第42話 魔王攻略へ向けて
突発的にルミリアさんの頭を撫で、他のみんなの要望に応え、アカトカまで進化した。戦力は確実に集まり、魔王と戦うのに万全といってもいい状況。
おそらく不和の森を抜けることもできる。
だがしかし、この世に確実なんてものはない。ここまで俺が死なないために立ち回ってきただけに、わざわざ不和の森攻略を目指し、魔王討伐に打って出ることが策としていいのかどうか。
そもそも、不破の森は俺が攻略しなくてはいけない訳じゃない。が、このイレギュラーな状況を考えると潰せる時に潰しておいた方が安全なのは確か。
悩ましい。
「ルカラ殿。何を恐れているのじゃ?」
「ルミリアさん……俺は別に恐れてなんか。少し、考える時間が長くなっているだけです……」
なんだかんだとこの世界での付き合いが長くなっているルミリアさん。
人語を話せる相手としては過ごした時間が一番長い。ユイシャと違い、いつも屋敷にいるしな。
なんだかんだと俺の気持ちがバレているようだ。
「そうなのか? 別に恐れていることがないならよかった。しかし、外敵は余が打ち倒すぞ?」
「ありがとうございます。でも、これは俺が、いや、やるとしたら、俺もやらないといけないことなんです。だから、時間がほしくて」
「そうか。時間が足りないのじゃな? なら、余が用意しよう」
時間の用意って、分身して作業を手伝ってくれるとかか?
でも、俺にはそんなことで増やせる時間がある訳でもないし。
そんなことを考えていると、ルミリアさんは手を広げて微笑んできた。
「少し力を抜いてくれるか?」
「はい?」
ルミリアさんはそう言うと、俺にゆっくりと近づいてきた。
「え」
そして、身を引こうとする俺を抱き止められる。息が当たる距離にルミリアさんの顔がある。
「え、あの」
「大丈夫じゃ」
ルミリアさんはそのままゆっくりと顔を近づけてくると、コツン。と優しく額をくっつけてきた。
思わず俺は目をつぶっていた。
だが、急に体から触れられる感覚がなくなった。
警戒しながら目を開けると、視界に入ってきたのは全く知らない、どこもかしこも白く、どこまでも続いていそうな空間だった。
「ここ、は……?」
「ここは、聖獣の中でも特別力の強き物だけが持つ精神世界」
「精神世界?」
「ここにいる間だけは外よりも多くのことを考えることができる。今いる聖獣で使えるのは余だけじゃろう。そして、伝承にも残っていない以上、知っているのも余だけじゃ。本契約したとはいえ、ルカラ殿でも知らなかったじゃろう? ルカラ殿だから教えたのじゃぞ?」
イタズラっぽい口調で俺の疑問にそんな風に答えてくれるルミリアさん。
だが、その姿は見当たらない。
というより、
「ルミリアさんの精神世界なのに、どうして俺がいるんですか?」
「本契約したことでルカラ殿も巻き込める気がしていたのじゃ。じゃが、今まで必要性を感じたことがなかったのでな。試していなかった、という訳のじゃ」
「そう、だったんですね」
精神世界で考えることができる。俺の訓練の時にも一手一手長考できたってことか。
さすがにこれは俺も知らなかった。ゲームでは実装されていない機能だ。
そもそも聖獣の長しか使えないんじゃプレイヤーは使用できない。本契約してからは使えるみたいだが、俺の意思で使える訳ではないみたいだし。仕方ないか。
しかし、精神世界というのなら、ルミリアさんの姿もあってもよさそうだが、少し歩いてみても見つけられなかった。
「ルミリアさん」
「なんじゃ? ここでは魔法も使えるぞ? 試してみるか?」
「え、本当ですか? いや、そうじゃなくてですね。どうして姿を見せてくれないんですか? いない訳じゃないですよね?」
「そ、それはじゃな……」
どうしてか口ごもる。
なんだかずっと声が響いて聞こえていたが、急に背中に息が当たる感覚がある。
これは、いないんじゃない!
「キャッ!」
「ウェッ!? 裸!?」
俺が勢いよく振り返ると、普段出さないような声をあげてルミリアさんはしゃがみ込んだ。
普段着ている白いワンピースも身につけず、一糸纏わぬ姿で俺の後ろに立っていたみたいだ。
今は全身を隠すようにしゃがみ込んでいる。
「す、すみません」
「い、いや、いいのじゃこれくらい。そもそも余は聖獣。服を着るようになったのは極々最近で裸でいるのが普通じゃったのじゃし」
「赤いですけど」
「あ、あまりジロジロ見るでない。余もルカラ殿と過ごし、人間の生活に慣れて、何故か恥ずかしいのじゃ」
「すみません」
「ルカラ殿じゃから無事なのじゃぞ……それに、まだ色々と早いじゃろう。まだ……」
「すみません。本当にすみません」
俺はルミリアさんに背中を向けた。
「ここは精神世界じゃからな。衣服はないのじゃ」
「そうですよね。振り向く前に確認するべきでした」
「……本当によくわからないタイミングでは積極的じゃよな……」
なんだか小言を言われている気がする。反省しよ。
しかし、驚いた。俺も服着てないんだから気づけって話だよな。
でも、恥ずかしがられたが裸を見てもぶたれなかった。
てっきり全力の魔法とかくらって消し炭にされるのだろうと思っていたし、そんな光景が一瞬脳裏をよぎったが、俺は無事だった。
それに、俺だから無事だったということは、信頼されているということなのではないだろうか。
ルミリアさんには悪いが、一番の不安要素が解消されたということなのだろう。
なら、俺はもう迷わない。
「ルミリアさん。ここに連れてきてくれて、ありがとうございました」
「なんじゃ、まださして時間は経っておらんぞ。余が思考の邪魔をしただけじゃ」
「そんなことないです。俺、ここに来て覚悟が決まりました。俺、魔王を倒します。そのために、不和の森へ行きます」
「そうか。なんとなくそんな気はしていたのじゃが、そういうことなら余も力を貸そう。みなも快く協力してくれるじゃろう。今のルカラ殿ならば、きっとあの森も難なく抜けられるはずじゃ」
「ありがとうございます!」
さて、ここってどうやって出るんだ?
「ところで、その理由は余の裸を見たからではないよな?」
「え? ち、違いますよ!」
「そうじゃよな!」
いや、違うよ? 一部だけど。
「……なんじゃ? 平和な世界ですぐに子がほしいのか……? そうなのか?」
俺はルミリアさんに精神世界から出してもらってすぐみんなを呼び出した。
「話って何?」
「俺は、魔王討伐に行く」
事情を知らない全員の驚くような顔。それはそうだろう。
「え、ルカラが? どうして……? そんな危ないこと」
「この本をもらったからだ。この本には魔王の居場所やその周辺の情報が書いてあった」
「ほうそういうことだったのじゃな?」
「はい。なので、その前にある不和の森を攻略し魔王城へ向かう。俺、ルミリアさん、デレアーデさん、アカリ、アカトカで行こうと思う」
俺の言葉に名前を呼ばれた仲間たちは確かにうなずいてくれた。
「ユイシャたちは?」
「留守を任せる。魔物が来た時のために」
「みんなで行ったほうがいいんじゃ……」
「これは油断じゃない。信頼だ。ユイシャ、タロ、ジローにしかできない帰る場所を守るという最大の課題だ」
何が起こるかわからない以上。デグリアス邸を留守にする訳にもいかない。
アカリとアカトカ、そして、ルミリアさん、デレアーデさんはストーリー的にも必須と言える以上、任せられるのはユイシャたちしかいない。
「う、うん。ルカラが言うなら」
「アウ」
「にゃ」
返事を聞いて、俺は改めて魔王城攻略メンバーに向き直った。
「師匠。私たちも行っていいんですか?」
「ああ。もちろんだ。頼りにしてる」
「はい! 私の目的ですから、全力でやります」
「アカトカもな」
「これまでの感謝もある。それに、アカリの望みだ。力になろう」
「ねえ、ルカラ。ちょっと思ったんだけど、昨日までのことって、これから死ぬから最後にってことじゃないよね? みんなの期待に応えてたのってそういうことじゃない、よね……?」
不安そうなユイシャ。自分が痛ぶられるのは求めるのに、俺がやられるのは嫌なのか。
そんな優しさが今は嬉しい。
全員の視線が俺に集まる。死亡フラグみたいだって? 何、そんな他人の幸せを願うようなものじゃない。
「そんな訳ないだろ。あれは、俺がやりたくてやっただけだ」
「そう、だよね?」
「もちろんだ」
あの準備があったからこそ、俺は不和の森を抜けられる。はず。
「さあ、行こうアカリ、アカトカ」
「はい!」
「ああ」
「行きましょう! ルミリアさん、デレアーデさん」
「もちろんじゃ」
「うん!」
俺たちは荷物を準備して、魔王城目指して出発した。
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