第3話 悠斗と仕事

 二年後。

 僕はなんとか就職できた。

 地元の小さなスーパーでバイトを始めた。

 でもまだ結婚はしていない。

「いらっしゃいませー」

 お客さんを見かけて声をかける。これには万引き防止の意味合いもあるらしい。

 心理的な効果があると聞き、なるほどな、と納得したものだ。

 自分の性格上、嘘はつけないので、スーパーは結構合っているかもしれない。

「このチラシの卵パックとお値段が違うのだけど?」

 お客さんがそう訊ねてくる。

「すみません。それはタイムセールでもう締めてしまいました」

 僕はチラシの小さい文字を指さす。

「あらホント、でも文字を大きくしてほしいわ」

「すみません……」

 心苦しいけど、お客さんには理解してもらいたい。

「あら。困らせてしまったわね。ごめんさないね」

「い、いえ。こちらこそ申し訳ないです」

 といったように僕がスーパーの店員になるのは性に合っている気がする。

 バイトという責任が必要ない立場も合っている。

 前の職場ではプレッシャーに負けてしまった。

 だから働くのが怖くなっていったし、亜海が甘やかしてくれたから、半分引きこもりになっていた。

 でもこれからはゆっくりと進んで行きたいと思う。

 早めに家に帰ると、夕食を作る。

 同棲している亜海とはあまり顔を合わせなくなった。二人とも仕事で忙しいからだ。

 夜八時になり亜海が帰宅する。

「ごめんね。遅くなっちゃった」

「うん。大丈夫。一緒に食べよ?」

「そうね。少し仕事を、と思ったけど……」

 学校の先生をやっている亜海。

 しっかり者で、甘やかしてくれる人。

 でも僕は自立したい。甘やかされずに生きていきたい。

「あまり根を詰めると倒れるよ?」

「うん。そうね」

 亜海は荷物を降ろし、着替えている。

 その間に僕は料理を暖め直し、食卓に並べる。

 今日はハンバーグにサラダ、温野菜、白米、味噌汁だ。

「先に食べてて」

 そう言う亜海だが、僕は亜海の着替えを待つ。

 着替え終わったのか、亜海はこちらに向かってくる。

「先に食べててと言ったのに」

「一緒に食べたい。いいでしょ?」

「まあ、うん……」

 ちょっと申し訳なさそうにする亜海。

 二人で食事を始める。

「なんだか、結婚したいと思っていた頃が懐かしいわ」

「ん」

 でもいつかはちゃんとしないといけない話だろう。

 僕は少し考える。

 結婚しても、今とあまり変わりないのかな。

 亜海の両親も、僕の両親もいつになったら結婚するんだ、と言ってくる。

 でも今は亜海が仕事で忙しい。

 教師というのは大変なのだ。

 学校で仕事もするが、宿題や試験の準備をしたり、するし。それ以外にも部活もある。

 だから僕とのすれ違いも増えてきた。

 でも今更やめられる関係でもない。

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