ロシ国がウクラ国に侵攻したらこうなった話
「総理!先ほどロシ国がウクラ国へと侵攻をはじめたと連絡が入りました」
陽元(ひもと)国の総理執務室に官房長官が浜田総理へと口頭で伝えた。
本来であるならば重大な情報の真意を確認し慎重に対応すべきところだが、今回に限っては不要だった。なぜなら数か月前から侵攻の現実味を確認し、数日前から決行時刻の情報まで伝わっていた。
全て同盟国のべー国諜報部から逐次入っている。
両国は黙って見届けていたわけではない。
ロシ国が東欧に集中している隙に北部領土に侵攻する計画を練っていた。
先の大戦のどさくさで占領され国境を引かれた不法占拠されている島々。
何度か話し合いで交渉を試みた。いや武力ではできなかったからだ。
当然ながらロシ国もそれを踏まえているうえに返還する意思が全くないのだが、外交上の武器として常に保持するほうが得策考え、特に産業も無いむしろお荷物と言って僻地の島を手放そうとしなかった。
自国なのに首都から飛行機で10時間以上も遠い、しかも本土からは相手国の近海沿いを船でしか行けない。
占領している体を保つため移民が生活しているが基本的に自給自足の生活をしている。
文明的な生活物資は月に一度の船便でしか届かない。
テレビ放送は数キロしか離れていない陽本国が普通に映るがロシ国語放送はビデオでしか得られない。
ネットも海底ケーブルが敷かれていない。
しかし両国にしてみれば重要な位置にある。
北部領土に繋がる諸島の先にはベー国の飛び地領土がある。つまり途切れていたものがつながる。
陽本国にしてみれば領海が広がり漁業はもちろん自国軍の領空も広がる。
つまりどうしても取り返したい。
ロシ国の侵攻も領土問題なのでお互い様の話である。
どちらに御旗があるとか正義の女神が味方にしているとかではない。戦争にきれいごとを並べても無意味なのは人類の歴史で繰り返されている。
「よし、それでは我々の計画を実行するときがきたな」
浜田総理は官房長官に向かって言う。
「それでは速やかに動かします」
官房長官はすぐさま執務室を出て行く。向かった先は国軍大臣とベー国軍の代表が待機している部屋。
今か今かと待ち構えている国軍大臣たち。
すでに準備は整っている、あとは現地の司令官に作戦どおりに実行することを命令するだけ。
「総理の決定がありました、お願いします」
官房長官の一言で大臣たちは一斉に動いた。
北部駐屯の海軍と空軍、べー国の海兵隊を一斉に作戦行動を始める。
海軍はロシ国の極東海軍港の制圧、空軍は遅れてスクランブルしてきた戦闘機の対応。
上陸は海兵隊中心に行うが、民間人しかいないので基本的に少数部隊による制圧のみ。
すぐさま制圧した港から陸軍の歩兵が市街地を占拠する。
作戦は予想以上にうまくいった。
元々ロシ国は極東に練度の高い兵士を配属させていない。しかも設備も旧来のを張りぼて状態で使っている前時代的装備のまま。
それはロシ国の完全な油断でしかない。
まさか現実に戦争が起こるとは思っていないからだ。
ロシ国にとってウクラ国侵攻は自国の領土奪還の内戦という位置づけ。西欧諸国に文句を言われる筋合いのない話と思っている。
さすがに無理筋ということも同時に理解しているが、強国なロシ国に武力で対抗するとは考えていない。
ロシ国にはエネルギー輸出国という切り札がある。
つまり輸出を止めればいいだけの話。
もちろん自国の利益は無くなるが、このチキンレースに勝つのは決定的。
最短で一か月、最長でも半年でケリが付くと。
どう転んでもロシ国の思惑どおりになると。
陽本国とべー国はその油断の隙を突いての作戦だったが、彼ら以外にも更に俯瞰して策をめぐらしている国がいた。
アジアの大国「花国」。
花国(はなこく)は先の大戦のどさくさで分離した領土「ダイワ国」の併合を画策していた。
陽本とベー国の侵攻作戦を秘密裏に知ったことで(陽本国はスパイ天国ともいわれるほどだが)利用することを考えた。
つまり隙を突いてこちらも侵攻してしまおうということだ。
元々自国の領土なのだからという建前が共通しているのだから、どの国も非難はできないはず。
もし対抗軍が来たとしても隣接する属国からミサイルを何発か打ってもらえばいいだけだ。
勝手にやったことだから無関係といってしまえばいい。タイミングが悪かったねと同情ぐらいはしてやってもいいいいだろうと。
そんな大国どうしの陰で小国たちが黙っていることはなかった。
最初に動いたのは花国の南に接している国々だった。
領海問題で緊張状態のある数ヵ国が同時に動いた。
そして軍政権となって混乱状態になっている国に隣接国が同時に侵攻をした。
つまり大国に接している国々がそれぞれの思惑で一斉に動き出したので花国は手が回らなかった。
ダイワ国を得たが近隣諸国との新たな紛争が始まった。
しかし反撃しようにも正当な大義が薄いうえに、陽本国とベー国が北部領土を制圧して余力を南方海域に展開してきた。
結果アジアの地図は一気に書き換わることになった。
さて最初のロシ国の侵攻だが、結果は前線の兵士に強毒性の新型ウイルスが流行ったことで撤退することになった。
後日判明したが、そのウイルスは人工的に創られた生物兵器だったのだが、どういった経緯で持ち込まれたのかは不明なままである。
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