被害者遺族リベンジ 加害者が社会復帰するのを待つ 国は一切関わらない暗黙の了解なお約束

 僕の仕事は表向き探偵として税務申告をしている。だけど実際は全く違う。

 業務内容は似ているが、例えるなら時代劇の仕事人というか仕掛け人というか。

 つまり復讐をしたい人の手助けを有料で請け負っている。

 我が国は復讐であっても犯罪になる。

 しかしある一定の条件が整えば遂行が可能となっている。

 それは加害者が刑期を終えて社会生活を始めていることと、復讐というか実際には仇討として殺人になるのだが、関係者以外に影響がない結果になること。

 つまり速やかに加害者の命だけを取り、現場周辺を汚さないとか風評被害とか起きないようにする必要がある。

 もちろん殺人なので報道をされるのだが警察は捜査をしない。

 加害者の死体の傍に指定の形式の文書で仇討と明記されたものを忍ばせる。

 警察はその内容確認と関係各所に連絡を粛々内々に進めるだけ。

 報道関係者には迷宮入りとして周知させる。

 記者たちも暗黙の了解で報道はしない。

 むしろ正義が報われて悪には正当な裁きが下りたと嬉しく思っているようだ。

 なぜそんな面倒なことをしなければならないのか。

 凶悪犯なら死刑にすれば済む話だが現実にはそうはならない。

 現行の刑法では4人以上の被害者か凶悪性が量刑に反映される。

 亡くなったのが幼児であっても同じ。精神鑑定なども減刑に影響される。

 でも被害者の家族にとっては関係ない話。

 なぜ死刑にならないのか、なぜ10年20年で社会復帰ができるのかが納得できない。

 被害者家族が生きているうちに自らの手で仇討をしたいと思うのは自然なことだ。

 しかし仇討殺人は犯罪だ。いくら同情的な理由であっても法治国家では認められない。

 では、どうして可能になったのか。

 単に職務怠慢という体(てい)で目をつぶっただけにすぎない。

 刑期を満了したところで順調に社会復帰ができるとは限らない。

 ほとんどが40代から60代で出所する。

 就ける仕事は限られる。多くは土木建築などの肉体労働や酪農などになる。

 それらは周辺に人が多くなく単独になる時間があるという条件が揃っている。

 もちろん都会の繁華街に身を沈めるパターンもあるが、逆に条件は豊富にある。

 僕の仕事は被害者家族が安心安全に本懐を遂げられるように段取りをつけるプロデューサーのようなもの。まあ監督、助監督、マネージャーも兼務しているが。

 仇討とはいえ殺人をするのだからもれなく初体験だしリハーサルなどできない。

 下手をすると逆襲される危険もある。

 被害者家族の中で誰が実行するのか、実行者の補欠はいるのかなど人数を決め手段を打ち合わせる。

 できるだけ自分の手で苦しませるのか、一瞬で消えてもらうか。

 一番多いのは被害者と同じ苦しみを味合わせてやりたいという感情が多いが、現実的に可能かを何度も話し合う。

 被害者家族にしてみれば一日でも早く実行したい。相手が何らかの事故で死ぬ前に、自分たちが元気なうちにということも考えなくてはならない。

 そして決行当日まで秘密裏に準備を整えて、終了して被害者家族のケアまでが業務範囲になる。

 料金は500万円を目安にしている。明細とスケジュールを提示して契約をする。

 ちなみに僕から営業をかけない。最初の手掛けた依頼人が被害者家族に伝えてたことで繋がっている。

 当初は僕も犯罪ほう助になるのではと思っていたが、親しい警察関係の人間から直接の依頼と言質を取っていたので決断した。

 あくまでも被害者家族が独断で決行したこと、僕のやっていることを利用しただけで直接関与をしていないということになる。

 だから被害者家族とは直接アポイントは取らないし、メールなどのやりとりはしない。

 原始的だがスパイ映画のように暗号メモのやり取りや、変装しての接触となる。

 ここで探偵としてのスキルが役に立つ。

 支払いは浮気調査の依頼料金としているので税務申告に問題ない。

 依頼は数年前から始まり準備をする。

 被害者家族が仇討を知り支払い料金を確保してからコンタクトが来る。

 加害者の服役場所、正確な出所日、身元保証人から生活拠点などを調べ上げ、いくつかの実行可能な手段を計画してから決行日を確定させる。

 今のところ仇討業務をやっているのは僕だけのようだ。

 一人の警察官僚と僕だけが始めたこと。なんとなく知っているであろう記者は忖度とかを天秤にかけている。新人記者に問われても都市伝説のように誤魔化しているようだ。

 やっていることは犯罪抑止にならないうえに、むしろ加害者が再犯を犯しかねない。

 でも死刑制度があっても凶悪犯罪は無くならない。

 それならば後始末というか犯罪のエンディングを平等に終わらせるのは道徳的に善ではと思い始めている。

 加害者は刑期を終えれば社会的に許されるが被害者家族にとっては一生続くこと。

 その時間を停止させることができるのが僕しかいないのでは。

 一つの仕事が終われば次の案件がすぐに始まる。

 戦争で敵とはいえ人殺しをする軍人も似たようなものだろうか。

 平和のようでそうじゃない国。

 

 

 

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