大晦日と新年

大晦日になった。先輩は俺の家族の受けもよく、図々しくも居座っていた。

「紅白からのジャニーズカウントダウンでしょ」

「うちは、チャンネルそのままで、ゆく年くる年ですね」

「お兄さんの部屋、テレビあったよね。そっちでジャニカウ見るわ」

「ええ、どうぞ」

 うちの部屋にはリビングに一台、兄の部屋に一台それぞれテレビがある。例年、リビングは父と母と俺が「ゆく年くる年」を見て、兄は自室で過ごしていた。テレビを見ているのかは分からない。

「えっ」

「何だ、兄貴。別にいいだろ。部屋に何か見られて困るものでも」

「お兄さんが重度のアニオタで部屋に美少女ポスターとかあっても軽くスルーするよん」

「うっ」

 恐らく、兄の部屋は雪兎先輩の言う通りになっているらしい。

「ようし、お兄さんの部屋を探索だぁ!」

「や、やめ」

 兄の抵抗も虚しく、先輩は兄の部屋に進撃していった。

 俺も一応付いて行く。数年ぶりの兄貴の部屋の中を見ることになった。部屋の印象はそんなに変わらず、普通のオタク部屋という感じだ。美少女ポスター、フィギュア、グッズ諸々取り揃えてある。

「僕もこのアニメ好き~」

 先輩がポスターを指差しながら、はしゃいでいる。兄はおろおろしながらも対応する。


 新年のカウントダウンも兄の部屋で行った。サイリウムを振りながらの年越しは新鮮だった。

 気が付くと、ラインが何件か来ていた。染井さんの個人ラインをまず開いて返信する。次にサッカー部ラインが祭状態になっていたので、軽く参加しておく。

「僕も、春ちゃんとかさねちーに、あけおめ送るか」

 兄貴のスマホは鳴らない。友達がいないのは変わらずか。

「あ、そうだ、先輩。明日、染井さんと初詣行くことになったんで」

「うん。了解」

「そ、染井さん?」

「吉野の彼女だよ」

「え、彼女いるの?」

「いるよ」

 兄貴は衝撃を受け過ぎたのか、くるくる回った後、ベッドに突っ伏した。

「ショック受け過ぎ。お兄さん面白」


「じゃあ、お兄さんは僕がお世話しておくから、彼女と初詣いってらっしゃい」

「はい。よろしくお願いします」


 俺は染井さんと初詣に行くため、一足早く釧路に帰省した。

 先輩は俺がいないのに、俺の家にいるという変な状態になってしまったが、まあいいか。


 初詣、染井さんは着物を着ていた。

「着物、綺麗だね」

「ほんとっ? ありがとう!」

 嬉しそうにしている染井さんは、可愛かった。

 願い事は「平和に過ごせますように」だ。


 




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