第27話 ゲームとの差異
途中、日暮姉妹と合流してから奏斗と詩葉は学園に登校してきた。中等部である紅葉は玄関が違うため別れ、残りの三人は後頭部の校舎の玄関に入る。
「じゃあ先輩、俺らこっちなんで」
奏斗は桜花にそう一言言って、一年次の下駄箱がある方へと身体の向きを変える。しかし、キュッと制服の裾を引かれたので、足を止めて振り返った。
「せ、先輩?」
「後輩君、放課後少しだけ付き合うてくれへん?」
「別に良いですけど……」
一体何の用事だろうかと奏斗は首を傾げるが、桜花は約束だけ取り付けると「ほな、またあとで」と軽く右手を振って自分の下駄箱へ向かっていった。
(特に先輩に呼び出されるようなシナリオはないよな……? んまぁ、先輩に限ってはもう俺の正体もバレてるし、シナリオもクソもないんだけど……)
「カナ君、早くぅ~!」
「あ、ごめんごめん」
すでに靴を履き替えていた詩葉に呼ばれて、奏斗も慌てて履き替える。そして、奏斗は一組教室へ、詩葉は一度二組の教室に自分の荷物を置いて来てから一組へやって来る。そのときには既に登校してきていた茜と駿も奏斗の席を囲うように集まっていた。
「様子を見る限り……やっと仲直り出来たってことで良いのかしら?」
奏斗と詩葉が普段通り話しているのを見て、茜が少し呆れたような半目を奏斗に向けながらそう尋ねる。奏斗はぎこちない笑みを浮かべて後ろ頭を撫でる。
「えっと、その節はご心配をおかけしました。あはは……」
「ホントよ。詩葉ちゃんったら『最近カナ君が全然構ってくれないよぉ……』っていっつも泣きそうな顔してたんだから」
「ちょっ、茜ちゃん!? 私そんなこと言って――」
すぐさま茜の発言を否定しに掛かろうとする詩葉だったが、茜に同調するように今度は駿がため息混じりに口を開いた。
「綾川さんのソレはまだマシな方だよ。僕なんて延々と『カナ君は悪くないの。構ってくれないのも全然見てくれないのも全部私に魅力がないのが悪いんだ』とかってブツブツと自虐的な呟きを聞かされ続けたんだから……」
「神代君までぇ……!!」
奏斗に知られたくない話を二人に暴露され、詩葉は両手で真っ赤に染まった顔を覆う。そのあとも次々に茜と駿が、ここ数日の詩葉の様子について語り始め出したので、これ以上は詩葉が羞恥死すると思った奏斗が無理矢理話題を変える。
「――あ~、そう言えば。もう中間テスト直前だけど、勉強は大丈夫そうなのか?」
「ギクッ……」
「いや、自分の口から『ギクッ』とか言う奴いないから……」
詩葉の両肩が一度跳ねて動揺を見せたので、奏斗が目を半開きにして視線を注いでいると、詩葉が手の指を絡めながら細々と答える。
「ぜ、全然大丈夫だよ? テスト範囲(?)もそんなに広くないし、心配いらないよぉ~」
そんな詩葉の返答に、茜と駿が苦笑い。その二人の反応を確認してから、奏斗が再び「で、本当は?」と尋ねる。すると、しばらく視線をあちこちへ泳がせていた詩葉が、ついに観念して床に膝を付く。そして、奏斗の机の上に顔の上半分だけを覗かせた。
「……か、カナ君。また勉強教えてぇ……」
「やっぱりか……」
奏斗は手で額を押さえた。しかし、詩葉ばかりに呆れてもいられなかった。
茜や駿が詩葉の学力について知っていそうなリアクションをしていたことから、恐らく三人でテスト勉強をしたのだろう。しかし、勉強するにしても奏斗との仲がギクシャクしている状態では集中なんて出来ないだろう。何より、奏斗は詩葉があまり勉強が得意ではないと知っておきながら、日暮姉妹の仲を取り戻すことだけに集中しすぎていて、詩葉を気に掛けてあげられなかった。
(俺のせいでもあるんだよなぁ……)
よしっ、と奏斗が机の上に顔半分を見せる詩葉の頭の上に右手をポンと乗せた。
「土日を挟んだらもうテストだ。早速今日から勉強会やるぞ!」
「ほ、本当っ!? やった!」
詩葉が表情を綻ばせる。ここ数日見ることが出来ないでいたそんな詩葉の笑顔に、奏斗は胸にグッとくるものを感じた。
これこそが自分が守りたいものなのだ。いつでもそうやって笑っていて欲しい。詩葉の幸せを実現するために、奏斗はハッピーエンド計画の下動いてきた。しかし、ここ最近心の奥底で迷いが生まれていることも事実だった。
(俺の計画は……本当に詩葉を幸せにしてやれるのかな……?)
主人公は駿で、ヒロインは詩葉。ならば詩葉にとっての幸せとは駿とハッピーエンドを迎えること。GGでは間違いなくそうだ。しかし、前世で画面越しに見ていた詩葉と、今こうして目の前で見ている詩葉がピタリと一致しない。ここはGGの世界で、目の前の少女は奏斗が一番よく知っている詩葉であるはずなのに――――
「――って、聞いてるの奏斗?」
「えっ、何?」
考えに耽っていた奏斗が顔を上げると、茜の顔がそこにあった。
「だから、私も勉強会に参加するって言ってるの。勉強出来る人が多い方が良いでしょ?」
「あぁ、そうだな。んじゃ、俺と詩葉と茜……って、男女比おかしくない!? な、なぁ、駿も参加してくれるよな? な?」
奏斗がすがるような視線を駿に向けると、駿は曖昧な笑みを浮かべて顔の前で両手を合わせた。
「ごめんよ奏斗。僕今日はちょっと別の友達と用事がって……」
「なっ……んてことだ……」
ハハハ、と乾いた笑いを溢しながら教室の天井を仰ぎ見る奏斗。そんな奏斗に、茜が首を傾げた。
「それで、どこで勉強するわけ?」
「カナ君の家で良いんじゃないかなぁ?」
奏斗もその詩葉の提案に異論はなく、茜も「わかったわ」と頷いていた。
「あ、でも俺放課後ちょっと寄るとこあるから、二人で先に俺んち行っててくれ。鍵渡しとくからさ」
そう言いながら、奏斗は家の鍵を取り出そうと自分のカバンに手を伸ばす。が、
「――あ、いいよカナ君」
「ん?」
微笑みながらが詩葉が制服のポケットからキーホルダーの付いた何かを取り出し、紐に指を掛けて皆に見えるように吊り下げた。
「私、カナ君ちの鍵持ってるからっ!」
「「「…………え?」」」
長い沈黙のあとに、詩葉以外の三人が戸惑う声が重なった。視線は詩葉の指から吊り下げられている鍵に集中している。奏斗の家の合鍵だ。
このときばかりは、奏斗の目に詩葉の可愛らしい笑顔が恐怖の対象として映っていた…………
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