稽古開始

劇の練習は、サッカーの練習の前後どちらかで行うことになった。

 何と脚本は、先生が徹夜して三日で仕上げてくれた。

まずは台本の読み合わせからだった。椅子に座りながらでいいらしい。

「吉野、棒読み過ぎ。最初から気合が足りないよ」

 当たり前のように部室にいて、ダメ出しをする先輩。

「すみません」

 小学校の頃、国語の授業で音読があった。俺は、特に感情も込めずに、普通に読んでいた。学芸会の劇でも、ほぼ棒読みだったが、注意されるようなことはなかった。しかし、今回は違う。主役だ。棒読みの主役なんて目も当てられない。


 寮の部屋にて。

「明日から立ち稽古だけど、不安しかない」

「大丈夫だって。台詞はゆっくり覚えればいいさ」

「結弦は読み合わせから、本気だったよな。すげえよ」

「まあな。俺が言い出したことだし。演劇楽しいじゃん」

「そう思えるメンタルが羨ましいよ」

 

 次は立ち稽古(台本持ち)、覚えた人から台本なしになる。

主役なので、台詞の量が多く覚え切れていない。皆が台本を持たなくなっていく中で、俺はいつまで経っても台本が手放せなかった。

「どうすれば、いいのかな」

「有明君、大丈夫?」

 染井さんが心配そうに言い、俺の隣に座る。

「台詞、覚えるの大変だよね」

「うん」

 同じ主役でも、少なくとも、染井さんは俺よりも台詞を覚えている。

「誰か教えてくれる人が……、ハルちゃんに頼んでみるのはどうかな? 演劇部だし」

「ハルちゃん?」

「演劇部の岩倉晴香。同じクラスだよ」

「ああ、岩倉さんか」

「明日、聞いてみるよ」

「うん、ありがとう。よろしく」

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