第40話 縁結びの炎①

 林間学習二日目は特にこれといった問題も起こらず順調に過ぎていった。


 昼は飯盒炊爨はんごうすいさん、そのあとは校舎の傍を流れる川で遊ぶ。一つ問題があったとすれば、真紀が川で足を滑らせて転び、体操服がびしょ濡れになったことくらい。


 濡れた体操服は真紀のボディーラインを浮き彫りにし、そのたわわな実りを前に、奏斗と駿は目のやり場に困ってしまっていた。


 そして、時間はどんどん過ぎていき、気付けばもう日が沈んでいた。


 街から離れた場所で周りには山しかない。そのため夜空を仰げば普段見ることの出来ない沢山の星屑が瞬いている。


 そんな景色の下――校舎の前にある広場で、一つ大きな炎が灯っていた。キャンプファイアーだ。


 組まれた木の中で真っ赤に燃えるその炎が、パキパキと薪を弾けさせる音を奏でる。そして、その周りには「近付きすぎるなよ~」と注意する教師と、はしゃぐ生徒らの姿。まばらに男女二人組の姿も窺える。


 そんな中に、奏斗の姿もあった。


 このキャンプファイアーの前で詩葉に告白すると決めていた奏斗。そして、そんな奏斗の隣には一つの人影がやって来た。


「一体どこにいるのかと思ったら……こんなところにいたのね、奏斗」


「あ、茜……?」


 キャンプファイアーの炎にも負けない烈火の色を灯した長い髪がなびく。チラリと向ける紫炎色の瞳の奥には何やら光が灯って揺らめいており、どことなく女性的な色香を放っていた。


 腕を組んで隣に立つ茜に、奏斗も思わず視線を釘付けにされる。


「知ってる? この林間学習二日目の夜のキャンプファイアーの噂」


「え、あぁ……この炎を二人きりで眺めた男女は結ばれるっていうやつか?」


「そ」


 茜はコクリと頷いた。そして、視線をキャンプファイアーへと投じながら、静かに呟いた。


 それはまさに本職を思わせるような、唐突の一撃。


「……好きよ。奏斗」


「…………えっ?」


 一瞬その言葉の意味を理解するのに時間を要したあと、奏斗が驚きの視線を隣に向ける。すると、冷静を装いながらも頬を朱に染めた茜の横顔があった。


「な、何よ……」


「いや、え……? な、何って……」


 奏斗は詩葉のハッピーエンド計画を進めていたときに、確かに茜のルートを踏んだ。駿が間違って詩葉以外のルートに入らないようにするためだ。


 しかし、踏んだだけであってシナリオはほとんど進めていなかった。ゲームで言うならまだ好感度は充分に上がっていない状態のはず。

 加えて奏斗はもうこの世界とゲームを同一視するのをやめた。ゆえに、シナリオが進むはずがないのだ。


 それでもこうして茜が好意を示してきたのは、やはりゲームシナリオなどではなく、シナリオにすら描かれない些細な日常の積み重ねと交流によって得た好感なのだろう。


(けど、まさか茜が俺のことを好き……だとは……マジか……!?)


「信じられないとでも言いたげな顔ね」


「いや、えっと……まぁ、うん……」


「はぁ~、何でもお見通しみたいな雰囲気して、こういうことには本当に鈍いわね」


 茜が半目を向けてくる。しかし、すぐにキャンプファイアーへと視線を戻すと、どこかスッキリしたような表情を浮かべて「うぅ~」と両手を持ち上げて大きく伸びをした。


「ふぅ~、でもこれで気持ちは伝えられたわね。やっと肩の荷が降りたというか……」


「え? え?」


「何よ。『付き合って』なんて言わないわよ。だって貴方は私の気持ちには応えられない……詩葉ちゃんが好きだから。違う?」


 奏斗は口をつぐんだ。その沈黙が、肯定の意味を表していることは明らかだった。


「でも、私はそれで良いの」


「茜……?」


「私は貴方のことが好き。そのことに変わりはない。でも、同時に私は貴方のことをいろんな面でライバルだと思ってる。そして、貴方と並んで支え合える存在になりたいとも思ってる……もちろん恋人とは違う意味でね? こういうのって、相棒って言うのかしら」


 茜は、昨日のオリエンテーリングで崖から落下する詩葉を奏斗と共に助けた瞬間に確信していたのだ。


 阿吽の呼吸。以心伝心。

 そこに言葉はなくても、奏斗となら何でも出来る――そんな予感。


 異性として好きであると同時に、一人間として最高の相棒になりたい。互いに競って、高め合って、ときには助け合う。


(恋人は諦める。だから、相棒の座くらいは貰って良いよね……詩葉ちゃん……)


 ふっと優しく笑った茜が、奏斗の背中をバシッと叩いた。


「痛った!」


「ほら、さっさと詩葉ちゃんのところに行って来なさいよっ! 何も言えず終いになって私をがっかりさせるんじゃないわよ、相棒」


 奏斗は少しの間呆然としていたが、すぐに茜に笑顔を返した。


「……ああ! 行ってくる……相棒!」


 奏斗は走り出した。茜はどんどん遠くなってく奏斗の背中を見送るようにしばらく見詰め――ゆらっ、と視界が歪んだ。


「っ……」


 ポタリと地面に大粒の雫が落ちる。それは、茜の目から溢れ落ちた涙に他ならなかった。

 一度溢れた涙は止まることを知らず、奏斗の前で見せていた強がりも一気に出来なくなる。


 肩が震える。今にも手を伸ばして、「行かないで!」と叫びたくなる。


 でも、ギュッと拳を握って堪える。


「あ~かねっ!」


「……ま、真紀?」


 いつも通り明るくやって来た真紀が、唐突に茜を抱き抱えた。その両腕に、小刻みに震える茜の肩がすっぽりと収まる。


「……頑張ったね、茜」


「~~っ!?」


 とびきりの優しい声。子供をあやすような、感情の我慢が効かなくなるような甘い声。


 茜の涙腺が一気に崩壊した。身体の奥底に押し止めていた気持ちが溢れ出す。


「本当はっ……本当は諦めたくなんかなかった……!! 付き合いたかった、恋人に

なりたかったよぉ……!!」


「茜は頑張ったよ」


「うぅ……!!」


 キャンプファイアーが縁結びの光を放つなら、それが生み出す影は失恋の痛み。


 このあと、茜はしばらく真紀に慰められていた――――













【作者からメッセージ】


 こうして後書きを書くのは久し振りですね!


 お知らせが二つあります!


 まず一つ目は、このギャルゲー転生が小説家になろうの方でネット小説大賞イラストプレゼント企画に当選し、本作品メインヒロインである姫川詩葉のイラストをプロのイラストレーター様に描いていただきました!


 投稿サイトの関係でこちらの方にイラストを載せるのは控えさせていただきますが、ボクのTwitterから確認することが出来ると思いますので、気になった方は是非見てやってください!


 そしてもう一つのお知らせは、新作ラブコメ『恋愛感情がわからないボクっ娘幼馴染の君に『好きだ』と言ってフラれ続けてきた俺が、ある日美少女後輩に告白されました⁉~出来上がった三角関係で俺はどちらを選べば良いんだッ⁉~』を投稿しております!


 三角関係モノで、面白く書けていると思いますので、是非そちらの方もよろしくお願いします!!


 ではっ!

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