第41話 VS.アカトカ
アカトカは俺のなでなでをものともせず、俺を抱えたまま飛び続けた。
少し開けた場所まで移動すると、俺と本気の実戦がしたかったらしく、気づけば殴り合いの戦いに発展していた。
というか、不意打ちはずるいって。でも、強者は外さないからな。仕方ない。
「ちょっとアカトカ! 待って。こんなところまで移動してきて何するつもり? ごめんなさい師匠。こんなつもりじゃ」
「大丈夫だよ。これくらいの方がいいさ。だろ? アカトカ」
「グアア!」
それでこそってところか。ガッツあるな。
「ま、普通の人にやっちゃダメだけどな」
「グアッ!」
そこがわかってれば大丈夫だ。
「みんなは見ててくれこれはアカトカの望みだ」
ルミリアさんたちも俺の言葉で納得してくれたみたいだ。
追ってきてもらって悪いな。
さて、突然のことで驚いたが、対処するのはたやすい。
きっと俺と手合わせしてみたかったということだろう。いつもタロやジローにばかり相手させていたからな。
「おっと」
動きもしっかり見ていればかわせる。
「グオウ! グアア!」
「はっ!」
ブレスだって当たらなければ怖くない。
まあ、ブレスもブレイク・シールドなら吸収できるし、問題にならない。
が、今回は不意打ちなんてしてきたからな。少しは本気でやってやろうか。
アカトカはしっかり距離を取ってブレスで応戦している。
これで直接攻撃しか手段がなければ勝ち確だろうな。だが、そんな相手ばかりじゃない。俺もそうだ。
「『ダークネス・ボール』『ウォーター・ボール』『セイント・レーザー』」
複数の魔法を一つずつ使い、撃ち落とす。飛行能力は奪えて、ないな。ちょっと手加減しすぎたか。
だが、
「飛び上がらせるか!」
俺のセイクリッド・ソードによる打ち込みに怯んだアカトカは途端に動きが悪くなる。
まあ、この辺は、タロもジローも遠距離魔法は力不足だし、この際だ。叩き込んでやる。
「ブレスは強いが、それだけじゃダメってことだ。あくまでも一つの戦い方でしかないと覚えておけ」
「グオ」
「踏ん張りも重要だ。ただぶつかるだけが突進じゃない」
「グオッ!」
「さあ、もっと強くだ!」
「グオオオオ!」
「よし、いいぞ!」
「グオオ!」
言ったことをすぐに理解できる。ドラゴンってのは頭がいいらしいからな。
まあ、ほとんどの相手は突進に耐えられずに死ぬだろうけど、一応ね。魔王まで考えてってことで。
「動きは確実によくなってる。しっかり学んでるな。よくやった」
俺は今回の疲れを癒してもらうためにきのみを取り出しアカトカに与えた。
「なにっ!」
突然、アカトカの体が白く光り出した。
きのみには特別な効果はなかったはず、にも関わらず、アカトカは元からの巨体をさらに大きく、屋敷ほどもあろうかという姿へと変わった。
これ、知ってる。進化だ、進化。
「アカリ。すごいじゃないか!」
「アカトカ……」
まだ、何が起きたのかわかっていない様子でアカリはアカトカを見上げている。
「アカトカが明らかに成長したんだぞ? もっと喜んでいいんじゃないか?」
「そう、ですね。でも、これも師匠のおかげですよ! 本来、何十年もかかるものをこんなに早く」
「何を言う。俺の力よりもアカリとアカトカの努力の賜物だよ!」
「ありがとうございます!」
そもそも主人公であるアカリは、ゲームでも本来より相当早く進化させるんだぞ? いや、にしても今回は早いか……。実際、ゲーム開始前なのだし。
何にしてもただの若いレッドドラゴンがクリムゾンレッドドラゴンに進化するとは……。
名前が示す通り、赤みがかっていた鱗は、深紅の鱗へと変わり、背の高い大人程度だった体長は、明らかにデグリアス邸ほどのサイズまで大きくなっている。
「進化はいいけど、これは食事とか生活とかどうすんの?」
さすがに屋敷に入らないし、でもこんなの外に出しておけないし。
「ルミリアさん。何か対策知ってます?」
「それなら、心配ご無用だ」
「そうなんですか?」
「今のは余ではないぞ?」
「え?」
気づくとドラゴンの姿が消えていた。
代わりに、ドラゴンと同じ髪色長い髪をなびかせながら、長身の大人な女性が一人歩いてきていた。
「え、誰? アカリの知り合い?」
「アカトカだと思います」
「アカトカ!?」
アカリは平然と答えるが、うーん。どことなくドラゴンっぽさはあるけど、うーん。
アカリが言うのならそうなのだろうが、ルミリアさんたちのように人型に擬態できるようになったってことか。
ということは、アカトカお前、メスだったのか!
クッソレアやん。主人公が初期でもらえるドラゴンは、そのほっとんどがオスなんだぞ。
オスとメスで見た目が違う訳じゃないし、ステータスに差はないけど、いいなー!
いや、違うか。
「えーと。アカトカさんですか?」
俺がぼーっとしていると、アカトカは俺の手を取っていきなり頭に乗せた。
「え!?」
「この姿になってみると、みながしていることが悪いものではないと分かるな。今までは、何をしているのかよくわからなかったが、なるほど、悪くない」
「あ、アカトカ? 何してるの? 師匠に失礼でしょ? いや、アカトカ、だよね?」
「もちろんだよ。アカリ。私が今しているのはみなさんがしてたことだ」
「アカトカ……」
「ルカラにもお返しを。いつもありがとう」
「へっ!?」
「あ、アカトカ!」
いや、俺が撫でられてる。なぜ? でも、
「アカトカ、かっこいいな」
「ルカラ殿。どうして照れてるのじゃ?」
「て、照れてませんよ!」
「そうかー? 今のは照れた顔じゃろう」
「照れてませんって」
「ルミリアさんにも、いつもありがとうございます」
「な、何故じゃ!」
この日は、初めて人の姿になったアカトカにみんなが頭を撫でられた。
いや、ドラゴンも人の姿になれるって設定はあったけど、ゲームでは設定だけだったから忘れてたわ。
それにしても、アカトカ。大人っぽくてカッコよかったな。
いやいや、俺がこんなでどうする。逆だ。逆。
でも、カッコよかった。
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