第21話 魔法の特訓
「ルカラ殿ー。今日はどこ行くのじゃ?」
俺がルミリアさんと本契約してからというもの、行く先々にルミリアさんがついてくるようになった。
「……つまんない」
そして、デレアーデさんが不機嫌になった。
ほほを膨らませてジト目でにらまれることが多くなった。
そんなある日。
「ルミリアさん。今日はあたしがルカラくんに魔法を教える日です」
不機嫌なのに、デレアーデさんは俺に魔法を教えると言って聞かなくなった。
話が見えない。
「えー。いいじゃないか少しぐらい。なー、ルカラ殿?」
「ダメです。あたしがルカラくんに頼まれていたことです。ルカラくんがかわいそうです。ルカラくんはあたしに魔法を教わりたいよね?」
今、俺はつな引きのつなのように引っ張られている。
うーん。ルミリアさんとデレアーデさんは仲がいいと思っていたのだが、違うのか?
どちらにしろ、今の俺の目的はデレアーデさんに媚びを売ること。
「すいません。ルミリアさん。デレアーデさんがせっかく思いついてくれたみたいなので、教わっていいですか?」
「ルカラ殿がそう言うならいいのじゃ」
俺はルミリアさんに手を離され、そのまま体勢を崩してデレアーデさんの胸に顔をうずめた。
「始めよっか」
「お願いします」
聖獣、魔獣の扱う魔法は種固有。ゆえに、本来、人間は使えないとされている。
正直、不機嫌になった時はめちゃくちゃ焦ったが、それでも教えたいと言うなら、教わろう。
媚びを売るというだけでなく、身を守る手段は多いに越したことはない。
ルミリアさんを見ると、俺の腕から離れてからぽけーっと覇気のない表情で俺のことをじっと見ている。
いかんいかん。今は魔法を教わる時間だ。
「ようやく思いついたの!」
さっきまでの不機嫌が嘘のように、満面の笑みを浮かべながらデレアーデさんは言ってきた。
「俺はどうすればいいんですか?」
「人間が魔属性の魔法を使えないのは、体内に魔属性の魔法を使う準備がないからなんだよ。だから、ちょっと乱暴な方法だけど、ルカラくん一発くらってみようか」
「はい?」
デレアーデさんが背中を見せて俺から距離を取り始めた。
どうやら、俺に魔法を打ち込むらしい……何となくだけどそんな気はしてた。
「……でも、ルカラくんの魔法壁って厚すぎなのよね。弱めにしてあげたいけど、無効化されそう。そういえば誰かに打つのは久しぶりだし、殺すつもりでやってみようかしら」
なんだか寒気がしてきた。
ふと、今朝、鏡を見た時の感想を思い出した。
俺がこの世界に来て二年。だいぶ顔つきが俺の知るルカラに似てきた。
なんだか、破滅の道を避けられていない気がして不安になる。
これ、俺、死なないよな?
「いっくよー!」
「はい!」
もう、俺の才能と独学を信じて! 俺は防御姿勢をとった。
「ウッ!」
「おい! 容赦しないかデレアーデ! 大丈夫か? ルカラ殿!」
「ごめんなさい! さすがにやりすぎた。大丈夫? ルカラくん」
魔法をくらってから動かないでいると、ルミリアさんとデレアーデさんが俺のところまで走ってきて、傷を撫でてきた。
当たった時は痛かった。でも、今はなんともない。
うん。生きてる。
案外大丈夫だったし、手加減してくれたみたいだ。
「大丈夫です。ピンピンしてますよ。最初は誰だって痛いし、こんなものじゃないですか? ビシバシお願いします」
「「……!?」」
どうして驚いてるんだ?
いや、やっぱり殺すつもりだったのか? 訓練中の事故を装って。
もしくは、俺、才能あるある言われてる割に弱すぎるのか? 魔法抵抗力に関しても人より強いって話だったんだが……。
「……殺すつもりでやったのに、かすり傷程度しかダメージが入らないなんて。これはルミリアさんが目をかけるわけね」
「あの」
「いいわ! ルミリアさんより、あたしの方が魔法は得意だもの。もっとやってみましょう!」
「お願いします!」
「……でも、ここまで丈夫で才能もあるなんて本当にただの人間かしら……」
「どうしました?」
「ううん」
なんだろう。とても内容が気になる。
そんなことより、
「あの、俺の視界が暗いんですけど、どこから来るかくらいはわかってた方がいいんじゃないかと思うのですが」
「え?」
「おお。見事じゃな」
なぜか知らないが、気づいた時には俺の眼前に黒い板のようなものが浮いていた。
どれだけ動いてもついてくる。
これって確か、魔属性の魔法、ブレイク・シールドとか言ったはず。発動中は魔法も物理攻撃も吸収し体力を回復できる便利な魔法。
便利すぎて、使われた時は攻撃する前にしっかり解除しないといけないのだが、これが俺の前にあるのはどういうことだ? デレアーデさんが攻撃の後で俺にミスって使ってしまったのか?
意味わからんぞ? 吸収もありならさっきもつけておいてほしかったんだが。
「えーと……ルカラくん。それ、どうやって出したの?」
「へ? いや、俺出してないですよ?」
「いやいや、あたしも出してないよ。もしかして、ルカラくんって魔獣? だから、実は教えなくても使えたとか……?」
「そんなわけないじゃないですか。人間ですよ」
「でも、使えてるし」
「えーと……?」
つまり、今目の前にあるブレイク・シールド、これはデレアーデさんが出したのではなく、俺が出したと……?
離れていたデレアーデさんがまたも俺に向けて歩いてくると、ブレイク・シールドに触れ、それ以上進めない様子が透けて見える。
デレアーデさんが自分に使ったやつが、俺の目の前にあるわけではないようだ。
「あっ! ジロー! お前だろ?」
ご主人を守るために使ってくれたんだな? いい子や。でも、今は少し違うんだな。
とか思いながらジローを見るが、フルフルと頭を横に振って違うと伝えてくる。
「え、じゃあ……」
「だから、ルカラくんに聞いたんじゃん。どうやって出したの? って」
信じられないが、俺がブレイク・シールドを出したのか?
それが本当なら、ルカラ、相変わらずとんでもねぇ才能してやがる。
なら、意識すれば……。
「消えた」
手を伸ばし、力を抜いたら消えた。解除は魔法陣を飛ばす仮契約に近い。
これは、本当に俺が出していたらしい。
次が来ると思って使ってしまったのか。
しかし、直接使い方を見た訳ではないのに使えた。
ということは!
「ルミリアさんも打ってみてください!」
「いや、デレアーデ」
「大丈夫。だと思います」
「わかった」
ん? なんだか詠唱を始めた。
いや、ちょっと待って、長い。
これ、あれだ。ゲーム中最大火力も狙える。
「ちょ、待っ!」
「『セイクリッド・ルミナス・レーザー』!」
「痛い! 痛い痛い痛い!」
焼ける。体が焼けるように熱い。
ゲームだと演出カッケーとか思ってたけど、実際にくらうと眩しくて何も見えないし、怖い!
「バカな……」
服ボロッボロになったのに、俺は生きてる。
詠唱して、全力の最大火力。俺は耐えた。
そこからというもの、魔属性の最大威力を誇るダークネス・グラビティ・ボールや見栄え重視のファントム・ソード。その他、汚染、時間経過でダメージの増える魔法、影に潜む魔法、使用回数によりダメージが増加する魔法。などなど。
聖属性からは、光の剣みたいなセイクリッド・ソード、ありとあらゆる攻撃を反射するセイクリッド・シールド。光と同化する魔法、周囲の探索魔法、浄化。などなど。
魔属性、聖属性のありとあらゆる魔法を試し、自分でも一応発動はできることを確認した。
人間は使えないとはなんだったのか……。
「すごいよ! あとは反復、高速化、工夫、組み合わせ。どっちも使えるなんて夢が広がるね。そうですよね、ルミリアさん!」
「そうじゃな。聖獣、魔獣一体ずつはいなければいけなかったものが、一人でできるということじゃもんな」
「は、はは」
俺の手を取り、飛びながら喜ぶデレアーデさん。
いや、俺ちょっとすごすぎてついていけてないんだけど。
「これは、もっとルカラくんを知らないとね」
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