先輩と俺 その陸   ~毬藻高校十周年記念講演会!~

部室にて

 九月半ば。

 私立毬藻高校サッカー部が休部状態から復帰して一週間が経った頃。

 部室には練習を終え、汗だくになった部員達がいる。

 本日の平均気温は二十度。真夏日という程でもないが、運動をすれば自然と汗は流れる。

 各々Tシャツや体操着など思い思いの練習着を脱ぎ、制服に着替える。部室の中は汗と制汗スプレーの様々な臭いが混ぜ合わさった独特の空気感に満ちていた。


「じゃあ、今日はこれで。皆お疲れさま」

「はい、そこで部長から有り難い今日の一言」

「よっ、部長!」

「特にないですから! 結弦も乗るな」

「お疲れさま」

「お疲れ~」

「お疲れさまです」

「じゃっ、じゃあ、また明日ね、有明君」

「そういえば、十周年記念式典に真葛さん出るんですね」

「うん、そう。俺が提案したの」

「ほー、生社長さん見るの初めてー。吉野は会ったことあるんだよな。で、どんな人だった?」

 どんな人と聞かれ、あの人を一口で表現する言葉を探す。

「金の亡者」

 先輩の口から出た言葉は完全に悪口にしか聞こえなかった。

「ああ、うん、まさしくそれだ」

「え、先生まで……。フォローして下さいよ」

「だって、そうだもん」

「幼馴染にこう言われてるんだから、さねちーが悪いよ」

「いや、ほら、もっと他にありますって」

「いの一番に思い付くのはお金でしょ」

「だよね。じゃあ、吉野から見た秋人ってどんなんだよ?」

「えっと、頭が良くて……、ツッコミ役で……、ゲ……」

 ああ、これは言わない方がいいな。

「ゲロまみれ」

 何で言っちゃうんだ、この人は。

「何があったんすか⁉」

「お酒飲んでよく吐くんだよ」

「後処理いつもご苦労様」

「そうだよ、春ちゃんは途中で寝ちゃうから。結局、僕が片付けないといけないの」

「へえ、雪兎先輩ってお酒強いんすか?」

「ロシアで吹っ掛けられても返り討ちにできるくらいには」

「すげー、ロシアのお酒ってやっぱりウォッカすか?」

「だねぇ。あの時は激戦だったなぁ。でも最後は肩組み合って何か歌ったよ。いや、相手何言ってるか全然分かんなかったけど」

 その後も、真葛さんの話題や先輩の旅話は尽きず、会話は俺と結弦が寮に戻る夕食間際まで続いたのであった。

 

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