結弦の熱演

次の日。

岩倉さんは、演劇部の合間に、練習に付き合ってくれることになった。

「台本がまだ覚えられなくて」

「台詞は会話、相手がいるってことを常に考えていて。後は台本の読み込み、練習練習」

「分かった。やっぱり繰り返しの練習だよな」

「あと、皆、発声練習をした方がいいよ」


 早速、岩倉さん主導で発声練習が行われた。

「アエイウエオアオ」

「「「アエイウエオアオ」」」

「アエイウエオアオ」

「「「アエイウエオアオ」」」

 他にも何パターンか発声練習をして、それが書いてあるプリントもくれた。

「家でも練習しておいてね」

「「「はーい」」」



今日は衣装合わせが行われた。

衣装や照明は演劇部が協力してくれることになった。

「紗夜ちゃん、可愛い!」

 ジュリエットのドレスを着た染井さんに、岩倉さんが歓声を上げる。

「お~、可愛い」

 結弦も素直に褒める。

 確かに、ドレスを着た染井さんは綺麗だった。

「吉野もロミオの衣装、似合ってるな!」

「そうかな?」

「うん、すっごく似合ってる!」

 染井さんが一緒に写真撮ろうと言ってくれたので、撮ることにした。

「ありがとう!」

うちの演劇部は衣装の量が多く、それっぽいものも集まった。

皆、衣装を着て、はしゃいでいる。

 うちの演劇部、実は全国まで行っているらしい。

学校も、もうサッカー部じゃなくて演劇部で売っていくのだろう。

そんな演劇部に所属している岩倉さんに指導してもらえるのは光栄に思った。


 俺は、まだ台詞が覚え切れていないが、台本を持ちながら立ち稽古に入った。

『さあっと的を射ぬいてしまう、それが恋というもんだ』

「有明君、声が小さい! もう一度!」

 初っ端から即ダメ出しを食らう。

『さあっと的を射ぬいてしまう、それが恋というもんだ』

「まだ恥ずかしがってるの⁉ もっと本気で!」

 主役だからか、俺ばかりがダメ出しを食らった。泣きたい。


 一週間後、何とか台詞を覚え、今日から台本なしで立ち稽古を始める。


 ティボルトとの決闘場面。

「ええっと……」

 台詞が飛んだ。

「どうした、ロミオ!」

 結弦が咄嗟のアドリブで繋いでくれる。


「結弦、さっきはありがとうな」

「ああ、何か咄嗟に台詞が浮かんできてさ」

「お前は、すげーよ。お前ってティボルトと全然似てないじゃん。それなのに、ティボルト熱演できるのってすごいよな」

 まさか結弦が演劇も行けるとは思わなかった。

「そうか、ありがとな。普段と違う役の方が面白くね?」

「いや、その感覚は俺には分からん」

「そっか」

「あのさ、殺陣のところ、合わせて欲しいんだけど」

「いいぜ」


結弦との寮で練習するのも日課になっていた。

自分でも驚くくらい、上手くなっていくのが分かる。最初の棒読みが嘘のようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る