第60話 姫様が来た

 姫様が謎の宣言をし、国王がそれを認めたことで、祝宴は終了となった。

 元のシナリオとは展開が全く違うが、俺たちはデグリアス邸に帰ってきた。


「プレンズ・パハマと申します。不束者ですがどうぞよろしくお願いします」


 帰ってくるなり屋敷中は大騒ぎだった。

 それはそうだろう。国の姫様がはるばるやってきたのだ。こんなことになれば仕方のないことだろう。

 俺宛ての祝宴の案内が来た時のように珍しくドタバタと騒がしかった。


「こちらこそよろしくお願いしますね。プレンズ姫」


 冷静な人が誰もいないので、仕方なく俺が対応しておく。


 プレンズは連れてきたメイドさんと一緒に、広間に集まった屋敷中の人たちへの挨拶を済ませた。


「ルカラ様、そう固くなさらないでください。ワタクシのことはあくまで一人の仲間として扱っていただければ結構ですから」

「いや、そういうわけにはいきません」

「どうかお願いします。地位を意識され、ルカラ様や皆様の足手纏いにはなりたくないのです」


 涙目になりながら訴えかけてくる姫様。

 確かに、ゲームとして遊ぶなら、好きかどうかや役に立つかどうかということで気にしたことはあれど、キャラクターの地位がどうこうということで扱いを変えるってことはなかった。

 だが、ここだとそれが命取りになりかねない。俺も一度危機的状況を経験しているしな。

 せっかく姫様の方から言ってくれてるのだしな。


「わかった。プレンズ、俺はお前を一人の仲間として扱う。それでいいな?」

「は、はい! ありがとうございます!」

「……よかったですね。姫様」


 自分で決めたがり、能力で人に言うことを聞かせるけれど、呪いで苦しんだことで丸くなる。

 そういう展開だったが、苦しむ期間が短かったのに丸くなりすぎじゃないか? 俺に対しても敬語な気がするし。

 それに、仲良くできるかと心配だったユイシャたちとも仲良さそうにしているし、人って変わるんだな。何だかとても喜んでいるように見えし。


 こうなったらもう、邪神討伐は止められないか。

 しかし、プレンズも来ると言うのなら、確認しておかないといけないことがある。


「プレンズ。お前は今、何ができる?」


 そう、とても重要なこと。

 王様はプレンズを送り出してきたが、戦力として、このプレンズが役に立つかどうか。これは重要だ。

 ゲームであれば、邪神を倒し、解放されてからともに旅をする仲間になる。そのためとても頼りになるが、ここでは時間軸が違う。

 それこそ、プレンズが足手纏いにならず連れて行けるレベルかどうかという重要な確認事項だ。


「ワタクシは一通り仕込まれてます。戦闘でも支援でも、ルカラ様のお力になれると思います」

「じゃあ、まずは戦闘面を見せてもらってもいいか?」

「もちろんです!」




 プレンズに戦闘の準備をしてもらい俺たちは外に出た。

 どうやら今の時点でも剣が扱えるらしく、持ってきたものから一本の剣を帯びている。

 剣を振るだけの力はあるようだ。


 さて、プレンズと言えば、邪神を倒した後で仲間になるため、初期ステータスも申し分ないのだが、目の前の本人はどうかな。


「どうすればよろしいですか?」

「そうだな。俺にやれるだけやってくれ。俺に一発剣を当てるか、実力が把握できたと思ったら終わらせる。さ、どこからでも来ていいぞ」


 興味があるのか、屋敷中の使用人たちまでもが見物に来ている。

 もちろん、アカリたちもだ。


「いきます! え、えいっ。きゃっ」


 何をふざけているのか、誰もいないところに剣を放り投げて俺に寄りかかってきた。

 どこからでも来ていいと言ったが、そうじゃない。それに、剣で一撃って言ってあったはずだが。


 一応確認してみたが、短剣の類も見当たらない。


 集まっていた見物人たちがざわざわとし出した。

 もしかしたら緊張していたのかもしれないな。だが、いつまでぴっとりとくっついているつもりだろう。


「……ルカラ様の心臓の音が聞こえます……って、わ、ワタクシは一体なんてことを。す、すみません。もう一度お願いします」


 顔を真っ赤にして剣を回収にし行ったプレンズ。

 マジで知らない人だな。


「実力がないなら後方支援でもいいんだからな?」

「い、いえ。本当にそうではないのです」


 一つ息を吐くと、一瞬でプレンズは真剣な表情に変わった。

 もしかすると今のはプレンズなりの人心掌握術だったのかもしれない。

 やたら近かったしな。今ではなく普段ならきっと動揺しただろう。


「いきます!」


 今度は真剣な表情でプレンズは動き出した。

 動きは速い。


「やあ!」


 剣筋も悪くない。さっきのお遊びが嘘のように、まるで別人というレベルで俺を追い詰めにくる。

 自前の装備で使い慣れている様子。

 さっきのはやはり何かの作戦。もうすでに戦闘は始まっていたということだったみたいだ。


 しかし、この世界の貴族はやはり強い。それこそ、お前らが魔王を倒せという感覚なのだが、プレンズもやはりそんな人物の中でしっかり成長していたようだ。


「あ、当たりません……!」

「もっと当てるつもりでやっていいぞ」


 剣術の方にも自信があったらしく。俺に術が効いていないこともあり、全く攻撃が当たらないことで少しムキになっているように見える。

 これまでアカリに教えてきた時のようにギリギリでかわしているが、初めてアカリと相対した時よりも強い。

 

 そして、高い集中力。


 上達の伸びもピカイチ。俺の動きを読み、一つ前の動きを瞬時に修正してくる。

 今はこのくらいで十分か。


「あ……!」


 俺は剣を弾き上げた。

 またしても誰もいないところに剣が突き刺さる。


「プレンズに心配は必要なかったみたいだな」

「当たり前です。一通りの護身術は身につけておかなくては、自分の身すら守れない。そんな者に、他人を守ることなどできない。お父様の言葉です」

「その通りだな」


 まあ、こんな姫様だ。きっと誰も襲わないけどな。


 さて、魔王を倒すのに十分な実力だとわかった。

 しかし、本当に確かめたいのは戦闘能力ではない。


 邪神がプレンズを封じたのは国の重要人物だからだけではないのだ。

 呪いをはじめとしたデバフへの対抗策。プレンズはその最強格。今度はそっちを見せてもらうか。






――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んでくださりありがとうございます!


新作を書きました。


「キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜」

https://kakuyomu.jp/works/16818093078003870075/episodes/16818093078434506059


よろしければ読んでみてください。


よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る