第4話 悠斗と結婚

 僕が仕事を始めて、一年が過ぎた。

 僕は三十一。亜海は二十九。

 友達の縁で出会えた。

 同じ動物好きで話が合ったのだ。

 僕はパンケーキリクガメが好きで、亜海はハシビロコウが好きだ。

 そんな僕たちは結婚を控えている。

 やっとの思いで伝えた言葉。

『結婚しよう』

『ようやく?』

 渋面を浮かべる亜海だったが、断るはずもない。

『大丈夫よ。結婚するわ』

 僕の不安そうな顔を見て笑みを浮かべる亜海。

 そんなやりとりをして、僕たちはお役所に結婚届を出した。

 来週には家族だけで結婚式を行う。

 小さな結婚式だ。

 それでちょっと気持ちが揺れているのか、僕は仕事で失敗ばかりしている。

 亜海は変わらず真面目に働いているし、すごいと思う。

 頑張っている彼女を見たから、僕も頑張れた。

 暖かな気持ちで結婚を言い出せた。

 亜海はすごいと思う。ここまでよく耐えてくれた。

「どうしたの? 面白いことでもあった?」

「いや、亜海はすごい人だな、って。よく耐えてくれたなーと思って」

「本当言うと何度も離れようと思ったのよ。でも、そのたびにその悲しそうな顔が浮かんで見えて。根負けね」

 僕が悲しそうな顔をしていたのもバレていたらしい。

 ちょっとは顔に出なよう気をつけないと。

「ふふ。でも私も悠斗の頑張っているところ、見てきたから」

「そうかな。僕は甘えてばかりいたよ」

「それでも。一度辞めるとなかなか復帰できないものよ」

 亜海のフォローが今は嬉しい。

「うん。うん。頑張って良かった」

 僕はぽろぽろと涙を流しながら言う。

「どうして泣くの?」

「うん。だって怖くて、辛くて。でも幸せで」

「そっか。不安だったものね。でも大丈夫。もう大丈夫だから」

 塩味が強いハンバーグだった。

 食事を終えると、僕と亜海はゆったりとソファに腰をかける。

「今日は椎太しいたくんが頑張って六十点とったのよ。今まで赤点だったのに」

 生徒の成長をしっかりと見守ることのできる教育者として進歩した亜海である。

「僕も、仕事頑張っているからって、給料上げてくれるみたい」

「良かった。でもあんまり頑張りすぎないでね」

 亜海は微笑みを零し、僕に寄りかかる。

 お酒とおつまみを広げて一緒にドラマを見る。

 これがどれだけ幸福なことか。

 隣を見やると、亜海はにこりと笑う。

「ん。ありがと」

 僕はなんとなく感謝したくなった。

「こちらこそ、ありがとう」

 ペコリと会釈する亜海。

 慌てて僕も頭を下げる。

 なんだか気恥ずかしくなり、ワインに口をつける。

「結婚、したんだよね……」

「やっぱり? なんだか実感ないよね」

 結婚届は出したというのに。

 やっぱり節目を祝う結婚式は大事だなと思った。

 家族のみんなが支えてくれたから今でも亜海は隣にいる。

 僕は間違っていなかったのだ。

 良かった。

 これでみんな幸せになれる。

 笑みを零して僕は亜海を抱きしめる。

「どうしたの。甘えてくるなんて」

「ちょっとだけ」

「ちょっとだけなの?」

「うん。ちょっとだけ」

「ふふ。いいよ」

 甘えを許してくる彼女がやっぱり好きだ。

 不安は、もうない。

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純粋すぎる男は嫌われるか? 沼れるか!? 夕日ゆうや @PT03wing

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