第40話 リフレッシュしてもらおう

「ルカラ殿。本は読み終わったのか?」


 俺が本も持たずにみんなのいる場所へ行くと、不思議そうな視線が俺に集まってきた。

 それもそうだろう。ルミリアさんに聞かれた通り、俺はみんなに頼み込んでまで一人にしてもらい、本を読んでいたのだから。

 怪しまれているみたいじゃないし、大丈夫か。


「はい。読み終わりました。今日は本を読んで疲れたので少し息抜きをしようかと」

「ほ、本当か?」

「はい」


 目の前にいるルミリアさんは、もはや定位置とも言える俺の腕に抱きつこうと手をわきわきさせながら俺を見ている。


「もう大丈夫ですよ」

「そうか! ならば」


 その言葉を待っていたとばかりに、ルミリアさんは俺の腕に抱きついてきた。


「やっぱりここが落ち着くのじゃ〜。ふあっ!?」


 勢いに任せて俺が頭を撫でると、ルミリアさんは一度驚いたが、すぐにだらしなく表情を溶かした。


「気持ちよいのじゃ〜余も今日は色々とこなして疲れたのじゃ」

「そうなんですか? お疲れ様です」

「んふふ〜それにしても、今日はやけに余に甘くないか?」

「え、いや? 気のせいですよ。頑張ったんですよね?」

「そうじゃな。しかし、昨日のことを気にしておるのか? ならば、そんなに気にすることもないのじゃ」

「これは俺がやりたくてやってることですから」


 実際、対応改善を求められてのことではなく、俺の個人的な今後のためだし。


「たまにはルミリアさんだって羽を伸ばしてもいいんじゃないですか?」

「そうか? そうじゃな〜」


 気持ちよさそうにもたれかかってくるルミリアさん。なんだか眠たそうに見える。


「ずるーい! みんなにしてくれるのかと待ってたのに、ルカラくんってルミリアさんばかり甘やかすよね」

「わたしには最近してくれないのに……」

「私だってそんなにされたことないです!」

「わわん!」

「にゃにゃ!」


 ルミリアさんの頭を撫でていただけなのに、何故かみんなから抗議の声が、ってそうだ。みんなに見られていた。


 いや、あんまり堂々とやるのは恥ずかしいから少しずつやろうとしていたんだけど、ルミリアさんに対して長すぎたか。

 やっぱり、暗殺のようにもっと潜んで進めるべきだったか。


「ん? ルカラ殿? 手が止まっておるぞ?」

「あの、ルミリアさんはいつもより多めなので、この辺で……」

「ルカラどのぉ〜」


 いにもなく甘えるような声で抱きついてくる。上目遣い……!


「こ、こういうのは、と、時々やるからいいもので、少し待ってからのほうがいいものなんですよ? 多分……」


 俺、撫でられたことってちっちゃい時しかないからわかんないけど。


「焦らしっ!」

 何故かユイシャが食いついた。


「むぅ。わかったのじゃ」


 そう言ってルミリアさんはいつの間にか俺の前に列になっているみんなの最後尾に並んだ。

 いや、なぜ列になっている。

 そして、なぜ並ぶ。


「はい。今度はあたしの番!」

「えっと、デレアーデさんって撫でられたいんですか?」

「あ、あたしだって、たまには頑張ったねって言ってほしいよ? ルミリアさんのこと、羨ましいなって思ってたし……」

「なるほど」


 全然知らなかった。

 てっきり甘やかしたい方かと。もしくはイタズラ好きかと。

 でも、そうだな。なんか俺が服を渡してから、俺の知ってる魔獣の長とは性格が違う。

 最初全裸だったしな。色々あるんだろう。


「いつも頑張ってくれてありがとうございます」


 俺は、俺の背に合わせて屈んでくれるデレアーデさんの頭を撫でる。

 いや、まだ中学生くらいだからな。長身のデレアーデさんの頭は撫でられないのよ。

 これでいいのか?


「あー! ルカラくーん!」

「うおっ」


 いきなりギュッとハグされた。

 よかった、みたいだな?


「デレアーデ。終わりじゃ! 順番を譲るのじゃ。だらしないぞ」

「ルミリアさんはもっとやってましたよー。それに、もっとベタベタに甘えてましたよー?」

「余はそんなに長くないし、そんなに甘えておらん!」


 全員の視線がルミリアさんに集まった。


「な、なんじゃ? 事実じゃろう」


 全員が自覚してないのか……? って顔で見てる。

 まあ、獣使いとしての能力として、こういう触れ合いでリラックスさせるってのもスキルの中に入ってるはずだし、俺の能力が高いってことで!

 デレアーデさんに続きタロとジローも撫でまわし。


 そして、ユイシャ。


「焦らされてた……」


 なんだか待ってただけなのにやけに息が上がっている。


「ユイシャも?」

「罵られるのもいいけど、たまにはわたしもルカラのことぎゅってしたい」

「いいけど、そんなにいいものか?」

「いいもの!」


 食い気味で言われると、そうなんだろうと思う他ない。

 記憶を頼りにユイシャを待つが、慣れてるなルカラは。


 言葉通りギュッとしてくる。


「あんまり他の子ばかり見てると、わたししか見れなくしちゃうからね?」

「え?」

「なーんちゃって。わたしは一番ルカラと一緒にいるから、あんまりルカラを困らせないの!」


 後ろ手に組みながら、にっこり笑顔でさっさと離れた。

 いや、何度か困らされているんだが。


「ユイシャさんだけ、いい子ぶってる!」

「えーと。アカリも?」

「もちろんです。師匠は弟子のやる気を引き出すものです」


 まあ、人間との信頼も大事な場所だからな、不和の森は。


「これでいいか?」

「はい。やっぱり師匠の手って気持ちいいですね」

「そうか?」

「そうですよ。あ、アカトカもやってもらったら?」

「俺はいいけど」

「グオオウ!」

「うおっ!」


 いきなりタックル。

 かなりワイルド。


「すみません!」

「大丈夫大丈夫」


 これで、合ってるかわからないが、やってほしがってるならいいんだろう。

 それにしても、アカトカはまるで戦いたいみたいだな。

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