第十章 その2
そんなウルフパックの戦車と傭兵達の群れの中に、ゴートの姿があった。
また大隊長ギャッキが乗る戦車の傍らにはコーの姿もあった。
「あ、ギャッキさん。マ・ゼンダさんが戻りましたよ」
コーが指さした方向を見ると、マ・ゼンダとウォリルが二人並んで街から出てきた。
ウォリルの姿を認めたギャッキは戦車から飛び降りた。
しかしマ・ゼンダとの距離が近いのを見ると、面白くなさげにフンッと鼻息も荒くタバコを投げ捨てて踏みにじる。そしてそんなギャッキの背中をコーは無言で見ていた。
「マ・ゼンダさんよ、金策は上手くいったかい?」
ギャッキの問いにマ・ゼンダは肩を竦める。
「けんもほろろだった。カーリェ鉱山を得たからと言って、バラクレルの十二洞会議の一員になれるなどと思うな、ととりつく島もなく言われてしまった」
「様にならない結果だねえ。頼むから俺達への支払いをこれ以上滞らせてくれるなよ」
「ギャッキ君。君にもその責任の一端があることは忘れないで欲しいね」
するとウォリルが口を挟んだ。
「バラクレルなど力ずくで征服してしまえば良いのです」
「そんなことをしては、バラクレルまでカーリェと同じになってしまう。バラクレルの価値は工房都市としての機能にあるのだからね。ところでゴート、どうして君が?」
ゴートが歩み寄って囁いた。
「ノガタルのアーリントが内密での会談を求めてきた」
「ノガタルのアーリントだと?」
「料理と美姫と酒を揃えておくので、お招きに応じて頂きたい――そう言っていた」
マ・ゼンダはふむと頷くとウォリルを振り返って問いかけた。
「アーリントは、ノガタル傘下キャラバンの重役だったな?」
「第三位です。しかし単なる番頭だという者もおります」
「ゴート、君はどう思う?」
「ノガタル・キャラバンの先代会頭に見いだされて重役に抜擢されたほどの男だ。相応の実力はあると見た方が良い」
「能力のある者はそれに見合う野心を腹の中に育てているものだ」
「レオナ嬢がノガタルに身を寄せたという噂もある」
「彼女の血族がノガタルに?」
「レオナ嬢の伯母がいる」
「君が仕えた女性の姉君か。その伯母は資格の継承権を持っていなかったのか?」
ゴートは沈黙をもって回答とした。
「そういうことか。そんな男がわざわざ話をしたいと申し出てきたとなれば面白いことになりそうだ。会談の日時の調整を君に任せても良いかね?」
「ノガタル・キャラバンは現在トレッキルでバザールを展張している。会談場所は中間点のクラップフあたりにしたい」
するとウォリルが口を挟んだ。
「敵の勢力圏に近すぎませんか?」
「他に程よい街がない」
「では兄にご依頼を伝え護衛任務の命令を出して貰います」
「この交渉にはブ・ラック君にも同行して貰いたいと伝えてくれ」
「兄に? 了解」
「そういうことだゴート。フレグ家には事を荒立てないような報告を頼むよ」
「良い結果を期待させてしまうことになるぞ」
「私もこの会談に期待をしている」
ゴートは頷くと自分が乗ってきたトラックに戻った。
そんなゴートの背中を見ながらウォリルがマ・ゼンダに囁く。
「あの男、あまり信用されない方が良ろしいかと」
「どうしてだね?」
「あまり良い評判を聞きません」
「ミグルン家に仕えていた者にとって彼の行いは裏切りだ。悪口陰口は当然だろう?」
「ですが、今度はマ・ゼンダ様を裏切るかも知れませんよ」
「裏切るも何も、彼は私に忠誠を誓ってなどいないよ」
「では、何なのです?」
「協力者――とでも言うべきかな?」
「ならば、ますます信用がおけません。重要な仕事を任せるべきではありません」
「ウォリル。私は協力者もやがては同志にすることができると思っている。そのように猜疑心あからさまにすると、彼を敵の側へと押しやってしまうかもしれない」
「私とて、内部に不和をまき散らしたいわけではありません」
「君の忠言には心しておく。しかしそういった態度をゴートに見せないようにして欲しい。兵達が真似をして彼を軽んじてしまったら大変だろ?」
「そういうことでしたら――。畏まりました」
「では、カーリェに戻るとしよう」
マゼンダは【タランチュラ】に乗り込んだ。
それを見ていたギャッキがコーを呼ぶ。
「おい、コー」
「なんでしょうかギャッキさん?」
「少しの間でいい。ゴートに張り付いて奴を見張れ。理由は適当に考えろ」
「それって、あからさま過ぎません?」
「あからさまだから良いんだろ? 俺はウォリルに、俺がウォリルの意向を汲んでるところを見せたいんだ」
「ああ、そういうことですか。なら――多少の方便を口にしますよ」
「つじつまを合わせろってことか? かまわんが必要な範囲にしとけ」
ギャッキの戦車大隊は、コーをその場に残すと【タランチュラ】を先頭にしてバラクレルから去って行った。
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