第2話 僕の家族

倉坂くらさかみなとさんですね? ご同行を」

 警察の人がやってきた。

「ちょっと待ってくださいね。父と兄に尋ねます」

 警官は酷い悪臭に鼻をつまむ。

 腐った肉や魚、野菜がそこかしこに散らばる。

「お父さん。起きて」

 食卓までに入ってきた警官はそこで驚く。

 白骨死体が一つある。

「お父さん。警察の人が来ているよ?」

 白骨死体に話かけている少年。

「あー。今行くって? ん。分かった」

 警官に振り向くと湊は警官に向けて口を開く。

「今から行くって言っています」

「え。いや、君……」

「それで用ってなんですか? 警官さん」

「ああ。君が一人で生きているという話があってだね……」

 警官は苦々しい顔で応じる。

「大丈夫です。父も兄もいますから」

「兄!? じゃあ、連れてきてもらえるかな?」

「はーい!」

 湊は嬉しそうに二階へかけあがる。

 不信に思った警官は後をついていく。

 そこには確かに兄がいた。いたのだが……。

「あ、ああ……あ」

 もうしゃべることすらできない状況だ。

 手足に打撲の跡がある。

「ほら。起きて」

 そう言って湊は足を思いっきり踏みつける。

「あ。ああ」

 兄は立ち上がり、食卓に向かう。

「あ。警官さん。わざわざ来て頂いたのですね」

「そ、そうだ……。分かった。君を現行犯で逮捕する」

「え? なんで?」

 湊は訳が分からないと言った顔で困惑する。

 僕は警官に連れられ、自宅を後にする。

「今日の夕飯には帰れますか?」

 湊は暗い気持ちで、警官に尋ねる。

「いや」

「そうしないと父と兄は料理できないので」

 困ったように呟く湊。

「大丈夫だよ。食事を用意してくれるよう、手配していたから」

「それって! お母さんのこと!?」

「え。いや……」

 嬉しそうにニコッと笑う湊。

 母はずいぶん前に離婚しており、遠くに住んでいるという。

「まあ、そうです」

 警官は当たり障りのない会話をしなくてはいけなかった。

「お母さんが来るなら安心だぁ」

 湊はもう狂っていた。

 警官はそのことが悲しい。

 それでも彼から事情聴取を行う。

 だが、答えはちぐはぐでまっとうなやりとりはできない。

 だいたいは「父や兄に聞いてください」と返ってくる。

 こうなる前に動けなかったのか。

 警官はショックを受けて、涙ながらに彼の話を聞く。

 兄は病院に連れていかれて、薬物中毒ということらしい。もう戻ることはないそうだ。

 この湊少年が正常に戻ったところで、どこに居場所があるというのだろう。


 警官もまた、悲しみにくれた。

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