


***


 陰で戦いを見守っていた才川と駒は鏑木がやられてしまう状況に頭を抱える。

 このままでは鏑木は犯人に息の根を止められてしまう。


「才川さん、立てますか?」


「動き回ることは出来ないが、一応立てはする」


「じゃあ、行きますか」


「そうだな」


 二人は、壁に体重を預けゆっくり、何とか立ち上がる。自力で立っていることは難しいので、壁を杖代わりにする。

 犯人が鏑木にとどめを刺そうとする。


「バーストウッドショット」


 駒の掌から弾丸の形をした木片が飛ぶ。

 それに気が付かず鏑木ののどに向けていた犯人の手に直撃する。


「いってぇな! 邪魔ぁすんな!」


 スイカのツルが波打ちながら二人に向かってくる。

 才川が駒の前に立ち、向かってくるツルを一身に受ける。


「おいテメェ、足折れていんのになんで攻撃を受けていられる」


 才川の体は普通の人よりも二回りほど大きいが、足が折れてしまえば、小柄だろうと大柄だろうと関係がない。犯人は今見ている光景に疑いが隠せなかった。


「才川さん、無茶しないでください」


「能力で無理やり足固めて立っているけど、ちょっとキツいから早く切ってくれ」


 才川の〈本質〉固くなる。体の随所を強固にする事ができる。今才川は全身を、そして特に足を固めて強制的に自分を立たせ駒を庇っている。


「ストライクウッド」


 木の刃を出してツルを切断する。


「やっぱり、戦えば戦うほど藤巻さんが相性良い相手だな、他の一係はまだなのか」


 才川が攻撃に耐えて、駒がストライクウッドで攻撃を断つこの繰り返しがしばらく続く。


「上に気がつけよ、間抜け」


 後ろに壁に寄りかかる駒と前に出ている才川の間にスイカが三つ上から落ちていき破裂する。


「スイカ爆弾」


 破裂したスイカの破片が勢いよく飛び散り二人を攻撃する。

 駒は反対方向からスイカの種の弾丸が飛ぶ。

 固めてもこれらの攻撃には流石の才川も耐えられなかった。

 二人がついに怯むとこれで終わりにするとばかりに一斉攻撃がくる。

 終わったと思った。

 終わりの覚悟を決めると、二人の眼前に迫っていたツルと種とスイカが瞬間的に炎にすり替わった。


「この炎は?」


 横へ顔を向けると、鏑木以外の一係のメンバーが駆けつけていた。


「大丈夫ですか?」


「最上か。俺らはお前達のおかげで大丈夫だ。だが、鏑木がそこに気を失っている」


 藤巻が魔術を使って交差点の床から全体的に炎を出現させ、床に張ってあったツルを一掃する。


「明穂と兎宮 うさぎみやは二人の護衛を、藤巻さんと俺はあいつを叩く」


 最上が他三人に指示を飛ばす。

 各地配置についた。犯人も迎え撃つ準備を整えた。

 さぁ、第二ラウンドだ。

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