第2話 降臨 そして 再会?

 ──様。

 ──マザードラゴン様!

 おきておきておーきーてー!


 声にオレは目覚める。


 ここは森の中?


『そのようですねー。えっと、なんとか大陸の、なんとかの森ってところですね』

 全然わかっていないじゃないか。それにこの声は、頭の中に直接響いてきているのか?

『その通りです。ワタシもこの世界に直接干渉するとやばばばーなので、ちょっと頭の中にお邪魔させていただいてます。あと、マザードラゴン様の記憶が戻ってくれば、この世界で知らないことなんてありませんので、気長に思い出していってくださいね♪』


 その時。遠くから悲鳴が聞こえた。

『おっ! さっそくお助けチャーンス! 行ってみましょう!』

 なんだかよくわからないが、やればいいんだろ、やれば。

 オレは走り出す。

『ちょっ! もう少しゆっくり走ってください。大変なことになります!』

 そんなに早く走ったつもりはない。

 のだが、オレは景色を置き去りに、どこか見知らぬ場所に来ていた。後ろには炎のわだち

『マザードラゴン様はこの世界の頂点。最強の中の最強! つまり、さいつよなんです! 自覚してください』

 なんだ、さいつよって。


『とにかく、さっきの場所までもどりますので! えーい!』

 オレはシュンッとさっきの場所まで戻っていた。先ほどと同じ景色だが、違うのは、オレが走った方向の地面が大きく抉れたり、樹が倒れたりしているところか。これはいいんだろうか。

『あとでなんとかしておきます。ギリギリセーフってことで! じゃ、悲鳴がしたところへGO!』

 気を取り直して、今度はもっとゆっくりと。


『まだはやーい! でもついたー!』

 目の前に、緑色の肌をした、気味の悪い子供がいた。これが、この世界の住人か。ずいぶん痩せているな……この世界も荒れているということか。

『ちゃいます。全然ちゃいます。これ、ゴブリンっすね。人間はあっちっす』

 キャラが安定しないな、お前。

『なんか真面目にやるのが疲れちゃって。それよりあっちあっち』

 そんな真面目にやっているようには感じないのだが。ともかくオレは逆の方向を見た。


 ──なん、だと。


 その少女は……その少女を、オレは知っている。


『んー。そっくりだけど別人だねー』

 お前。またオレの記憶を……。


『ごめんて。勝手に流れてきちゃうんだから仕方ないっしょ。でも、マザードラゴン様がいた世界で死んだ人は、他の世界で転生することもあるっていうし、もしかしたらもしかするのかも。しらんけど』


 怯えて震える少女。

 オレが守れなかった、あの子。


 やり直せるのか。今度こそ、救えるのか。いや、救わなくてはならない。二度と……失ってはならない。


「危ないっ!」


 少女が叫んだ。


 ふいに視界が揺れた。


「……?」

「……!?」

 振り向くと、ゴブリンとやらと目が合う。今、こいつが何かしたのか。

 わかった。こん棒でオレの頭を殴ってきたんだ。全然痛くないが……死にたいようだな、こいつ。


『マザードラゴン様、だめだめだめ。殺しちゃだめだし、痛がらないと不自然だし。ほら、あの子びっくりしてるよ』

 少女は目を丸くしてパチパチとしている。

 くっ。制限が多すぎる。


『仕方ないなー。最初だけ、ちょっとお手本をみせたげましょ』

 意識が切り替わる。


「あーいたたたたー! なんてきょうぼうなもんすたーなんだー! おじょうさん、にげましょうー!」

 棒読みにもほどがあるだろ。

 確か聖女と呼ばれてたあいつは、オレの身体を動かして、少女の手をとって走り出した。

 ゴブリンは呆然と立ち尽くし、自分のこん棒をじっと見つめていた。



「ここまでくればだいじょうぶ! あぶないところでしたね、おじょうさん」

 オレが、いやオレの中の聖女が勝手にしゃべる。

「あ、ありがとうございます! わたし……もう、ダメかと思いました」

 少女は目に涙をにじませる。


 ところであのゴブリンって小さいやつは何なんだ。

『あー。ファンタジーRPGとかで出てくる雑魚モンスターっすね。でも、数が揃うと意外と危険なんですよー。繁殖期には女子供をさらって凌辱したり』

 ……なんだと。この子も、そんな目に遭うところだったというのか。

 ……殺す!

『だーめーでーすーってばーもう! こんなんじゃ世界すぐ滅亡しちゃうわもう』


「あ、あの、大丈夫ですか? あっ! もしや頭を殴られてたから……」

「あ、あー! そう、それでちょっとへんなんだ。はははー」

「大変! ちょっと傷を見せてもらいますね。ちょっと屈んでください」

 少女はオレの頭に異常がないか調べている。

「あれ……あんなに強く殴られていたのに、怪我がない?」

「あ、あははー。おれ、すごいいしあたまなんだぜ!」

 すごい石頭! それは無理があるのではないだろうか。

「本当に傷ひとつない……本当にすごい石頭です! でも、脳震盪が心配です。近くにわたしが住んでいる村があるんです。そこで休んでください」

「それはたすかるー」


 意識が切り替わる。


『あー、しんど。男の人の身体を操るのはたいへん。あとは流れのままに。任せますよ、マザードラゴン様!』

 Z……Z……Z。

 こいつ……頭の中で寝てるな。どうしろってんだここから。


「あ、あの? 大丈夫、ですか?」

「あ、ああ。ようやく意識がはっきりとしてきた。大丈夫だ」

「よかったです!」


 ああ。

 この笑顔だ。ちっとも変っていない。

 あの子とは違うのかもしれない。けれど、オレは見つけた。オレの救いを。

 この世界のことはまだ全然わからないけれど、この子を守れれば、それでいい。



 そう思っていたのだが……オレはここから、この子の数奇な運命に巻き込まれていくことになる。そのことを知るのは、もう少しだけ後のことだった。

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異世界に転生したら究極の力を手に入れたけれどそれがバレたら即終了な件 えす @es20

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