第62話 姫様のご様子:ディンス視点

 姫様はユイシャ様に頼まれ傷を治して差し上げたご様子。

 勉強以外の場でこのようなことはほとんどされていませんでしたが、しっかりと慣れない環境でも本来の力を発揮できているようで安心しました。


 今は姫様の実力を見たルカラ様が何やら情報を整理しておられるようです。

 集まってきていた方々も仕事に戻り、ルカラ様のお仲間の方々は各々が思うように訓練を積んでいるご様子。


 姫様もユイシャ様が去ってから、自由時間になったのですが、今も姫様は恋する乙女のようにルカラ様を見ていらっしゃいます。

 これまで得意の魅了で人を虜にし、多くの方を思うがままにしてきた姫様が、まるで魅了されているかのようなご様子。


「姫様。お疲れではないですか?」

「…………何かしら? ディンス。今必要なこと?」

「いえ、なんでもありません」

「そう……」


 私が声をかけても気づかないほどルカラ様にご執心なご様子。どこかふわふわとした心ここにあらずといった印象を受けます。

 これは、城を出る準備をなさっていた時、あのご乱心したような様子も、おそらくルカラ様の住む屋敷へと向かう嬉しさと恥ずかしさからだったのでしょう。


 今の姫様のご様子を見ていると、国王陛下がこうして外に出すのも納得の関係、いえ、納得の実力ですね。関係はこれから姫様が取り組んでゆかれることです。


 とうのルカラ様は、今も邪神に対してどのように立ち回るのか考えておられるようです。

 ルカラ様はただ腕っぷしが強いだけでなく、頭の回転の速さ、そして、適切な行動を取れるどうかということに関わってくる視野の広さも群を抜いているように感じます。

 今もきっと、私には想像もつかない次元のことを考えていらっしゃるのでしょう。


「ああ、ルカラ様……」


 姫様がうわごとを言うなんて……。相当入れ込んでいるのでしょう。


 私はルカラ様の実力を、先ほどの姫様の実力を確かめている時と、城での一件でしか見ていませんが、直に王直属の兵を見たことのある私から見ても遜色のない、むしろ、上回っているようにさえ感じました。

 このような実力があれば、優秀な人間に囲まれた姫様でも一目置かないわけにはいかないのでしょう。


 今まで、同年代で姫様を上回る方などいらっしゃらなかったため、私も勝手にそのような方は存在しないと思っていましたが、世界は広いものですね。

 ルカラ様だけでなく、仲間の方も姫様に負けず劣らずの実力を持っているようですし。


「プレンズ! ちょっと来てくれ」

「は、はい! 何なりとお申し付けください」


 ルカラ様に呼ばれただけで嬉しそうに向かってしまわれた姫様。

 呼び捨てという本来ならあり得ないことを命じるほど、ルカラ様に対し心を許しておられるのも、今までなら考えられませんでした。

 初めは勉強が嫌で、城を出るための都合のいい言い訳のつもりだったのでしょうが、本心から力になりたいといったご様子です。


「はあっ」


 思い出すだけで私の方まで顔が熱くなってしまいます。

 ルカラ様が姫様の実力を確かめるために構えたその初めのこと。

 姫様が剣を捨ててルカラ様の胸に飛びついた光景。

 この屋敷の使用人全てにも自分の気持ちを言葉ではなく姿勢で示すほどの熱意。

 赤くなりながら、慣れないことに少し苦戦しつつもルカラ様へ愛情を向けられていらっしゃる。


「……姫様……」


 ただ、人に素直になれなかったあの姫様がここまで変わるとは……本当にありがたい方です。あの姫様が私を誰よりも頼りになると言うほどですもの。


 おそらく察することしかできませんが、邪神の呪いというのは相当に苦しく、相当に怖く恐ろしかったのでしょう。

 あの時の姫様ほど、弱った姫様のことを私は見たことがありませんでした。

 そこから助けてくださり、魔王も倒した英雄を納得の相手と言わずしてなんと言えばよいのでしょう?


「おや……?」


 何やら先ほどから雲行きが怪しいようですね。

 何やらルミリアさん、デレアーデさんの様子が気になるようですが、何もないといいのですが……。




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