本番
そして、ついに本番が訪れた。
最初は物語の案内役の先生の口上から始まる。
「美しいヴェローナの街には名声を誇る二つの家がありました。事もあろうに、このいがみあう両家から生まれ出たのが、互いに恋し合う二人の男女、誠に不運な星の元に生まれついたもの。この恋人達の前途には見るも無残な破滅の道が横たわり、果ては死が待ち受ける。二人の恋の一部始終、どうかご覧あれ」
幕が上がり、俺は先生に優しく押されて舞台上に立った。
俺達の劇は大本命の演劇部の前座。客入りはまあまあってところだ。
それでも緊張はする。
ロミオがジュリエットへの恋を自覚し、相手が敵対するキャピュレット家の娘だと知る。
「何? 彼女はキャピュレット家の娘だと! 生殺与奪の権を握られてしまった!」
「ああ、ロミオ、どうして、あなたはロミオなの?」
あの有名なセリフを染井さんが熱演する。
「貴様は我が不倶戴天の敵、ロミオ! 覚悟!」
何度も練習した殺陣の場面。結弦との息はぴったりだ。
「ティボルト様はお亡くなりになり、ロミオ様は追放の身! ああ、どうしましょう」
ロミオが絶命し、ジュリエットも自分の命を絶とうとする。
「意地悪なお方、毒薬を全て飲み干してしまうなんて! もうこの命なんて惜しくはない!」
「これは悲劇、ロミオとジュリエットの悲恋」
幕が下り、会場からの拍手が聞こえた。
打ち上げはカラオケだった。
俺はカラオケが苦手だったので、最初の挨拶が終わって、しばらく経った後、少し部屋の外に出たら、染井さんも付いて来た。
「私もカラオケとか苦手で……」
「そっか。主役二人が抜けて大丈夫か? まあ大丈夫か、結弦いるし」
「有明君がロミオで良かった」
「ありがとう。俺もだよ」
俺達の劇は成功を収めた。
そのお陰で、サッカー部の絆も深まった。
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