第37話 観光
「街って感じですね」
「だなー」
「改めて見てもすごい人じゃな」
「ですねー」
観光のためマンベスティーの街へ繰り出した俺たち。
デグリアス邸も家にしてはかなりの広さを誇り、働く人も多いが、やはり家は家。街を行き交う人の量と比べれば圧倒的に街の方が人は多い。
「すごい人。馬車。わあ! 綺麗です! 師匠、あのお店、綺麗なものがいっぱい並んでますよ」
「何? 本当じゃ! ルカラ殿。キラキラじゃ。行ってみるのじゃ!」
もうすっかりこの街にも慣れ、人の多さに圧倒されることも無くなったアカリとルミリアさん。
前日入りとかしないで当日入りの強行軍で試験をこなしたにもかかわらず、翌日にはこんな様子。体力がすごい。
ルミリアさんは俺から離れて露天みたいなものをアカリと一緒にのぞいている。
こんなところは二人とも普通の女の子みたいだな。
俺も見失わないようについていく。
「おう。お嬢ちゃんたち、お目が高いね。もしかしてティア学園の受験生か? なら、特別にお安くしとくよ? そこのお兄ちゃん。この子たちの兄かい?」
「兄だなんて、そんな、師匠は師匠です」
「ルカラ殿は兄などではない。ルカラ殿は余の」
「わあ! ちょ、ちょっと待とうか!」
「なんじゃルカラ殿。もしかして余が離れて寂しいのか?」
「そ、そんなところ、です」
「仕方ないのじゃ」
ルミリアさんはニッコニコで俺の腕に戻ってくれた。
見た目が小さな女の子なのに夫だの、旦那だのと公衆の面前で言われるのはなんかまずい気がして口をふさいだ。
が、ルミリアさんの見た目なら将来のことかと笑ってもらえるか。
なんなら俺の方が変か。
「なんだかよくわからないが、仲良しなんだな」
「そうなんです。ははは」
「そうじゃな」
「わ、私もです!」
「お兄ちゃんモテモテだな」
「ははは」
どうして、アカリまで。まあいいや、商品を見るだけだし。
まあ、変なことを載せられて口走られるよりはいいか。
あんまり聖獣と知れるのはよくない。会場ではなく受けるため、仕方なくな面もあった。
「どれどれ。ふむふむ」
仮にも貴族の家の子の俺はお小遣いくらいもらってきている。
どれも十分買えるが、ただの石ころにしか見えない。
俺に審美眼はないはず。なんでわかる?
そうか、気配か。気配探索の応用……か? あとは、ゲームでの見覚え……。
この店……。
「ルカラ殿?」
「ちょっと待ってください。二人に似合うのを見繕っているので」
この位置、この露天、多分日替わりで希少アイテムを売っている店のはず。だが、並んでいるものに珍しいものがない。
どれもこれもあまりもの。
ここはゲームと違うのか、売り切れてしまったのか。
「あの、私の分も選んでくださるんですか? ルミリアさんは分かりますけど、私はただの弟子ですし」
「買ってやるぞ?」
「そんな、もったいないです」
「いいって。受験に付き合ってくれたんだしな。こんな時くらい師匠に甘えておくべきだぞ」
「……! ありがとうございます!」
嫌な訳じゃないみたいでよかった。
でも、せっかく買うなら見た目がいいだけのものじゃもったいない。
この世界へ来てから、ステータスは見れないが、ゲームと同じような仕様をしている道具があったんだし、アクセサリーにも何か効果があるはずだが、どれも俺がゲームで愛用していたものではない。
でも、なぜだかどこかにあるような気もするする。何かに置いているものに覚えが……。
「おじさん。商品はここにあるので全て? どうもいいものが足りないような気がするんだけど」
「おいおい。目利きの真似事かい? 金はあるのか?」
「これで足りる?」
「……!」
俺がお小遣いを見せると、おじさんは息を呑むと黙って店の奥の方へと走って行った。
「何かあるんですかね?」
「どうだろうな」
商品の揃えにはなんとなくだが覚えがある。今日はおそらくラッキーデー。
おそらくいくつかの当たりの一つが、残ってくれていればもうけものだろう。
これは、何かある。
そんな雰囲気を纏わせ息を切らしながらおじさんは戻ってきた。
「これは一つ金貨十枚は下らない代物だ。兄ちゃんなら手が出るだろう? 出しておいて盗まれる訳にはいかないからな」
「おおっ! すごいですね」
「他のよりよほど綺麗なのじゃ」
ビンゴ!
二つのジェム。体力超増強と身体超強化のジェムだ。しかも、消費によってさらなる効果もあるアイテム。
魔王や裏ボス込みで役立つ超強力アイテム。今日はマジでラッキーデーだった。
「買った!」
「まいどあり!」
俺たちはジェムを買うと人通りの少ない場所まで移動した。
「緑のがアカリ。赤がルミリアさんのです」
「ありがとうございます! 一生大切にします!」
「余もじゃ。これがあればルカラとずっと一緒じゃ」
「ははは。喜んでもらえてよかった」
でも、どうしよう。一生身につけられるかはわからないんだよな。消費アイテムだから。
まあ、使いたくはないし、大丈夫だと思うけどね。
結局、本のことは何も思い出せず、帰りの日が来てしまった。
発表ではやはり、不合格。俺たちの名前はなかった。
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