第47話 魔王
「よく来たな、人間ども。我こそがフェア・ツヴァイ・フルング。人呼んで絶望の魔王である」
玉座に座りグータラとした姿勢にも関わらず、今の一言で場の空気が凍りついた。ただ名乗っただけなのに肌がピリピリする。
さすがは魔王。ゲーム画面越しに見るのとは迫力が桁違いだ。
先ほどの通路より広い室内。魔王の威厳と権力を象徴するためのタペストリーや肖像画、灯りにはシャンデリア。魔王の間にふさわしい豪華な装飾。
そして、ただ一人名乗った魔王フェア・ツヴァイ・フルング。
ここが魔王城最後の正念場。
「大丈夫か?」
隣のアカリは魔王の圧に圧倒されたのか、小刻みに震えている。
俺が肩に触れると集中のしすぎかびくりと大きく震えた。
「はい。大丈夫です。これはただの武者震いですから」
「あんまり気負いすぎるなよ」
「師匠はすごいですね。魔王を前にして普段のままでいられるなんて」
「まあな。師匠がビビってたら仕方ないだろう?」
「本当にお強い」
俺が気楽に構えていられるのには、アカリが負けるとは思っていないということもある。
「なあ、ルカラ殿。魔王すらアカリたちに任せてよいのか?」
「そうだよ。力不足なんて言わないけど、みんないるのに」
「大丈夫ですよ。変なことしてこなければ負けないと思います。あかりは強いですから」
「それはわかっておる。ルカラ殿が言うなら大丈夫じゃろう」
「そうですね」
それに、最悪に備えて準備はしている。
「あれが魔王。にっくき人類の敵。世界の敵。いきます」
「アカリならやれる」
「はい!」
これは俺の本心だ。あかりはゲームの推奨レベルよりよほど強いはずだ。
不安要素はむしろ、俺が仲間ってことだ。が、それもここまで問題は起こっていない。ルミリアさんとデレアーデさんが加勢するのもシナリオ通りだしな。
それに、アカリが倒してくれた方が俺としても都合がいい。
ルカラは主人公じゃないのだから。
「いくよ。アカトカ。ここまで来たらなにも恐れることはない。私たちの全力をぶつけるだけ」
「グオオオオ!」
「「『ヘル・インフェルノ・ブレス』!」」
アカトカがドラゴンの時のように咆哮を上げると、同時、アカトカの見た目は一気にドラゴンのものに変わった。
さらに、地に低く構えたアカトカが今までになく体全体を赤く光らせる。
そして、アカトカの喉元に光が集まると一気に押し出され、アカトカの胴ほどもありそうな太さのブレスが魔王目がけて放たれた。
体力を一気に削るのに十分な威力がありそうだ。
アカトカの放ったブレスはこれまで傷つけられなかった床や、城壁すら溶かし蒸気が上がる。
煙が次第に収まると、状況が分かってくる。
「ふんっ。これが力を抑えていないとは本当か?」
魔王の声。煙が晴れると、そこにはブレスをものともしなかった様子の魔王が悠然と玉座に座っていた。
背後に続く城壁は溶け落ち、外の景色が見えているというのに。
「なんで……」
「ガ、ア……」
呆然と驚いた様子のアカリとアカトカ。
だが、その姿は一瞬にして消え、部屋全体が大きく揺れる。
「かはっ」
「グガァ」
アカリだけでなくアカトカまでが一瞬にして後方の壁に打ちつけられていた。
「なっ……!?」
予想外だ。
あれはおそらく任意の敵を魔法抵抗力すら無視して吹き飛ばすサイキネティック・ブラストだろう。
となると攻撃を防いだのは、どんな攻撃も一度だけ無効にすることができる。ワンス・パーフェクト・シールド。
どちらも体力が減って、主人公たちの実力を認めて初めて使ってくるスキルのはず。
まだ、一撃もくらわせていないタイミングで使われるなんて。
「どうした? なにがおかしい? 人とはいえ貴様らのような強者に手を抜いてやるとでも?」
「……くっ」
こいつ。慢心していないだと。
俺たちを強者とみなしているだと? グラデヴィンであるまいし。
どうして。
「そこなお前。力が集まり、ほとんど人の域を出ている者よ。一体どれだけのモンスターをたぶらかしている?」
「は?」
「ふっ。自覚していないか。だから勝てぬのだ。自ら出ていれば勝てたかも知れぬのに。手塩にかけて育てた弟子をみすみす殺すとはな」
そうだ、今の一撃。ゲームでの演出とは違う、突っ立ってる場合じゃない!
「アカリ!」
「クックック。あーっはっはっは。無様よな! 力を見誤り、死にゆく生き物は!」
そうか、こいつ。初めからこの世界では俺を狙っていたのか。
だから俺の近くに魔物が現れ、俺とアカリの関係も知っていて、俺とルミリアさんやデレアーデさんが契約していると把握している。
外に結界を張っていなかったのも初めから全力を出すため。
くそ。
これは魔王の言う通り、不必要にアカリを苦しめることになった。
容赦しない。
だが、その前に、
「ルカラ。ルカラ! アカリが、アカリがぁ!」
その前に、アカリをなんとかしなくては、アカリが死ぬ。
だが、こんな時のための手は用意してある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます