第48話 魔王戦
不敵に笑う魔王。
思えばこいつは、何故か初めから全力だった。
理由はわからないが、アカリ一人の手でなんとかなるはずの魔王ではなかった。
「アカリっ! しっかりしろ、アカリ!」
「……」
先ほどから呼吸が浅い。体力はギリギリ。ジェムの効果でなんとかなってる感じか。
だが、ゆっくり回復している時間も余裕もない。
「治療は後にするのじゃ。今は目の前の敵に集中じゃ。そうでないと全員死ぬぞ」
「わかってます」
「さすがは我が目をかけていた男だ。切り替えが早い。しかし、悪性に目をつけてやっていたが、善へと変わりおって。おかげで魔物たちに我の威厳を示すため、潰さなくてはいけなくなったが、よもやここまで来るとはな。わざわざこれ以上の使いを送る手間が省けた。だが、今、善のオーラは悪へと返り咲いた。それでこそだ。人の大いなる善を潰せば貴様は悪として完成する。そこの娘を殺せ!」
ということは、本来発生するはずのない魔物たちが襲来してきたのも、わざわざ俺を誘い出すため送ってきていたのだろう。
俺はアカリに渡したジェム。そのネックレスを引きちぎり、アカリの胸に突き立てた。
「見事!」
「おいっ! なにをしている。ルカラ。なあ、なにをしてるんだよ! まさか、本当に魔王の手先に寝返ったのか?」
人の姿に戻ったアカトカにどつかれるが、そんなの今は関係ない。
俺はジェムを握り潰して砕く。緑のジェムの破壊時効果。何より速い全回復。蘇生があるかわからない以上、このタイミングしかない。
今を逃すわけにはいかない。
「ふぅ。ふぅ」
「息。アカリがしっかり息をしてる! どうしてだ?」
「なっ」
「嘘っ!」
「話は後だ。アカトカ、アカリは任せた」
「あ、ああ。先程はすまなかった」
「いいんだよ」
同じ状況でなにも知らなかったら誰だってトドメを刺したと思うだろう。
「死にかけの女を生き返らせただとっ!」
アカリを助けようとしたが、魔王いわく、俺は悪に染まったらしい。
俺はルカラに入ってから今まで、数多く負けてきた。ツリーさん、ルミリアさん、デレアーデさんに俺は何度も負けてきた。
だが、本当に敗北したのは今のようだ。
主人公に負ける代わりに、俺は、ルカラは魔王に負けた。自分の育てた弟子を殺されかけ、今まで散々自分の周りを好き勝手されていたことへの怒り。
俺は今、魔王に対する怒りの炎で胸の内が煮えくり返っている。
「魔王、何か勘違いしていたようだが、俺がかわいいかわいい愛弟子を手にかけるはずがないだろ?」
「確かに悪へと転化したはず……どうしてだ」
アカリには本当に申し訳ないことをした。
自分の身を守るためとはいえ、世界のルールみたいなものを信じて、俺がただ生き残るため、不必要に傷つけた。
「どうして、どうしてか。面白いことを聞くな。俺たちはお前を倒しにきた。魔王、お前は俺が潰す。そのままの形が残って死ねると思うなよ? 魔物風情が」
「ふっ! それはこちらのセリフだ。イキがるな。出来損ないの人間風情が!」
魔王から放たれる数々の極大魔法。人間が操る火、水、風、雷、氷の五属性から、魔王独自の魔法まで。
様々な属性の魔法。俺はそれら全てを吸収する。
「なっ! どうしてだ。たかが人間如きに、なぜ我の魔法が効かぬ」
「ルミリアさん、デレアーデさん。力を貸してください」
「ルカラ殿」
「ルカラくん」
「大丈夫ですって。俺は俺です。それに、死ぬつもりはありません。ちゃんと無事に生き残りますから」
魔法による剣は準備できている。あとは二人の力だけ。
防御は張られているだろうが、一撃限り。まあ、そんなもの今更関係ないのだが。
二人のうなずきを見て俺は安心した。
「それと、これ。使わせてもらいますね」
「……わかったのじゃ」
せっかくのプレゼント。
ルミリアさんにできることなら持っていてほしかったが、今が使い時だ。
ジェムを握り、二人を背にし俺は息を吸う。
「『オーラ・エンチャント』! 『ジェム・バースト』!」
剣に二人の力が加わり、さらに手の中にある赤いジェムが勢いよく弾ける。
これにより、俺の力が一時的に大きく上昇する。
「どうした。一撃にかけなければ我には勝てないのか。そうだろうな。それならば我の勝ちだ。そもそも、この攻撃の中どう進む」
「どうって」
俺はただ散歩のように魔王目がけて真っ直ぐ進む。
魔法は吸収できる。
打たれれば打たれるほど、俺の力は増していく。どれがどんな魔法か認識する必要はない。無意識のうちに発動される壁が魔法を吸収する。
俺は魔王の前に立ち、ゆっくりと両腕を交差した。
「バカが、理解していないな。我の壁は」
「死ね」
ゴトリ、と重い音を立てて魔王の首が床に落ちた。血も流れることなくコロコロと転がる。
赤いジェムは破壊することで、相手に付与されている全ての効果を無効化して攻撃できる。
攻撃の無効化すら無効化する。
俺は攻撃を終え魔王に背中を向けた。
魔王の体は穴という穴から白い光と黒い光を同時に放ち爆裂四散した。
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