第38話 屋敷へ帰ると……

「ただいまー」

「ただいま帰りました」

「帰ったのじゃー」

「グオウ」


 久しぶりの我が家。

 そして、みんなの出迎え。

 なんだか数日いなかっただけなのに、ものすごく久しぶりな気がする。


「おかえり……」


 あれ、ユイシャそっけない?


「おかえり、ルカラくん。試験どうだった?」

「えっと、ダメでした。あっはっは」

「え、ダメだったの!?」

「じゃが、卒業証はもらったのじゃ」

「ダメだったのにですか!?」

「そうなんですよ。私までもらえて、あと本も」

「なるほど……。でも、それならよかったねルカラくん」

「まあ」


 うーむ。卒業したことになっているし、よかったんだろう!


 それ以外の細かい説明はルミリアさんがしてくれるようなので、任せてしまうことにしよう。


 うん。今はもっと重要なことがある。

 ユイシャの目がヤベー。うつろだ。

 女の子と一緒に出かけてしかも、数日屋敷をあけたから、完全にヤンデレモードじゃないか。


「ユイシャ! あの」

「わたし、遊びだったなんて聞いてない」

「いや、遊びじゃない」

「じゃあ、あれはなに? ルミリアちゃんとアカリちゃん。あんなの持ってなかったよね?」


 そうか! アカリとルミリアさんはジェムを身につけてる。

 アカトカにすらあの後アクセサリーを買ってあげた。


「確かに、それどうしたんですか? ルミリアさん」

「これか? これはルカラ殿が余に送ってくれたものじゃ」

「え、ルカラくん? 試験を受けに行ってたんだよね?」


 そっちもか。ヤンデレって伝染するのか?


「もちろんですよ。ほら、これがその証拠です。先ほど話していた卒業証と本です」

「うん。嘘じゃないみたい。ユイシャちゃん。あれはきっとお土産だよ」

「わたしはそんなことのために留守を守ってた訳じゃない! デレアーデさんにその間鍛えてもらったんじゃない」

「ユイシャ……」


 お土産を渡すのが先だった。

 くそう。こんな時に万年友だちゼロによる対応力のなさが出てしまうなんて。


 今の感じだと誤魔化すとかは無理っぽいな。


「ルカラが本当にルカラならわたしを止めてよ! デレアーデさん。力を貸して」

「うーん。そうね。ここはちょっとアタシたちへの態度を改めてもらわないとね」


 いや、買ってきてはいるんだよ。しかし、今出しても焼け石に水。

 少なくとも、ルミリアさんとアカリの持つジェムレベルの代物じゃないって難癖をつけられるだけだ。


 いくら探しても見つからなかった。だが、しっかり効果のあるものを選んできた。

 まずはとにかく落ち着いてもらわないと。ここでデレアーデさんに恨まれるのは本気で困る。


「ルミリアさん。ちょっと落ち着かせましょう。ルミリアさんに差し上げたジェムは力が高まるんです。相手としてちょうどいいかと」

「なかなか肝が据わっておるな。じゃが、なるほどな。通りで力がみなぎる感覚があった訳じゃな。さすがルカラ殿」

「私の方にも何か効果が?」

「アカリの方は体力増強だ」


 二つとも壊すことで一時的に装備している時以上の効果が得られるが、今壊すのはもったいなさすぎる。


「うおっ」


 危うく黒い球が当たるところだった。

 おそらく魔属性の魔法。俺の背後の木に当たり、へし折れた。

 マジか。あれは人が死ぬ。


「卑怯じゃぞ! デレアーデ」

「卑怯ですか? ルミリアさん。戦いはもう始まっているんです」


 いつの間にかデレアーデさんの目もうつろだ。

 油断していると死ぬことになりそうだ。

 相手は俺の弟子であるユイシャと魔獣の長だったデレアーデさん。実力はティア学園受験生にも引けを取らない。


「アカリは下がってろ」

「でも」

「大丈夫だ。巻き込むわけにはいかない」


 アカリはうなずいて離れてくれた。


 先ほどの魔法、やばかった。鍛えてもらったという話は本当らしい。

 再度、魔法が飛んでくる。


「くっ」


 そして、間髪入れずにデレアーデさんの突き。

 魔法に意識を向けがちだが、デレアーデさんは別に肉弾戦ができない訳じゃない。


「あっぶな」


 完璧に連携の取れたユイシャの魔法による遠距離サポート。


「あたしたちがルカラくんのいない間何もしてないと思った?」


 くそう。たった数日だぞ。その数日でヤンデレパワーアップとかいうことか?

 まあいいさ。

 煽り男とワイバーンよりよっぽどやりがいがある。


 が、あいつらと違って二人に刃を向ける理由はない。


「おのれー。ルカラ殿ばかり狙いおってー。ルカラ殿、余はどうすればいいのじゃ」

「やっぱりルミリアさんも見ててください」

「何? しかし、一人ではあの力も使えんのじゃぞ?」

「二人は敵じゃないんです。少し考えましたが、傷つける訳にはいきません」

「考えがあるのじゃな?」

「はい」


 俺はデレアーデさんにゆっくりと近づいた。そして、間際で攻撃をかわしつつ、ユイシャに近づけるように距離を詰めた。

 ユイシャもデレアーデさんも見事なコンビネーションで攻撃してくるが、俺はギリギリで二人の攻撃を回避し続ける。俺は二人の攻撃タイミングを理解している。

 ギリギリまで接近したことで、デレアーデさんと俺の距離が近く、ユイシャも下手に魔法を打てない。


「どうして攻撃してこないの?」

「デレアーデさんにも聞こえてたでしょう。デレアーデさんもユイシャも敵じゃない」

「……」


 一歩でユイシャを狙えるところに迫ったタイミングで俺は二人に抱きついた。


「「え!?」」

「留守番お疲れ。ただいま。そして、ありがとう」


 こういう時は恥ずかしいが、ユイシャには身体接触、デレアーデさんも多分それがベスト。


 二人は俺の腕を引きはがそうとすることなく、ぎゅっと掴んでくる。


「おかえりルカラ」

「おかえりルカラくん。本当に心配だったんだよ?」

「心配かけました。でもルミリアさんもいましたしでも大丈夫ですよ。俺は帰ってきました」

「うん」


 二人とも少し落ち着いたみたいだ。よかった。


「二人にもこれを」


 俺はそこで買ってきたお土産を二人に渡した。


「いいの?」

「あたしにも?」

「もちろんです。大切にしてもらえると嬉しいです。あと、タロとジローの分もあるぞ」

「わわん!」

「にゃにゃにゃ!」


 みんな大事にしてくれるみたいだ。

 これでよし。誤魔化してないし、真剣に向き合った。

 いざこざの芽は小さいうちに摘んでおかないとな。


「ルミリアさんおわ」

「ルカラ殿。そこは余の場所じゃ」

「し、師匠、みなさんだけずるいです。私を褒める時はそんなことしてくれません。もう少し弟子に優しくしてもいいと思うんです」

「え? あ、あはは」


 結局、全員から対応改善を求められ、本を読むのは後日となった。

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