第五章 その2
§ §
こうしてフォクシー、ミミ、カッフェの三人はリストアップされた部品の調達へと出かけることになった。
カーリェからバラクレルへの往復は、買い出しに行く商人のコンボイに便乗させて貰える。しかも行き来にミグルン家の戦車が随伴警備をしてくれると言う。
「何から何までどーも!」
フォクシーは商人の見送りに来たガレスに礼を告げた。
「いや、街の住民を養う食料調達に警護をつけるのは当然だ。フレグ家との武力衝突は避けられそうにない現状ではな」
すると何故かレオナも乗り込んできた。
案内も兼ねて三人の買い物に付き合ってくれると言う。
「部品探しをお手伝いしますわ」
フォクシーがガレスに囁いた。
「もしかして、彼女があたしらに着いてくるのもそう言う感じっすか?」
おそらくきっと多分、自分達はレオナの護衛として当てにされているのだ。
「否定はしない。娘に気晴らしがてら同行しろと勧めたのはそういう意図もある。無論、そんなことまでは本人には話していないがな」
「どう思う? まだ雇用契約を結んでないよ」
「別に良イのデは? バラクレルを案内シテ貰エルなら持チつ持タレつ」
どうせ何かあったら三人とも逃げることになる。戦うのはあくまでもミグルン家に雇われた戦車傭兵なのだ。
フォクシー達はレオナを引っ張って逃げれば良いのだ。
「良い待遇をして下さっているのです。多少のサービスはしても良いのです」
自分達は好待遇を受けている。野暮な指摘をして折角のご厚意を無下にする必要もないだろうということになった。
フォクシー達は工房都市バラクレルの市街へと入った。
さすが工房都市の部品街。十二洞のそれぞれから発掘される機械部品がずらりと並んでいた。
「おおっ、これは凄い!」
その品揃えの豊かさにフォクシーは感嘆の声を上げた。
「ミミ、これなんてどうよ?」
フォクシーが振り返る。
ミはポケットからノギスを取り出すと部品に当ててサイズを測ったり、部品の肉厚を確認したりはじめた。
さらに音叉を取り出すと鳴らしてから部品に軽く触れさせる。すると表情を不機嫌そうなものへとかえた。
「ううっ、ここにあるのはあまり良い品質とは言えないのです」
「使えればいいんじゃないのー?」
「確かに口金のサイズが一致して、全体が似た形状をしてるならば使用できるのです。でも性能は低下するし、すぐに摩耗して使えなくなるですよ」
「いいじゃん安いんだから。劣化したらどしどし交換すればいいんだよー」
するとレオナはフォクシーの意見に同意した。
「それも考え方の一つですわね。しかもこのあたりではそれが普通ですわ。ミミさんのような細やかな神経では師を続けていくのは大変なのではありませんか?」
ここらへんにいる技師の多くは戦車に開いた穴はとにかく埋まっていれば良いと考える程度に大雑把だ。
そして傭兵達もそんな風に再生された戦車を当たり前と思って使用している。
そんなアバウトさで荒茫大陸の世界は回っている。
鉄の材質がどうとか、焼き入れがどうとか言ったところでそのあたりの技術や知識は失われているし、残っていたとしても秘伝として囲われているから仕方ないのだ。
「うー、でも師匠が」
「これ以上の品質をお求めになるなら、オーパーツから探すしかありませんね」
「そもそも【ナナヨン】はオーパーツの塊なのです。可能なら全部オーパーツを揃えたいくらいなのです」
「おかげであの子ったらお金ばかりかるんだよねー」
「承りました。では【オーパーツ】のあるところへご案内しましょう」
レオナはそう宣言すると三人を連れてバラクレル市街の裏路地へと向かった。
「うわ、何ここ?」
そこはただの裏路地ではなかった。
裏のさらに裏。薄暗く怪げな雰囲気が漂って若い娘が迷い込んだらたちまち襲われて身ぐるみ剥がされた上に、売られてしまいそうな気配で満ちていた。
しかしそんな裏路地の奥地にこそ目的地はあった。
「ここです」
店頭にジャンク品が並ぶ店へレオナは入った。
そして店長らしき男に何かを囁く。
店長は胡乱げにミミやフォクシーを見た。
三人はしばらくの間、値踏みするような視線に晒された。だが男は大儀そうに立ち上がると「ついてきな」とさらに店内の奥へと迎え入れた。
「こ、これは!?」
店の奥に広がる異様に広い倉庫で、ミミは瞳を輝かせた。
「マグネター・スターターなんてものが何でここにあるですの!? あ、エニモグのクラッチディスクなんて物もあるのです! どこで手に入れたのです!?」
「さあな。どこかの工房の片隅で埃をかぶってたのが巡り巡ってうちに来ただけだ」
図書館の書架が如く几帳面に並べられた工廠用整理棚。
そこにはミミの求めるオーパーツ――様々な車両の純正部品が並んでいたのだ。
口の重い店主に代わってレオナが説明を続ける。
「オーパーツとは、そのような形で市場の影を人知れず流れている物なのです。商人の手から手へと渡るウチにどれもこれも由来がよくわからなくなってしまいます」
「手に入れば出自なんてどうでも良いのです! これまで再生品やら自作で乗り越えてきたオイルフィルターの新品がようやく手に入ったのですよ!!」
ミミは勢いに任せて倉庫片隅に置かれた台車を借りて陳列棚へと突進していく。
「ちょっとカッフェ。手伝うのです!」
「ウィ」
喜びに溢れたミミの尻が躍動するのを見ながらフォクシーはレオナに囁いた。
「こんな店、よく知ってたねー」
「蛇の道は蛇。我が家のような事業を営んでいるとこういう伝も出来るのですわ」
「ふーん」
次にフォクシーは店主に歩み寄って囁いた。
「ここにあるようなオーパーツの出所を探して、五十くらいのおっさんが来なかった?」
「さあな、いろんな奴がここに来る。五十くらいの男は毎日、毎週、毎月だって来る」
「ヒト種。黒目。白髪交じりの黒髪。多分短く切りそろえている。身長は百七十センチくらい。体重は六十七キロ。もしかすると黒いオニキスの板を見せたかも」
「……」
黒いオニキスの板――というキーワードで店主はフォクシーをジロリと見上げた。
「思い当たるみたいね。良かったらそのあたりの話を詳しく聞かせて欲しいんだけど」
フォクシーはそう言うとガバッと店主の首に腕をかけたのだった。
さて、支払いである。
ミミとカッフェは大量の部品を店主の前に積み上げた。
もちろん支払いはカンパニーの代表にして金庫番であるフォクシーの担当だ。
「手形で良い?」
「どこのどいつが振り出した手形かによるな」
するとレオナが横から口を差し挟んだ。
「我が家の振り出した物です」
「ミグルン家の手形なら割引なしで結構だ」
「割引って何なのですの?」
「手形とは、書かれた期日に、記された場所で、この額のお金を誰々さんに引き渡しますという証文ですわ。それをお金代わりに使おうとすると、普通は額面通りというわけにはいきません。手数料として一割くらい額面から値引きされます。酷い時は半分以下になってしまいます」
「釈然としない。どうして紙切れでの支払いをフォクシーは受け容れたですの?」
「銀五〇〇〇ビスですよ。現金だと重くて持ち歩くのが大変じゃないですか。受け渡しの際に偽金が混じる可能性もあります。そもそも数えるのにも二時間くらいかかってしまうでしょう? 対するに、手形だとそれがありません」
「確かに。言われてみれば便利なのです」
「ただし現金に換えるのに相応の時間がかかりますわ。場合によって不渡りになるかもしれません。手数料とはそういう諸々のリスクを呑む意味もあるのです」
「うー」
「ですが、ミグルン家の振り出した手形は違います。ここバラクレルでは十二洞家の手形は振り出された瞬間から額面通りのお金と同じ価値があるものとして通用します」
「何故ですの?」
「十二洞会議が裏書人として保証する制度があるからですわ」
実際、見ている間にもフォクシーは手形だけで部品代の支払いを終えた。
「これでリストの半分は揃った感じですわね」
レオナはミミのクリップボードを覗き込むと半分くらいに横線が引かれていた。
「んじゃ残り半分。気合いを入れていっきにいくよーーー」
四人はリストの残りを手に入れるべく別の店へと向かった。
裏街部品店で借り受けた台車をガラガラゴロゴロと押し歩くほくほく顔のミミ。
買い物を終えた四名は帰りのコンボイが待つバラクレル城内の広場へと向かった。
広場の一角では警護の戦車が警戒するなか、貨物トラックに商人達が食料品や各種の資材、物資等を積み込む作業をしていた。
それとは別に、新規募集に応じるべく集まってきた戦車傭兵の姿も見られた。
「戦車がないのだが、ミグルン家では身一つで戦車傭兵に応募できるって本当か?」
「ああ。貴様達でクルーを揃えたら戦車を貸してやる」
採用された戦車傭兵達がバスに乗って出発の時を待っている。
借りた台車の返却を終えるとレオナがぽつりと言った。
「出発の刻限には、まだ時間がありますわね」
「どうしたの?」
レオナは広場に面したとある店舗に着目していた。
店舗の前に掲げられている看板の数字が気になっているらしい。
「商品取引所ってなに?」
「要するにバラクレルでの物の値段が決まるところです」
「値段が決まる?」
「たとえば、あそこに生ゴムの値段が表示されてますよね?」
「ええと、生ゴムの値段は一梱で一五ビスで……」
するとミミがホッと胸をなで下ろした。
「よかったあ。値上がりする前に買えたのです」
昨日、市場で購入した時の値段が一二ビスだったので彼女は得をしたことになる。
しかしレオナは言った。
「安心したらいけません。ここでの値段は『今』の値段だからです。物の値は上がったり下がったりします。まだ時間がありますし、興味があるようでしたら一緒に中を見てみませんか?」
レオナの誘いで三人は取引所へと向かうことになったのである。
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